**5話(3)**
Date://AI2798-03-14-15:43
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項目:記録/皇紀2798年/対鵺戦闘
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>>許諾
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名称:鵺壱号
形態:合成獣/人型
雄鶏の様な頭部、猿の様な四腕、犬の様な獣脚、蜥蜴の様な尾
備考:四腕の先端部、五指全てに強力なプラズマ爪を発生
対応:全騎による包囲殲滅
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名称:鵺弐号
形態:合成獣
蛙の様な頭部、蜂鳥の様な胴部/翼部、蜘蛛の様な脚部
備考:極めて高い飛行能力、機動力を有する
蜘蛛の巣状の防壁を張り巡らせ距離を取る事に徹する
脚部の爪、及び防壁に内没した棘に神経毒在り
対応:出現位置誘導からの包囲殲滅
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名称:鵺参号
形態:不定形
液体の様な不定形の形態
備考:構成体の大半はダミーでありほとんどの攻撃を無効化
接地後、地面を食い破り増殖、地下から分体による飽和攻撃を行う
対応:出現と同時に
接地前に斥力障壁で上空に打ち上げ、
両騎を加えた三騎編成による複合斥力障壁で隔離、圧縮
露出した核体を
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名称:鵺肆号
形態:結晶体
水晶の様な結晶質の多面体
備考:出現と同時に爆散、破片は周囲の物体を取込み増殖する
鵺弐号に形態は近似するもこちらは核体がなく、全てが本体で
――不意に。
背後から柔らかく抱き締められ、オルトルート・ヴァインライヒは硬直する。
それに気づいた背後の何者かがそっと頭を撫でる、恐れる必要はないとばかりに。
何故か、〝
それに気づいた瞬間、強張っていた彼女の身体から緊張の芯が抜ける。
〝竜剣〟の自衛反応をこうも完全にすり抜けられる人間は一人しかいない。
それに気づき、腰に回された相手の腕をそっと解いて1歩半踏み出し、振り返る。
「……サクラ、驚くので辞めてください。
〝竜剣〟の自衛反応に殺されても知りませんよ」
振り返るとそこに、想像通りの顔があった。
肩口で雑に切り揃えられた髪、半眼に見える笑みを添えた瞳。
良く顔を知った日本人。
「え? でも最近、〝竜剣〟に攻撃されたことないよ」
された事がない、ではなく、されないのだ。と説明するのは面倒だった。
もう何回も説明しているのに一向に彼女は覚えない。
そもそも防衛反応を物ともせず、傷つこうがスキンシップを止めないのだけれど。
あまりにも懲りないので彼女の〝
……
そのせいで
……危機管理と言う面で言えば論外、なにせ彼女はその気になれば、不意打ちでオルトルートを殺し得る唯一の人間になったのだから。
「サクラは同性愛者なのですか」
「いや別に。
私が好きなのはオルトルートであって、女の子じゃないよ。
あれ、この話、何回目だっけ?」
「17回目だと思います。
その”好き”は――」
「
この問答もはじめてじゃないよね」
真っすぐに、迷いの無い
3回目です。と息を吐いて。
オルトルート・ヴァインライヒは3度目の呆れ顔を浮かべた。
どうしょうもなく触れたくなり、傍に居たいと感じる
他の誰かと仲良くしている姿を見るのが苦痛だとも言っていたか。
オルトルート・ヴァインライヒには理解できない心理だ。
好き、はわかる。
嫌い、もわかる。
だが
知識としては知っている。
生物学的に
実感はない、実感した事もない。
気が付けば
必要も必然もなく、触れたいとも傍に居たいとも思わない。
他の誰かと仲良くしているのを見て不機嫌になる事もない。
――好意を向けられること、それ自体に不快さはないにせよ。
「……まあ、私も
「日本語って難しいよね。……違うのはわかってても嬉しいけどさ」
そうですか、とつれなく返事をしてオルトルートは灰色の空を見上げる。
本日の降水確率72%、雲はわずかに暗く染まり雨の気配を見せている。
「それで、何か用ですか?」
「いや特に。会いたかっただけ」
「またそれですか」
溜息を一つ。
毎度のことながら、理解できない感情を向けられるのは対処に困る。
「じゃあ世間話でもしよう。
ええっと、そうだな、——そういえばイズルは?」
「月命日です、ツカサの。
墓参りですよ、いつもの事だと思いますが。
忘れていたのですか?」
「あー。ていうかあの子もマメだよね。
年1で良いだろうにさ」
「それだけ大切なのでしょう。
あなたは行かなくていいのですか、サクラ」
話題を向けると、サクラはわざとらしく肩をすくめる。
「それこそ年1だよ。
――もう7年だよ? いい加減なれるというか」
「そうですか。
確かになれるかもしれません。
私が死んでも7年もたてば整理がつきますか、サクラ」
興味が湧いたので尋ねてみて、失敗したと気づいたのは3秒後。
「——そういうの、やめよう」
「ごめんなさい」
いたたまれなくなって視線を
いくら自分が朴念仁でも、今の問いはあまりにもあまりだった。
視線の外で、サクラが身じろぎしたのがわかる。
