第3話

 次の日の夕方、最寄りの……と言っても二キロも離れている、家具屋まで行って、寝具一式と、組み立て用のローテーブルを買ってきた。

 無論、自家用車などなく、レンタカーを借りる余裕もなく、公共交通機関の利用は、大きな荷物により憚られた。

 重たい荷物を担ぎ徒歩での帰宅は堪えるものがある、腕の筋肉が限界を告げ、着ていたTシャツが汗で皮膚にピッタリ張り付いていた、気持ちが悪い。

 やっとこ帰ってくると、廃墟もとい、アパートの前に不似合いにも、小綺麗な引っ越し業者のトラックが止まっていた、それも何台も。

 大家さんの話によると、俺の引っ越しが決まってから、このアパートの賃借人がどんどんと増えたらしい。大家さんは恵比寿やら大黒天やらと俺を祀り立てていた。

 俺の家計簿には七福神の面影もないのだが、それは一体。

 引っ越してきたのは、三人の男女だ。

 比率は男が二、女が一であり、特に奇抜な訳でもなく、普通な印象を受けた。

 さしずめ、量産型大学生と言ったところか。

 話によると、彼らは同じ大学に通っている仲であり、今はあるNPO法人で活動していると言っていた。

 人当たりもよく、社交性に長けている、引越しの挨拶としてお饅頭も貰ったし、自分たちの引っ越し作業もそこそこに、俺が担いできた家具の搬入も手伝ってくれた。

 隣人トラブルに悩まされることはないだろう。ただ、一つ心配なのが騒音問題だ。

 無論、このアパートに遮音性なる崇高なものはなく、プライベートは筒抜けだ。今日は大家さんが見ていた時代劇の斬撃音で目覚めたからな。

 すなわち、騒ぎ盛りの大学生たちが、夜ワイワイ盛り上がると、俺の睡眠が妨げられ困るのだが、それは杞憂に過ぎなかった。

 夜は異様なまでの静寂に包まれていた。人の気配を感じなく、この世に自分しか存在してないみたく、静かだった。

 流石に疑問に思う、男女の大学生がアパートとは言え、一つ屋根の下で生活を共にしているのだ。奇声や喘ぎ声の一つや二つ覚悟していたのだが……

 静かだ。まるで、あの大学生三人衆が生活以外の何かしらの目的の為ここに来たかの如く。例えば、彼らはスパイで水面下で何かしらの工作を隠密に行っているとか、そんな下らない妄想を抱いてしまうほど、静かだった。

 おそらく気を使っているに違いない。大きな音を出したら迷惑だと弁えているだろう。とても良い人たちだ。

 それは、昼間の応対からもひしひしと伝わってくる。しかし、何故、彼らはここに越してきたのだろうか、俺同様、金に困っているのか? それにしては引っ越し業者を使っていたしな……謎だ。

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