3:出会いは唐突に

 高原の疑問の答えとなる出来事は、ほぼ一年前の三月末に起きた。


 通常の生物と構造的に僅かな差異しかないが、人間とその住処を破壊する事に特化し、尚且つ通常兵器の効かない特殊な生物。

 いわゆるディファルム、日本名で異形と対峙する為の組織、対異形機関。

 世界通称SDAの実戦要員は発足当時から常に不足気味で、人員不足が原因となって引き起こされた悲劇も時折生じていた。

 日本では自衛隊からの配置転換なども実行はされたが、そもそもの問題として『血』に適応する者が隊内には少なく、あまり数を増やす事は出来なかった。

 ここで言う『血』とは、過去の時代に生きた者達の遺物から採取された残留思念、とでもいうべき物を、特殊な手段で液体にした物体の事を指す。


 通常兵器の通用しない相手にはファンタジーだ。


 一笑に付されかねない馬鹿げた発想は、まず始めにギリシャ人の男が偶然から実現させ、彼の祖国を跋扈していた異形を蹴散らした事で一気に全世界で最重要の研究事項となった。

 共通の敵に対して人は団結する。とどこかの偉人が言ったように、各国でノウハウの共有を行った結果『血』の開発までは非常にスムーズに進み、SDAが正式に発足してから僅か十年で人体に対しての投与が可能な領域に辿り着いた。


 そこで、前述の適合者の問題が噴出したのだが。


 最初は志願者だけで構成されていたものの、そもそも適合するか否かのくじ引きを終えて残る者はごく僅かな事に加え、第一関門を越えても戦闘技能を行える程の力を持たなかったりと、すぐに実戦投入への壁にぶち当たる事となった。

 どのような取り組みを行っても、既存の防衛組織の人間の配置転換では追いつかない。そのような判断が為され、義務教育を終えた十五歳の子供達全員に検査を行い、適合者を強制的に入隊させて人員を確保する、批判が飛び交う事間違い無しの強引な手段が導入される結末となった。

 国も積極的に導入したくない手段だったが、異形の発生頻度が右肩上がりとなっていく現実が導入の決め手となった、との話だ。

 各方面から強い批判を浴びながらも、様々な取り繕いがあった事で、なんとかこの方法で人員の確保は叶いつつある。大体二千人に一人程度の低確率であるが故に、焼け石に水なのでは? といった疑問も根強いのだが。

 そんな『血』の適合検査を、中学を卒業し高校入学を待つ立場であった桜花も受けていた。

 ここ外崎市はかつての市街が『上位種』に属する強力な異形『ミズチ』によって壊滅し、人が住める範囲が大きく書き換わった現在でも強力な異形の出現頻度が高い故に、都心に存在する日本の総支部と変わらぬ設備が存在する。

 結果、市民は検査の為に態々都心まで遠出しなくても良い微妙なメリットがある。

 享受者たる桜花が受けた検査は単純な物だったがやはり緊張はする。

 しかし、医師の表情から考えると恐らく自分は外れなのだろう、と思うと緊張の糸が緩み、欠伸を漏らす。

「でっかい欠伸やのう。検査終わった組は羨ましいわ」

 振り返ると、ところどころ赤と茶の混ざった金髪に、耳に刺したピアスを始めとして、やたらとジャラジャラと装飾品を付けた、校則に全力で喧嘩を売りに行っている少年が立っていた。  

