第12話 本当の強さ


爆炎の業火が二人を飲み込んだ瞬間、エリスは目を瞑った。


もう駄目だと思った。やがて伝わってくる熱を感じて焼け焦げるのだろう。


最期の瞬間、ふとエリスは昔の事を思い出した。




私たちが今より小さかった頃、両親との縁があり、子供の頃はよく遊んでいた。


近所の子供たちはそんな私たちを見て、よくアレクがいじめられていた。


アレクは大人しいものだから、嫌がらせを受けても平然としていた。


ある日、見かねた私は近所の子供たちとアレクの中に割って入っていった。




「アンタたち、アレクをいじめるのをやめなさいよ」


近所の子供たちは後に引けなくなって一人の少年が私を突き飛ばした。


不意打ちを受けた私は転んで尻もちをついた。


初めて男の子の力が強いと知った私は恐怖で動けなくなった。


近所の子供たちは、やりすぎてしまったと感じていたようだが、女がでしゃばってくるからだとして自分たちを正当化していた。




その時、私を突き飛ばした少年が悶え始めた。


アレクがその少年の左手首を掴んでいたのだ。


痛い、痛いと少年は叫ぶ。


「エリスに謝れ、そして二度とエリスにこんなことをしないと約束しろ」


アレクの眼は怒りに満ちていた


「嫌だね、、誰が謝って約束するもんか」


アレクの握る力が強くなり、悲痛に悶え苦しんだ少年はついに降参した。


「悪かった・・二度としないから手を離してくれ」


手を離し、少年たちは去って行った。


あれから近所の子供たちがアレクをいじめることはなくなった。




あの時、アレクが私に手を差し出してくれたことを今でもよく憶えている。


その時、私は知ったのだ。本当の強さということを


アレクは決して弱くはなかったのだ。




目を瞑りながら思い出していたエリスは、自分が焼き焦げていないことに気付いた。


ゆっくり目を開けると、そこには無傷のアレクが立っていた。

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