振り返るまでもない、サクラもまた同じ墓標に視線を落としている。
「そういえばオルトも墓参りか。
……半年、か。整理はついた?」
「……そうですね、それなりに。
それなりに長い付き合いでしたから。
それなりに思うところもありますよ」
墓標に刻まれた文字を追い、心の中で呟く。
――
「——祖国に送ってあげるべきだったかもしれませんね。
それこそ今更ですが」
「別に。良いんじゃないかな。あの子もここで良いと思ってると思うよ」
「そうですか?」
「あんまり
その光景が端的に言って想像できない。
だが、そんなものなのだろう。
半年も経ってから知るのも含めて、きっとそんなものなのだろう。
「……結局、新しい
次が第七夜、
「長かったような、案外と短かったような……
残すところあと2体か。
これ以上、
彼女の呟きが、言外に「死なないでくれ」と言っているのは。
ああ、本当に。
もう誰も死ななければいい。
だが運命はあまりにも容赦がなく、苛烈だ。
あの死にそうにもなかった
それも交通事故などと言うくだらない理由でだ。
死はいつも、どこにでも
渥美が死に
440の責任者になり、自分は
――あと2体。
それで、全てが終わる。
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名称:鵺肆号
形態:結晶体
水晶の様な結晶質の多面体
備考:出現と同時に爆散、破片は周囲の物体を取込み増殖する
鵺弐号に形態は近似するもこちらは核体がなく、全てが本体である
吸収可能なのは基本的に常温で固体であるもののみと推定
対応:水銀プール内に出現を誘導、高圧下で爆散を阻害、包囲殲滅
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名称:鵺伍号
形態:ガス体/霧状の群体
備考:ほとんどの物理攻撃に耐性を有する
電波、音波を解析し周囲の情報を汲み取る機能を有していると推測される
対応:周囲の情報を吸収するという性質を利用しウィルスを用いて自壊させる
別途、資料#440-N-27-98-11-05V を参照されたし
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名称:鵺陸号
形態:昆虫型/蜂に類似
備考:出現時は体長15mmほどで蜂の様な姿をしている
最初に接触した生物の体内に寄生し、人間を最終宿主として寄生先を変え移動
人間に辿り着いた後は分裂し複数の人体内に潜伏する
対応:出現直後は極めて脆弱であるため、出現と同時に殲滅する
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名称:鵺漆号
形態:完全な人型/人間への擬態
備考:脳細胞電位の読み取り/読心能力を有する
対面者の記憶を読取り最も攻撃し辛い相手に擬態する
[****検閲済****]に擬態する可能性が高い
またEigis及びその能力を模倣するため長期戦は危険である
対応:
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名称:鵺捌号
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――雨音にかき消されそうな
「■■■!」
その名を呼ぶ声は雨音にかき消され、〝
だが、何と言っているのかは容易に想像できた。
人の心を読み、思い出を汲み取り、擬態する。
悪趣味極まる怪物。
〝
「■■■■■■——」
彼女の名を呼ぶ、古い名を。
渥美が死んだとき捨てた名を。
イェーナが死んだとき呼ぶものがなくなった名を。
「馬鹿らしい。
あなたは私をその名で呼んだことはない」
『イズル、やりなさい。
——やれ! それがあなたの義務で仕事だ!!』
骨振通信を通じて叫ぶ、命じる。
それが
全ての罪は私がかぶろう、だが刃を振って血に汚れるのは彼女の
ああ、できるなら代ってやりたい、これはあまりにも酷だとわかる。
あまりにもそれは酷い運命の仕組み。
だがそれしか手はない。
代ってやることはできない。
――イズルが、
真紅の電光が腕に絡まる。
生み出されるのは
――”
幕切れはあっけなかった。
一閃、それで全て事足りる。
『——対象、〝鵺漆号〟の形象崩壊を観測。
結界崩壊まで残り23秒、カウントアウト。
展開終了。……お疲れさまでした、
ピー。
脳内に響く電子音。
――
ああ、これで最後。
ほんとうに、最後の夜が来る。
網膜投射された最終項目に視線を走らせる。
「……ふふ、はは。ははは、は。
なるほど、これは最後まで見せられないはずです。
これが最後の、そうか、そういうことなんですね」
我知らず笑っていた。
雨の中で立ち尽くしながら
運命はいつだって優しくないし。
死はいつも、どこにでも
だからこれは仕方のない
――ああ、そうだ。ついに自分の番が来たのだ。それだけのことだ。
「……ごめんなさい、サクラ」
恋も愛も、
だが、それでも
これは酷い、あまりにも手酷い
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「……こんな
私はこんな
最後の
――故に、
よってここに、
そしてまた、約束された流星が降る夜が来る。
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