**6話(4)**
さて、藤宮日軍基地には
寮の部屋数はわずかに2つ、共に2人部屋で定員は4名。
とは言えど、そもそも
日独所属は〝
一方、米軍所属の纏者はCVNf-EⅡ〝
その根幹である〝
藤宮日軍基地に4名を超える纏者の部屋は必要ない。
……当初の予定通り、
実際には〝Birthday-clothes〟には専属纏者の他に準纏者がいる。
即ち、
************************************
――
吾続 司 特務 准尉は日課になっている自主訓練を終えてシャワーを浴び、自分に割り当てられた部屋に戻って来たところだった。
下半身は下着の上に迷彩柄のハーフパンツ、上半身は完全な裸。
肩からかけた質の悪いバスタオルで乱暴に短髪に覆われた頭を拭きながら、開けっ放しの扉を
軍の、少なくとも纏者の専用寮には
いい加減、軍属となってから10ヶ月も経過すれば軍の流儀にもなれていた。
壁際の
一瞬だけそちらに視線をやると
ちなみに
対鵺、制電権の奪取と絶縁立体を構築し得る唯一の
今この時に至るまで、ツカサは一度も戦友Cの顔を見たことがない。
当然ながら生活を同じくすることもない。
そして、
軽度の食中毒で入院中。
健康管理は〝纏者〟の初歩的な義務である。
まして怪しげな
――最後のEigis、
ツカサ視点で
自分より背が高い。
というかかなり背が高い。
眼鏡をかけている。
黙っていれば美人。
1歳年上。
存在が残念。
剣術の達人。
最後の最後に現れた破格の
天に万物を与えられた女。
性格以外に非の打ち所がない人。
ただし、性格の残念っぷりに関しては筆舌に尽くし難いものがある。
ベルクリヒト・ローエングリンに呆れられ。
イェーナ・プファンクーヘンが
誰かが出流 龍起を
さて、藤宮日軍基地には
定員は4名。
年頃の女性としては一見、当然の反応である。
出流 龍起とイェーナ・プファンクーヘンは少なくとも表面的には抵抗したが、最終的に消極的に
その後に多少なにか揉めたらしいのだが、ツカサには詳細はわからない。
最終的に部屋割りは、双葉と出流、司とイェーナという形になった。
――問題が発生したのは3日目の早朝である。
具体的に何があったのはツカサは知らない。
出流は言おうとしなかったし、イェーナは頑として口をつぐんだ。
ベルクリヒトは発言を避け、何か言おうとした双葉は激昂した出流に殴り倒された。
模擬戦で出流が双葉に勝ったところをツカサは見た事がなかったのだが。
憤怒を通り過ぎて最早、殺意の
全纏者のうち白兵戦において最下位に位置する出流 龍起が、恐るべき怒りの金切り声を発しながら
その後、出流はイェーナに部屋割の交換を申し入れたがイェーナは抵抗した。
ここでもまた何かしらの
協議の結果、彼女らは1週間交代で部屋を入れ替える事になった、らしい。
(なお同時に
いずれにせよそんなわけで。
年頃の男女を同室にするというのは一般的に見て問題がある環境ではあるだろう。
だが軍と言う組織は一般的ではないし、軍人にも一般的でないことを求める。
約10ヶ月が過ぎた現在、ツカサは上半身裸を視られたり、見ても動揺しない程度にはなっていた。たとえそれが下半身でもまあ表面上平静を保てるだろう自信はある。
……内心でどう思うかはまた別の話ではあるが。
