過去を想う10

 先を考えることができるようになって、僕はどうしようかと思った。今までは目的があって、それを果たすために頑張っていたが、もはやそれはできない。僕に残ったのは虚無感だった。しかしながらだからといって今の仕事をずっと続けるつもりはなかった。それに勉強もしたかった。

 ――せめて好きな事を勉強して、大学に行こう。

 今までは自分の事を後回しにしなければならなかったが、今なら勉強する時間もできたし、それに一番大切なものはなくなったが、せめて他の好きなことを究めようと思った。やりたくない仕事を続けるのは精神的にきついし、学んだことはあれど、けして良い環境とも言えなかったからだ。また結婚とかそんなのはもはや考えるような時期は過ぎてしまった。それに少なくともそれをやるよりも自分の道を自分で選び、頑張る方が自分にとっては幸せである。またもはやだれかを育てるようなことをするのは嫌だったのもある。大きい子供を何年も世話してきたのだ。自分の世話以外のこと以外をもはやしたくはない。

 そうして色々と調べ、去年に芸大に合格をした。もっとも試験などもなく、社会人向けのものであるから、社会的にみたときにどう判断されるかは分からないが。けれども好きな道を自分を選べるだけでも、今まで事を考えると全然違うのだ。選択肢があり、それを実際に選べるというただそれだけの事が非常に僕にとっても嬉しかった。そんな普通の事すら自分には許されていなかったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る