第5話
気がつくと病室に寝ていた。
話によるとコンビニ店員が救急車を呼んでくれたらしい。
そして、索条痕に吉川線が見られた為警察は、傷害事件として捜査を始めた。
確かに、今思えばあの時、何故、俺は首を絞めてる奴がオカルト的存在だと決め付けていたのだろうか。
そう考えた要因は、偏に犯人にメリットがないことにある。俺を殺したとて、金が手に入る訳でもない、誰かに俺の殺害を依頼されたなら別だが、生憎、俺の知り合いに殺し屋を頼めるほど羽振りのいい奴はいない。
あの首の締め方はプロだ。俺は絞殺フリークではないが、それだけは断言できる。あれは素人が為せる所業ではない。
一切の躊躇いもなく、一気に気道を潰す。俺には出来っこないだろう。
こういった場合、オカルト的存在の所為にするのが一番手っ取り早く、納得できるのだ。
数日が経ち、警察の捜査は難航していた。アパートの住民の証言と、俺の証言とでどうも辻褄が合わないらしい。
俺は確かに首を絞められた筈なのだが、大学生三人組は何も見ていないし、何も聞いていないと言うのだと。しかも、三人とも同じ証言をするので、逆に自作自演の疑いが俺に掛けられるほどだ。
俺は首を絞められた際、ジタバタもがいた。その物音はアパート中に振動として伝わっていなければ、おかしい。
証言の食い違いに、警察の捜査はどん詰まり。やがて、大きな暴力団の事件が起き、俺の首を絞めた、犯人の捜査は打ち切られた。
決まりが悪い。
よもや、殺人事件に発展しようとした事件を放棄するとは、税金泥棒と揶揄されても致し方なろうて。
無論、俺はあのアパートを引っ越し、別のセキュリティがしっかりした物件に住み始めた。おかげで、財布は万年乏しい。
しかし、いくらセキュリティの高い家を持とうとも、俺の心に恐怖は残ったままだった。いつ、自分の命が潰えるか、そう言った恐怖を常に携えている。
そんなストレスに我慢できなくなった俺は、犯人を自ら探すようになった。警察は使えないし、探偵を雇おうにも金がない。
まず、怪しいのが大学生三人組だ。警察との事情聴取の際も大学生三人組について、沢山の質問が為されたので、無能(警察)もアイツらを疑っていたらしい。
記憶を頼りに、彼らの所属していたNPO法人について調べてみた。思い出すのに十分ほどかかったが、なんとか思い出すことに成功し、ネットで検索をかけてみた。
この非営利団体では主にホームレスや身寄りのない方々を、金銭面で援助したり、情報を共有したりで支援しているらしい。そう、ホームページに書いてあった。
俺はそのホームページを隅々まで調べた。それはもう、モニターに穴が開くほど。
そうして、活動実績というページにたどり着く、この非営利団体が成してきた善行の数々が記されていた。
情報共有会……貧困層資金援助……貧困層就職斡旋……ホームレス住居斡旋。
俺は活動実績に少しばかり感動していた。この不景気に、人様のため死力を尽くせる人たちがいたとは。目頭が熱くなり、自分の犯人探しなどという行為が愚かしく思えた。
しかし、頭の中の、どこか冷めた部分で、俺はある可能性に気がついた。
その可能性とはあまりにも幻想的、非現実で、理性はありえないと決断を下すが、いやしかしと、本能が待ったをかける。
一度生まれたその可能性は頭を支配し、離れなくなった。俺はいても立ってもいられず、金ことなど忘れて、探偵を雇った。
それから、少し経ち、探偵から調査報告を受けた。探偵は戦々恐々と言った顔つきで、貴方の予想したその可能性は事実でした、と話した。
あのアパートに引っ越してきた、自称大学生三人組は同じNPO法人に所属しており、その非営利団体は社会的弱者に支援をしている。
重要なのは、その非営利団体の活動内容に、ホームレスの人たちに対しての住居斡旋があることだ。
彼らが、ホームレスに提供する物件の殆どが事故物件だとのことだ。つまり、大学生三人組はホームレスの為に、俺を絞殺し、家賃の安い事故物件を作ろうとしていたのだ。
正に狂気の沙汰だ。彼らは目的のため、手段を選ばなかった。
背筋に悪寒が走った。
引っ越してからの日々 @kurodoss
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