よって上半身裸でタオルを被って自室に戻って来たのも特に深い意味はなかった。
特段、特殊な行動ではない。
上半身裸など見られなれたし、相手も見慣れているだろう。
なのでイェーナが自分を凝視してくるのは想像の範囲外の反応だった。
居心地の悪さを感じ、思わず口を開く。
「……何?」
「ああ、いや。
「え、そうかな?」
感心したようなイェーナの言葉に、なんとなく自分の胸元と腕を見る。
が、特に実感はなかった。
元々アウトドア派のツカサは同年代でも割と筋肉量がある方だった。
軍属になって自主練を始めたと言ってもそこまでハードなものでもない、はずだ。
「いや、ついたってマジで。イズルも思うだろ?」
足を延ばしてはしたなく出流の脇腹を指先でつつきながらイェーナが言う。
「え、そう? イズルもそう思うの?」
「はい。訓練中に背中に張り付くので自分には良く変化がわかります」
『言い方』
イズルが淡々と言った台詞に思わずツカサとイェーナが同時に突っ込んだ。
色々な意味で恥ずかしさを覚えたツカサが、話題を変えようと視線を空中に投げる。
「——そういえば、双葉は具合大丈夫かな?」
ひとまず、そう深い考えもなく口にしたのだが、
「2度と戻って来なくていいです」
「いや殺しても死なないだろあれ」
特に出流ってあんな冷たい目できるんだ…、とツカサは愕然とした。
さすがに顔には出さなかったが。
「まあ。最低でもあと4、5日は戻ってきてほしくないです」
「あー、そういや今あいつ
「は、え? なんて?」
聞き流すはずがツカサは思わず聞き返していた。
どう考えても今おかしな
「あー、いや。だから発情期」
「ハツジョウキってあの発情期……?」
思わず訊ね返すと、イェーナは眉をしかめながら頷く。
「そ、生理に前後して5~7日くらい?
あいつケダモノかよってくらいサカるんだよ」
「サカるて」
「これ以上、説明させんなマジで……」
「あはい」
イェーナが視線で制してくるが、それ以上に出流の瞳が地獄の底のような色を帯びているのに気付いてツカサは口を噤んだ。
おそらくこれは続けてはいけない話題だ。
「あいつ
「なにそれ?」
「なにって、」
と返事をしかけてイェーナがしまった、という顔になる。
頬を指先で所在なさげに撫でながら視線を外し、声を低めながら続けた。
「……〝
ホルモン分泌を制御して生理を止めてんだよ、アタシら。
それに使うのがMCパッチ。
双葉だけは完全拒否ってるけど、まあアイツだから許されてるって言うか」
「へぇ、あ、いや、なんかごめん」
「謝られる方が気まずいからやめろ」
「あ、うん」
なるほど、彼女たちは自分の知らないところでそんな苦労を。
と
中学で性教育を受けたので女ではないツカサにもある程度の知識はある。
「——ツカサ、今、口に出して言えないような事を考えましたね」
「ああ、そういう顔してたな」
イズルとイェーナがジト目でこちらを見ている事に気づいて慌てて首を振る、
「か、考えてないよ?!」
「怪しい」
「なんでドモってんだよ」
「考えてません!!」
「まあ、からかうのはこれくらいにしてやるか」
「そうですね」
「君らさ……」
概ねこの寮内における
なにせ男女比実に1:4(※ベルクリヒト含む)である。
と、そこまで考えて疑問が浮かぶ。
「……そういえば、なんで男、俺しかいないんだろう」
「あ?
