始まるよったら始まるよ

出店が並び、子供も夜の外出を許され、祭囃子と喋り声が響く日。

君は毎年必ずこの日に帰ってくる。この日だけ、ここに。

だからいつも待ってるんだ。ここで待ってるんだ。

君に会えるのが嬉しくて。


君は毎年どんどん綺麗になる。

そろそろ他の誰かに取られたっておかしくない時期だ。

君を見習ってイメチェンしようと思ってけど、無理みたいだ。

君以外は誰も見てないしまぁいっか。


キラキラした出店の群れの間を君と歩く。

君の瞳も一緒にキラキラ輝いてる。

「あれ楽しそう!」「これ食べたい!」

強く手を握ってきて、手を引く君。

りんごあめが食べたいって言う君。

買ってあげたいけど、ごめんね。今お金持ってないんだ。あの時落としちゃったから。

「大丈夫!自分で買うから気にしないで!」って毎年許してくれる君は優しいね。


出店の群れを抜け、道の脇に腰を下ろす。

買ってきたりんごあめや唐揚げを美味しそうに食べる君も可愛い。

今から君を忘れて、もう1回惚れ直したいぐらいだ。

時々こっちを見てヒソヒソ喋ってる人達は気にしないで。

きっと君が可愛いからナンパしたいんだよ。

でも怖気づいて話しかけられないみたい。

そうおどけてみせると、君は照れ臭そうに笑う。


ああ、もう終わりの時間か。終電がもうすぐ来てしまうらしい。

「まだ離れたくない」と言う君。

だめだよ。ここは田舎だもの。明日の電車は昼まで無いよ。

それに、ここに長く居たら他の人に何されるか分かんないよ。

君には未来があるんだから。

ほら、乗り遅れちゃ大変だ。一緒に走るから駅まで急いで!


駅に向かって走る足音が1つ。祭りももう終わりが近い。

良かった。間に合った。さあ乗って!

車掌さんが怪訝そうな目で見てるけど、いつものことじゃん。職務は果たしてくれるさ。


「来年も来るね」

来れたらでいいよ。待ってる。

行かないでって言葉は奥底にしまい込んだ。

発車ベルが鳴り響く。ドアが閉まって動き出す。今年もこれでバイバイだ。

悲しそうな君。そんな顔しないで。笑って。

またおどけて変顔をする。君は笑ってくれた。

そう、その顔が見たいんだ。

出来ればもっと近くで、もっと長い時間。

君に付いて行って、一緒に外に帰りたい。

でも、出来ない。ここから出られない。


だって、僕は、地縛霊だから。

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何も無い話 笹蛇 @sasahebi

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