第2話
俺は一階の管理室兼大家さんの部屋の玄関を弱くノックした、強く叩けば、今にも倒壊するかと勘ぐった故で弱く叩いた。
意外にも、大家さんは人の良さそうな顔つきだった。こんな家に住んでるんだ、もっと、無愛想で不気味な人相を想定していたのだけど、いやはや、先入観に囚われてはいかんな。
俺と大家さんはしばらくの間、親睦を深めるため世間話を交わした。最近は不況の影響を色濃く受け、今現在、このアパートの住民は大家さんと俺だけらしい。
不況以外にも、住民がいない理由はあると思うが、ここでの言及はよしておこう。
宴もたけなわで雑談を終わらせた俺は、大家さんから自室の、恐らく不必要な鍵を貰った。
こんなボロ小屋に盗みに入る泥棒の心情とはこれいかに? トリップでもしてない限り、ここに手をつけようとは思わんだろう。
この鍵は、様式美と言うか、風習と言うか、習慣と言うか、そう言ったアレに違いない。念のためってやつだ。
大家さんに別れを告げる、確か、俺の部屋は二階だったな。
俺は腫れ物を扱うみたいに、慎重に階段を上る。脆弱そのものの錆びた手すりを無視しながら、床を軋ませつつ、自室の鍵を開け、入室した。
部屋は小汚い四畳半、天井には一面を覆い尽くすようなシミがある、どこかカビ臭い。やはり、この立地、この値段にして、この惨状って所だ。しかし、金に変えられるものはない、拝金主義万歳だ。
これからの日々のことを考えれば、少しの不衛生くらい甘受しなければならない。
ということで、引っ張ってきたキャリーバッグから幾つか、生活必需品を取り出して、取り敢えず、生活できる程度まで引っ越し作業は進展した。
あとは明日、布団やら何やらの家具を買い揃えれば、快適とまではいかんが、それでも、不便はしないだろう。
言うしな、住めば都と。
因みに、引っ越し業者に頼むより、家具は現地で買った方が安くて済む、そもそも、沢山の荷物を持ち込めるわけではないし。
そんな訳で、引っ越し作業の疲れもあってか、その日は死んだように眠りこけてしまった。
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