「はい、いいえ。
〝
そういえばツカサは厳密に言えば纏者ではありませんね、今も」
『あ、それやっぱり気になる?』
各々が呟く声の中、唐突に骨振通信の声が割り込む。
全員の表情に何とも言えない空気が漂う、声の主が誰かは問うまでもない。
『んじゃまあ今日の任務といこうか
『はあ。任務と言いますと』
『もちろん、ドライブだよ』
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実体としては尾行と監視に警戒しつつ、私用車で出流とイェーナを連れて
自動車運転免許を持っている司は、最近でも事ある毎に軍用車両を借り出して走り回っていたが、安全性の観点から(なにせ防弾処理やパンクレスタイヤの装備の有無が大きい)私用車の使用は基本的に推奨されていないことであった。
つまり極めてうさんくさい。
そもそも、尾行と監視に気をつけろとはどういうことか。
『——次の交差点を左折してください』
『周囲200m圏内に備考の影無し』
ベルクリヒトの周囲索敵の補助を受けつつ、3人は市内を移動する。
助手席が地図を持った出流、運転席の真後で後方警戒にあたるのがイェーナだ。
カーナビの類は付いていないし、そもそも使えない。
性質上、行き先を機械から読み取られる恐れがある。
ビルの地下駐車場、立体駐車場などを通り抜け。
遠回りと同じ道の往復を交えながら目的地に向かう。
辿り着いたのは市内からやや外れた位置にある高級マンション地帯。
地下駐車場に降りるとがらんとして
そもそもが建物自体がさびれた風であり。
ベランダに洗濯物の1つも見えはしなかったが。
周囲をそれと無く警戒しながら目的地である2
階段を上る、無人の通路を足音を殺して歩く。
ドアが開き、細い手が手招きする。
『こっちです』
ベルクリヒトの、骨振通信の声が招く、速足で駆け込みながらツカサは息をのんだ。
つまり。
内側に3人が滑り込み、ドアが閉じられる。
鍵がかけられ、ストッパーとチェーンがなされる。
一息つき、自分たちを招き入れた少女に視線を転じる。
そう、少女だ。
しかも見覚えがあった。
「セミ子さん?」
「セミ子て。オルトルートだろ」
「はい。はじめまして。……
ツカサが、イェーナが、イズルが各々感想を口にする。
ちなみにツカサはドイツ語がわからないので名前を名乗ったのは知らなかったが。
「どうも。オルトルート・ヴァインライヒです。
それとはじめましてではありませんよ、イズル」
「え」
「あークソッ、やっぱそうかよそうじゃないかって気はしてたんだよ」
「え?」
イェーナの唐突な問題発言にツカサが眉を寄せる。
「え、どういうこと?」
「ようはこいつがベルクリヒトだろ」
「はい。さすがに付き合いが長いだけの事はありますね」
イェーナがあきれたように口にし、
「えぇ?! そうなの? ていうかなんでわかったの」
「オルトルートつったら〝ローエングリン〟に出て来る魔女の名前だろ。オペラの」
「知らないよそんなの」
「知っとけよ教養がねぇな」
「日本人にそれを求めるのは酷かと。
というかイェーナの知識も大概偏っていると思いますが」
「そうか?」
「――とりあえず奥へ」
促されて奥へと足を進める。
会話に取り残された感覚なのか、イズルは終始不服そうだった。
部屋はどこにでもあるマンションの一室という空間。
昼間だというのに分厚いカーテンが閉め切られているのが印象的だった。
そして、直径2mほどのそれが部屋の中央に鎮座していた。
ごくりと息を飲みながら、ツカサは言葉を吐き出す。
「人をダメにするクッションだ……!」
「いやなんで興奮してんだよどう考えても注目するのそっちじゃなくね?」
「はい。欲しいです」
「欲しいよね……」
「だからそっちじゃねぇだろ……、埋まってる方に注目しろよおまえら」
あきれた口調で吐き捨てながらそれでもイェーナには油断がない。
実際のところツカサとイズルも言うほど弛緩しているわけではなかった。