 中学の友人にして、この春からも同じ高校に通う事が決定している吉村大樹だ。

「気楽だぞ。外れくさいし、これで俺も無難な高校生だ」

「アホウ、めっちゃ金貰える職の試験に落ちて喜ぶなや。俺らの頭やと、一生届かん額らしいで」

 確かに適合者の給料は高額だ。両親も親戚もおらず、彼らの遺産を切り崩して生きている桜花にとって魅力的だ。しかし、流石に金で命は賭けたくない。

「給料云々より命張る仕事なんて、俺は嫌だよ」

「適当にやって適当に金もろたらええんや。どっかでゴネれば天下りって奴が出来るやろうしな」

「流石関西人、金儲けに関しちゃ頭回るな」

「おおきに。ま、俺は神戸出身やから安易に一緒にしたらアカンで」

 下らない言葉を交わしながら笑い合う。「あ」から始まる名字から検査は行われているので、桜花はすぐに解放されたが、大樹が解放されるのはまだまだ時間がかかるだろう。

 かと言って、外に出て時間を潰すと間違いなく大樹を忘れてしまうだろう。ではどうしようか。そう考える桜花に、当の本人から提案が投げられた。

「このまましとってもネタ尽きるやろ。桜花、お前この施設見学しとけや。俺らの頭じゃ理解出来んモンばっかやろうけど、話のネタの一つや二つでも見つかるやろ」

 確かにこの施設は非常に巨大で無駄に展示物も多い。学術的な施設にはあまり興味がない桜花であっても、時間潰しには使えるだろう。何度か頷いて、口を開く。

「なら行ってくる。適当に時間潰したら待ち合わせ場所で落ち合おうぜ」

「了解したで。なら、おもろいネタ頼むで!」

 苦笑しながら、桜花は施設見学へと踏み出した。


                 ◆


「何と言うか、よく分からん物ばっかりだな」

 一人で施設の三階から十階までの見学をしている桜花が、チョコレート片手にぼやく。

 因みにこのチョコレート、自衛隊やSDAの携行食とほぼ同じ成分で出来ているとの売り文句に惹かれて購入したが、顔を見るに彼の舌には合わなかったようだ。

 一般公開されている政府機関の建物での展示、で予測されるテンプレート通り展示物には特に心惹かれる物はなく、彼の中性的な表情は固い。

「大体だな、公に設立が公表されて、二十年ちょいしか経ってない組織の歴史なんて物を、どや顔で展示されても反応に困る。何でも歴史年表作っとけば誤魔化せると思うなよ」

 彼の言葉通り、対応策の発見の早かった事で陰謀論を張り巡らされているが、対異形機関とは、公式発表を信じるなら一番早く設立されたアメリカであっても三十五年程度、日本に至ってはたった十九、八年前という非常に歴史の浅い組織だ。そんな組織の年表を見て、面白いと言える人は希少だろう。

 退屈故に歩みも早くなり、見学スペースを一時間程度で一つを残して廻り終えてしまう。残るは十一階の「開発フロア」のみ。

 期待は持てそうにないが、大樹の番まではまだ時間があると判断し、桜花は十一階に踏み込んだ。

「……お、おお?」

 今までとはまるで違った光景に、思わず感嘆の声を漏らした。

 下の階はまさしく博物館、といった趣だったが、この階はまるで違う。例えるならば水族館のような鑑賞の仕方だろうか。

 強化ガラスの向こうでは、白衣を着た研究員と思しき人達が、台の上に置かれた物体に対して何らかの処置を行っている様子が確認できる。

 ノミで付着物を砕いて剥がし、エアブラシでそれを吹き払う様子は、昔図鑑で見た化石の発掘によく似ていた。

 隣の台では、除去作業が終わったのであろう物体に対して、何を測るのか、桜花にはさっぱり分からない機械を用いて測定を行っていたり、恐らくだが電気を流して反応を伺っていたりと、非常に興味をそそられる光景が、このフロアには広がっていた。

「全部こんな感じの展示にしたら良いのに。……それにしても、何にこんな事してるんだ?」

 疑問の言葉と共に周囲を見渡すと、壁に書かれていた答えが目に飛び込んでくる。

「伝承の武器の復活、か……」

 検査の前に係員から受けた説明が、脳裏を掠める。

 適合者、なる存在は英雄の血に対する適性を持った『演者アクター』と、歴史に名を刻んだ武器に適性を持つ『継承者インヘリター』の二つに分かれ、それらが重複する事は殆どない、らしい。

 武器自体の数から考えれば当然の話だが、数が多いのは前者で、今の日本の適合者では二名を除いた全てが前者なのだそうだ。

 世界中で様々な『血』が生み出され、日本では宮本武蔵などの『血』が主に用いられている。ユニークなところではかの有名なジャック・ザ・リッパーといった物も存在している。

