ノア

青天の霹靂

刃雷の翻る一瞬ののち

全てを洗い流さんと降りしきる

スコール


神は願いを聞き届けたのか


降りた帳のように境目を見せず

黒雲の代わりに雷鳴と太陽を味方につけて

水銀の輝き 大地を侵す


誰が願いのために世界を呪うか

ノアはその痛みを想い虹を捧げた


止まぬ雨は祈りに変わる

苦しみを終わらそうとして

刃を向ける


槍が降るより険しく

花が降るより優しく

全ての者に平等に降り注ぐ慈雨の厄災


成し遂げようと足掻くものほど

生贄として己を捧ぐ


太陽のようなほほ笑みの下に

焼かれた刻印をひた隠しにして

誰がためを想い歌い続ける


しかし人々は過ぎた晴天を疎み

過ぎた恵雨を恨んだ

その慈悲は生贄の血

されど人々は気づかなかった


愛したものに見返りを求めず

与え続けてなお誰のことも恨まず

泉の尽きるまで尽くし疲弊して

不条理も理不尽も運命と受け入れ

大地に伏しても祈りを止めず

足が朽ちても踊り続ける


その心から溢れた涙が

雨と変わって干天に落ちる


その哀しみは人を想い

その怒りは己を恨み

そうして病むことも晴れることもなく

一晩中降り続けるのみ


ノアは己が身を焼いた彼の祈りに

そっと手を差し伸べた

彼が救われることはないのだとしても

せめて

その身を刻む刃の盾になりたいと望んだ


人のために

涙まで枯らさなくてもいい


ガラスの花が

一輪咲いた

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