3人の正面、部屋の中央には大きな球形のビーズクッションが置かれている。
問題なのはイェーナが言うようにそれに埋まっている人物。
同じく少女、見た目の年齢は10代前半に見えるオルトルートより上、イェーナ達よりは下と言うところ、つまり10代半ばくらい。
ピンクのスウェットというなんともコメントしがたい服装でクッションに
3人は軽口をたたきながらも油断しておらず、だからこそ対応に苦慮していた。
話しかけるべきか、とりあえず制圧すべきか。
視線だけで意思疎通を図り意見を交換する。
この場、この状況に及んではベルクリヒトを無条件に信じていいかは迷われた。
骨振通信でなら相手に知られないと考えるのはさすがに甘えが過ぎるだろう。
少なくともこの目の前の謎の少女も骨振通信を傍受できる可能性は疑うべきだ。
3人が数秒、そうやって意見を交換していると。
お盆に人数分のマグカップを乗せたオルトルートが無表情に戻って来た。
姿がいつの間にか消えていたと思えば飲み物を用意していたらしい。
3人の視線の先、クッションに埋まった少女を無表情に一瞥したオルトルートは。
「いつまで唸っているんですか」
「おうっ゛」
無造作に蹴りを入れた。
割と本気っぽかったその一撃で少女が横転し床に落ちる。
鈍い音がした。
――というか顔から落ちた。
「自己紹介くらいさっさと済ませてください。話が進みません」
「蹴る事ないでしょ! オルトはちょっと乱暴過ぎると思う!!」
がば、とでも効果音が付きそうな勢いで起き上がった少女が、鼻を押さえながら文句を言う。
オルトルートの無言の冷たい視線にさらされてすごすごと謎の少女はクッションに座り直し、半眼で、ドヤ顔で、3人を見回しながら薄い胸を張って、言った。
「どうもどうも。
私の名は
敬え!」
「……」
「……」
「……おいベルクリヒト」
「残念ですが割と事実です。潔く諦めてください」
『えぇ……』
************************************
隣室から直径2mの人をダメにするクッションが4つ運び込まれ、部屋の中央に円を描いて5個並べられたところで改めて会話は始まった。当然全員が座った。
「ええっと……、あっこれダメになる。欲しい。じゃなくって、
……イナセハギノミコト、さま、ってあれですよね、国造り神話の」
「ハギで良いよ、長いし、呼び難いでしょ、ハギちゃんでも可」
「めちゃくちゃフランクじゃん神」
「まっね、そら
「あ~~~……もふ……もふ……」
「駄神の呼び名はどうでもいいです。真面目に話を進めてください」
「ダ神言うな?!」
イズルはダメになっていた。
あと
「ええっと、本当に神様なんですか?」
言外にとてもそうは見えないんですけど、という雰囲気を滲ませて(隠しきれなかったようだ)ツカサが問う。
「
まあこの国の成り立ちにかかわってるって意味では、そう。
厳密に、というかもっと妥当な表現をするならちょっと違うんだけど」
「というと?」
「アイアム未来人」
「――ベルクリヒト?」
「そこでこいつ正気か?という顔をされても困ります。
認め難いのはわかりますが、困ったことに一から十まで事実なので」
「まじかよ……」
「はい。まじです」
「もふ……」
「……まあ、Eigisって物凄く異質だよなってはずっと思ってたし。
妥当と言えば妥当というか、納得できると言えばできるんだけど」
もうちょっとこう、色々あるでしょ。
という顔になりながらツカサは
彼女はわざとらしく肩をすくめてそれに応え、首を横に振った。
「ハギは西暦3412年から時間遡航で過去に渡り、この国の成り立ちに干渉してきた未来人です。非常に認め難いと思いますが事実なので諦めてください」
「西暦?」
「はい。もともとの
「いやまあ待てよ。Eigisとか
イェーナが目を細めながら首をかしげる。
「いわゆるあれ、タイムパラドックスとかはどうなってんだよ?
