第3話

それから彼女と同じ屋根の下、

一緒に時を過ごした。

生前感じたことのない充実感を彼女と共に

味わった。行くあてもなかったし、

都合が良かった。


ただそれだけで留まることが

出来れば良かった。


温柔で優美な彼女に惹かれている自分に

気づくのに時間はかからなかった。


「ねぇ、白亜。アネモネの花言葉って

知ってる?」


「わかんないな」


「儚い恋、貴方を愛しますって

意味なんだって」


「素敵だね」


「私アネモネの花が大好きなの。

小さい頃にお父さんが育ててて、

とっても綺麗で繊細で。だけどお父さんは

どこかに行っちゃって。

…そのときからずっと1人。アネモネが

散るのを見てこっちの世界に来れば

会えるのかなって毎年思ってた。

思ってたのに、居なかったんだよね。

だからこの世界に来た意味がなかったの。

ここにいる意味も、今はない」


「そんなことないよ、」


静かに涙を流す彼女に何も出来なかった。

抱きしめてあげたかった。

辛かったね、大丈夫だよ、と

言葉でしか伝えてあげられない自分が

とても悔しかった。

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