ANSWER

奈々星

第1話

前田 朔太。

これが僕の名前、小学校の頃からあだ名は

"田"と"朔"をとって駄作。

勉強も運動もできない僕は本物の駄作だった。


運動が苦手だから体育祭も嫌い。

友達も少ないし、人と話すのも苦手だから

文化祭も嫌い。

音痴だから合唱コンも嫌い。

学校行事は全部嫌い。


全てに共通していることはだいたい僕は

責められる。必死でやっているのだけれど。


そんなこんなでいつの間にか高校2年になっていた。


花の十七歳。


アオハル。


どれもこれも僕には生まれ変わっても縁がないであろう言葉。


僕は生きる希望を見失いかけていた。

でも僕は今日小さな希望を見つけた。


僕の席の前の子で名前は比奈村 葵。


僕のたったひとつの小さな小さな生きる希望。


そんな彼女の前ではいい格好をしたい。

そんな思いから勉強も沢山したし、筋トレも始めた。来月の運動会やその数週間後の中間テストでいい結果をだして比奈村さんの気を引きたい。


その一心で毎日努力した。


そして体育祭の日。

僕らは赤組。

他のクラスは白、青がいて

3色対抗の体育祭。


そしてクラスのみんなでバトンを繋ぐ

"クラス対抗リレー"

赤組は他クラスとかなり差をつけていて

僕の番に変わる時にはその差は

およそ4分の1周ほどだった。


そして僕は前走者からバトンを受け取り前を向いて走り出す。


全力で走った。


比奈村さんが見てる。


もっと差を広げたい。


コーナーを曲がり最後の直線僕は目を瞑って

必死で走っていた。


僕には後ろから迫るふたつの足音に気づくこともできなかった。

バトンタッチの直前白と青の走者に僕は抜かされる。

目を瞑っていた僕は次の走者にGOサインを

出すタイミングが遅れた。


______________________________


結果は赤組がビリ。

あれから赤組は差を縮めることが出来なかった。


僕のせいであった。

自明だった。


それでも僕は比奈村さんへのアピールを

諦めなかった。


今度こそ、次は中間テスト。

クラスで上位にくい込んで彼女の気を引きたい。


僕のクラスは勉強にも熱心で他クラスと

各教科の平均点で張り合っていた。

だからテスト期間になるとクラスの雰囲気が

緊張する。


そんなプレッシャーに負けず僕は今までにないほど勉強をした。


本番も早寝早起きをしてかなり良いコンディションで本番を終えた。


テストの返却日、

各クラスの各教科の平均点と学年順位が発表された。比奈村さんは学年で2位、僕の名前はそこにはない。

それどころか僕は全教科平均点以下。

クラスの足を完全に引っ張ってしまった。


でも今回はこのショックを受け流すことは出来なかった。


いつも比奈村さんを思って忘れていた

僕のストレス。

僕が失敗する度にクラスの奴から浴びせられる罵声。

「おい、真面目にやったのかよ!」

やったよ。必死に。今までにないくらい。


「油断すんなよ!あんな差あったのに!

目、瞑ってんじゃねぇよ!」

ああ、これは体育祭の時。

必死だったんだよ。

申し訳ないと思ってるよ。うるさいな。


正直限界が来ていた。

こんな生活が中学時代も含めてもう5年になる。

やっと見つけた小さな生きる希望はいつの間にか雲に隠れていた。


僕はもう暗くて誰もいないところに行きたい。


テスト返却日と同時に始まる夏休み。

この夏初めての夜、僕は荒川に来ていた。


ここで荒川に落ちよう。


僕が泳げるはずがないから溺れるだろうな。


入水自殺って苦しいって聞くな。


怖い…………………………


暗闇に飛び込む勇気を振り絞って僕は荒川に

飛び込んだ。


自転車で岸の岩に乗りあがって自転車もろとも飛び込んだ。


ブクブクブクブク…


体内の空気が出ていく。


それからどんどん意識が遠のいていく。


体はそれほど沈んでいないのに、

意識だけがもう底に着いてしまいそうだ。


苦しい……


僕には未練は何もない、


はずなのに僕は何故かもがいてもがいて水面に顔を出した。


岸が近くて頑張ればまだ引き返せる。


朦朧とした意識の中で僕は泣いていた。


僕の慟哭が夜の荒川に響き渡る。


汚い鳴き声で満たされた僕の耳に

ひとつの澄んだ音が入ってくる。


「前田くん!」


ああ、比奈村さん………か。

もう……どうでもいいか……


「嫌だよ!!!

前田くんとしたいこと!いっぱいあるの!

好きだったの!前田くんのことが!

花火大会!一緒に行きたかった!

そこで告白もするつもりだった!

クリスマスも!バレンタインも!

前田くんと過ごしたいの!」


もう僕は好いていた女の子の熱い言葉すら聞こえなくなっていた、


その言葉に、僕は返事は出来なかったけど

僕の体は温かく答えてくれた。


僕の知らない所で僕の右手が彼女の右手に

手を伸ばしていた。


女の子に引っ張らせるなんて、

目も当てられないくらい情けないな。体に水も入ってきてるから重いだろうな、

ごめんなさい。


「濡れてるけど、ごめんね。」


彼女は笑って答えてくれた。


「戻ってきてくれてありがとう。」


考えてみれば親族以外で初めて話したかもしれない。

そんなことどうでもいいか。


そんなことより、


初めてお礼言われたな。

ありがとうって言われたら

どういたしましてって返すんだったっけ。


「ど、どういたしまして。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ANSWER 奈々星 @miyamotominesota

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