 悪逆非道の殺人鬼の系譜を引っ張り出すな、との批判が噴出したせいで、日の目を見ることなくお蔵入りしたそうだが。

『演者』は、元となった人物が主として用いていた物の形を取る専用の武器『アクターズウエポン』を振るう事で、異形に対してダメ―ジを与えられる。前述の二名の『演者』ならば刀と短剣がメインとなる。

 対して『継承者』となるには、かつて実在し尚且つ現存している武器や、現存時のデータなどを用いて復元に成功した武器がまず必要となる。この時点で、数が少なくなるのは誰にでも理解出来るだろう。

 数少ない武器達と奇跡的に適合しても、その力は適合者の力量に大きく左右されてしまう。

「ハツオイイルハルの悲劇」というアメリカで起きた事件によって、その問題点が暴かれた為に、『継承者』は『演者』より入念な鍛錬の必要があると判断され、現在でも実戦に出られるのは世界的に見ても少ない。

 二人という日本の数字も多い部類に入る、とは先程見た展示のパネルからの受け売りだ。

「『雷切』と『人間無骨』だよな、日本は。そんなの扱えるってカッコいいよなぁ。俺は落ちたけど。……大樹が適合者だったら触らせてもらうのに」

 強い存在への憧れ、と言う少年らしい感情を含んだボヤキを漏らしつつ、桜花は強化ガラス越しに見学を続ける。

 復元を現在進行形で行っているのは中国の矛『蛇矛』と日本の刀『膝丸』であるとアナウンスされる。復元が成功した場合一度中国に戻される『蛇矛』はともかく『膝丸』は誰が持つのだろうか、と『継承者』の妄想を膨らませていると、見学スペースの突き当りまで来ていた。

 良い感じで時間も潰せたし待ち合わせ場所に戻ろう、そう考えた桜花だったが

「――ぃ、――えー―?」

 声が頭の中に聞こえてきたような気がして、足を止めた。

「気のせい、だよな?」

 真っ当な反応をしながら首を捻っていると、また声が聞こえてきた。非常に可愛らしい声だが、妙にガラの悪い口調だ。

「――な訳――! ――だが、――ないか」

 一度目より少し聞き取れる言葉が多くなった気がした。二度ある事は三度ある、に賭けてみたくなった桜花は、集中しつつ頭の中で呼びかける。

 ――あなたは一体何者ですか? 俺に何か用でも? 

「――来たか! ――ないが、――アタシの」

 途切れ途切れではあるが、意思疎通は出来ている。感心していると声は更に続く。

「――でしょうがないんだ。――自由にしてくれよッ!」

 真剣な口調に押され、胡散臭さを感じつつも、桜花は声の主に問う。

 ——自由にするのは良いんだが、俺は一体何をすれば?

「――は、――を出て――に――」

 ──すまん、もう一度言ってくれ。途切れ途切れで聞き取れない。

「×××××ッ!」

 ……女の子? がそんな事を言うなよ。

 呆れつつも、粘り強く何度も聞き直して声の指示を拾い、その通りに歩を進める。

 見学スペースを退出し、突き当りのトイレの一番奥の個室に向かい、天井を押し上げて天井裏へ侵入。スマホのライトを頼りに身体を這わせる。

「……あれ、たった今俺がやってる事って犯罪じゃないか?」

 今更湧き上がって来た疑問は言うまでもなく正解だ。ならば、非常に不味い。今すぐにでも中断して帰りたかったが、声の主が何者であるのか、どうして自分に声をかけてきたのか、などの疑問を解消したい欲望には勝てなかった。