いやまず未来人だってのが信じ難いんだけど正直」
言いながらもイェーナも未来人だとかいう馬鹿話を、それでも疑う気はなかった。
すでに鵺伍号まで、5体の鵺と遭遇し彼女たちはそれを倒している。
いっそ薄気味悪いほどに未来を言い当てているそれは、なるほど未来人がもたらしたと言う方が納得がいくし、逆にそうでなければ整合性が取れない。
「ないよ。俗に言うところの〝タイムパラドックス〟は起こりえない。
やれやれいやだねこの時代の人類は無知――おっふ゛
「イェーナ、蹴らないでください。一応それ重要人物なので」
「さっきおまえも蹴ってたろ」
「それとか言うなし?!」
クッションに座り直してハギ、
神秘性というかありがたみというか、ない。
重要人物にはとても見えない。
「えっとね時間というのは、凄く雑に言うと川なんだよ」
「川?」
「そう、
宇宙の始まりという源流から、宇宙の終わりという海に続く川、それが時間」
ハギの言葉にイェーナはうん、と1つ頷く。
「ああ、イメージはしやすいな、それ。
けどタイムパラドックスが起こらないって説明にはなってなくないか?」
「う~ん、だからさ。
水の全量も、川の流れの上に浮いてるものも。
水の流れが変わったところで消えたり無くなったりはしないんだよ。
その辺の担当者は因果率の完全収束性とか言ってたけど。
……正直、私もニュアンスでしか理解してないんだよね」
「いや、理解しとけよそこは……?」
「あのねぇ、イェーナちゃん。
時間移動って本質的には物理運動と同じなの。
重いものを長距離運ぶにはたくさんエネルギーが必要でしょ。
効率よく長距離移動するなら軽い方がいいというか、重いと無理なの。
情報と
テーブル上からアイスココアの入ったマグカップを取り上げ、傾ける。
そうやって一息ついてからハギは口を開き直した。
「まあそんなわけで対鵺用の知識とか。
大まかな時代変化とかに関する知識しか私はそもそも持って無いんだよ。
もうちょっと細かく言うと、非接触給電、物質転換炉、あああと常温核融合か。
その辺の技術と、歴史に関する情報かな」
「? 待ってください、〝
ツカサの問いに、ハギは薄く笑ってマグカップを振り回す。
「や、無理無理!
あれはこの時代に知識持ち込んで作れる
Eigisの本体、その
――だから調整は効かないし、適合するのは
うん、そう、今日来て貰って、私が正体を明かしたのはまさにそこなんだけどね」
薄く、角度によって虹色の光をその眼球が帯びて輝くのを、ツカサはハギが改めて自分を見つめるまで知らなかった。
人のものでない瞳の色、未来人、その少女が初めて説得力を持って
「――
君は
にもかかわらず君は
……何故だと思う?」
「何故、って」
そんなこと、ツカサにわかるはずがない。
イズルにも、イェーナにも、おそらくはベルクリヒトにもわかるはずがなかった。
唯一、それをこの場で理解できるであろう
「――きみがイズルを選ばなかったから、だろうね」
「はい?」
よくわからない話題転換にツカサは思わず声をあげ、イェーナは眉をひそめた。
もう1人の当事者であるイズルはダメになっていて。
ベルクリヒトは相変わらずの無表情、何を考えているのかわからない。
「次が
残すところ最後の第八夜まであと2体。
問題なのは前回、
場に、沈黙が満ちる。
イェーナ・プファンクーフェンが真剣な表情で口を開く、震える声で。
「待て、ちょっと待てハギ。
おまえこれ、何回目だ?」
「3回目だよ。
1巡目の世界では人類は辛くも勝利したけどドン詰まりに陥った。
だから私が生み出されたわけだけど。
私は過去に飛んで2巡目の世界にEigisを持ち込んだけど、派手にやり過ぎて勝ったはいいけど人類同士がEigisで戦争をはじめちゃったんだよね。
だから
「……あるっちゃあるけどもういい。
それで? 2巡目に居て3巡目に居ない
タイムパラドックスは起こらないんじゃなかったのかよ」
イェーナが苦虫を噛み潰したような表情で先を促す。
彼女にはゲームのように
必要性も否定はできない、否定する言葉はそれこそ思いつかなかった。
「うん。
その
つまり
「――え?」
「はい?」
「……まじかよ」
ツカサが絶句し、ダメになっていたイズルが振り返り、イェーナが片手で顔を覆う。
「そこで因果律の完全収束性の話に戻って来るんだけど。
ツカサ、きみが
逆説的にBirthday-clothesを動かし得る、という可能性、
そもそも前回で言うと出流龍起もBirthday-clothesとの適合率は低かったし。
あくまできみたちが揃う事で縁に相当するということなんだろうね」
「そ、」
「まあ、それはいい。
問題は縁が有していた
あれをきみが、きみたちが、いまだに起動できてないってこと。
場に沈黙が満ちる。
「――今回は負けるかもしれない」
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