「バレても刑法的には多分セーフだろ。俺少年だし、うん。社会的には絶望的にヤバいけど……」

 色々と怪しい理屈を胸に抱いて、桜花は記憶を辿って先刻自分が立っていた場所を目指す。

 指し示す物が何もない中での行動は困難を極め、延々這い続けて三十分。流石に疲れて、身体を床に張り付けた時だった。

「おー、来てくれたか。……しっかし、おっせーよ! もっとちゃちゃっと駆けつけてくれよな。アーサーなら出来たんだし、アンタも出来てくれなきゃアタシが困る」

「誰だよアーサーって……。というか、そもそもお前が誰だ。それに言われた場所まで来たのは良いけどさ、ここからどうすればいいんだ?」

「あぁ、それについては安心しろよ! ……今いる場所から三歩下がりな」

「下がったけど……?」

「よっしゃ準備万端、降りてこい!」

 気合いの入った叫びと共に目の前が光ったと感じた瞬間、自らの身体が謎の浮遊感を覚える。

「いやちょっと待ってくれよッ! つまりこれ、落ちて――」

 気付いた時にはもう遅い。浮遊感は消え去り、胸部に激しい衝撃。自分はどうもうつ伏せで床に叩き付けられたようだ、と理解するのと同時に光が消え去る。

「き、君! 一体――」

「御託は後払いだッ! さっさとアタシを取れぇッ!」

 目はまだ光量の激変に適応出来ていない。マトモに機能している聴覚が拾う多くの声は、異物たる自分に対する否定的な感情に塗れている。

 多数の声の波を割って聞こえてくる、自分を望む声に従って、桜花はどうにか立ち上がり、発信源に向けて走り出す。

 ここは建物の中、実際に走った距離は数メートル程度。だが、あまりにも激しく転がりまわる状況に翻弄されている桜花にとっては、数メートルが永遠に感じられた。

 走りながら突き出していた右手が、やがて硬質の何かに触れた。理屈なき反射で、桜花はそれをきつく握りしめる。

「これでアタシも自由だ、これからよろしく頼むぜ!」

 声を聞くのと同時にもう一度閃光が炸裂、周囲にいるのであろう人々が盛大な悲鳴をあげる。

 閃光が収束し、皆の、そして桜花の目がマトモな感覚を取り戻した時、周囲の人々が驚愕の目で自らの右腕を見つめている事に気づき、恐る恐るそちらの方に視線を向ける。

「よぅ相棒ッ! アンタ、名前は何だい?」

「……桜花。出灰桜花だ」

「……なーんか変な名前だな。ま、いっか。千云百年ぶりの相方なんだ。贅沢は言えねぇよな。心して聞きな、アタシはエクスカリバーだッ‼」

 エクスカリバー、の単語を聞いて桜花の中で時間が止まったが一瞬の事、彼女の名前を理解した桜花は万感の思いで叫ぶ。

「な、なんだってぇぇぇぇッ‼」

「おお、そんなに驚くってのは、やっぱアタシは有名なんだな」

 叫ぶ桜花はいつの間にやら現れていた、明らかに実力行使専門の匂いを漂わせる職員に引き摺られて行った。

「……おっそいなぁ。桜花にやる分まで食ってまうやないか」

 待ち合わせ場所で、土産用の菓子を齧りながら待つ大樹を置いてけぼりにしたままで。

 因みに彼は両方に適合しなかった、とは後で聞いた話だ。


                  ◆


 物騒な見た目の職員に引き摺られる形で、開発フロアから連れ出された桜花はそのままエレベーターに放り込まれた。地下牢にでもぶち込まれるのかと思っていたので、行先表示が上である事実に少し驚く。

「あ、あのー。俺これからどうなるんですかねぇ?」

 別に反抗の意思は無いですよ。そんなアピールを多分に含ませた問いを投げてみるが、殺されそうな目で睨まれただけで返事はない。

 よく見ると彼らの腰には銃がある。国の施設にいる人間が、モデルガンを携行する洒落はどこの国にも無いだろう。つまり役割は一つしかない。

 これから何をされるのかを想像し、冷や汗が止まらない桜花を他所に、彼の右手に握られたエクスカリバーと名乗る剣は軽い口調で言葉を返してくる。

 何で喋れるんだ、だのお前のせいでこうなったんだ! だのといった言葉は、不思議と出てこなかった。恐怖で全てが支配されているから、なのかもしれないが。

「落ち着けよ! なんたってアタシに適合したんだぜ? びっぷ待遇って奴になるかもしれないけど、殺される事なんて有り得ないって!」

「……今この状況でポジティブ思考なんて抱けないぞ」

「大丈夫だって! 泥船に乗ったつもりで構えとけよ!」

「大船だ。泥船なんて乗ったら沈む……うわっ!」

 エレベーターの停止と共に、職員の一人に突き飛ばされて外へ放り出される。本日だけで実に三度目の、床と友情を育む機会に震えていると、突如胸倉を掴まれた。

 混乱しつつも、そうしているのが神経質そうなハゲと認知した瞬間、引っ叩かれて視界がブレる。

言い返そうとしたが、相手の方が早かった。

「なにす――」

「なんてことをしてくれたんだ! これは国際問題だぞ!」

 国際問題。およそ中学を卒業したての人間には、当事者足り得ない言葉をぶつけられ、桜花は鼻白む。

「エクスカリバーがどれほど重要な物なのか分かっているのか⁉ イギリスの至宝なんだぞ! 然るべき力を持った人間が持たねばならない物なんだぞ! それをお前のような――」

 機関銃のように苛烈な罵倒

の弾丸を飛ばしてくる、眼鏡の言葉を整理していくと、このエクスカリバーとやらは欧米で適合者が見つからなかったので日本に持ち込まれ、自衛隊員や実力の高い『血』の適合者に対して検査を行い、適合者を見つける構想であったようだ。

 元あった国で適合する者がおらず、せめて忠誠心と実力を兼ね備えた人間と適合してコントロールするのが理想で、桜花はそれを砕いてしまったのだ。

 確かに、取り乱すのも理解できる。だからと言って、主題から離れた罵倒まで許容しろというのは無理な話。桜花が何か反論をしてやろうと思考を巡らせ始めた時、口上を遮ってエクスカリバーが言葉を発した。

「ガタガタうっせーよ。アタシの声を聞き取れなかったボンクラに、コイツをどうこう言う資格はねぇ。御託並べようと、コイツがアタシの相方だ。文句あっか?」

「しかしですね。貴女のように素晴らしい方のパートナーとなる者には格というものが……」

「桜花、アタシを抜いて天にかざせ」

「え?」

「かざした後に心の中で『ぶち抜け』って念じろ。鬱陶しいからちょっとしたパフォーマンスをしてやる。ハゲの言う事とか、今までの扱いを考えたら、建物に穴開けた程度なら無罪放免だからさっ!」

 物騒な言葉を放りだしたエクスカリバーに、ハゲも桜花も凍り付く。その硬直を解いたのは、奥の椅子にかけていた、特撮に出てきそうなオーラを纏った中年男性の咳払いだった。

「……ここの修繕費は民の税金で出される。無意味に民から搾取するのは、君の嘗ての持ち主は望まなかっただろう。非礼なら私が詫びよう。だから、矛を収めてくれないか?」

 静かな口調だったが、圧力を感じる男性の言葉に桜花はたじろぎ、エクスカリバーも言葉のどれかが琴線に触れたようで、黙り込む。男性は淡々と言葉を続けて行く。

「君はたった今検査を受けたが適合はしなかった。しかし、本来対象外の存在である『エクスカリバー』の『継承者』となった。判断は難しい、と思うかもしれないが、実の所は非常に簡単だ。我が国の『継承者』は二人、立花綴と浅川八千代だ。彼らが今どんな日々を過ごしているか、知っているね?」

 沈黙したまま首肯。その二名がどのような存在なのか、少ないながらもメディアでの報道を通じて知っている。そうなると次の言葉は容易に予想が可能である。

 

 自分がイエス、としか言えない事も。


「出灰桜花君、君も異形との戦いに身を投じてもらう。いきなり二人と同じ物を求めはしない。学生である間は相応の生活が送れるように配慮はしよう。……受けてくれるね?」

 静かな、だが有無を言わせぬ圧力を感じさせる男性の言葉に、桜花は首肯しか返せない。

 同意を返した桜花は契約書に署名し、手続きを行う部屋に行くよう告げられ、苦虫を噛み潰した表情のハゲに促されて部屋を退出する。

 自らの抱いていた、それなりに気楽で楽しい高校生活が霧散したことに暗澹とした物を覚えていると、右手に握ったままだったエクスカリバーから声がした。


「だいじょーぶだって! アタシの力が有れば、どんな奴だってボッコボコだッ!」

「お前が強くても、持ち主との実力差がデカ過ぎるんだよなぁ……」

 嘆きは、無機質な通路に吸い込まれていった。

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