迫りくる恐怖

 外は友人の死を悲しむかの様に雨が降り続いていた。

 

 僕は目が覚めてから、特に異常がなかったのですぐに退院できた。


 その次の日、主催者だった彼の訃報を聞いた。


 交通事故の原因はわからないらしい。


 彼の乗っていた車はまるで映画のように突然横転したのだ。


 真っ直ぐの道でそんなことはありえない。


 最期の別れのとき、僕は彼の表情に驚かされた。


 彼は何かに怯えた表情だったのだ。


 そのまま葬式は終わった。


 みんなは彼の死を悲しんでいたが、僕はそれよりも誰かに睨まれている気がして気が気ではなかった。


 それから数日間、ずっと身体が怠かった。


 別に熱があるわけでもなければ、具合が悪いわけでもない。


 しかし、誰かが僕にのしかかっているような感覚だった。


(きっと気のせいだ)


 自分にそう聞かせながら、気分転換にあの湖に行くことにした。


 湖に着くと、今までと同じように釣りを始めた。


 魚が1匹釣れると、どこからともなくあの三匹の猫が来た。


「シロ、クロ、ミケよく来たな。ちょっと待

ってろ。」


 いつものように、カバンからサバイバルナイフとミニまな板を取り出し釣れた魚を捌き始めた。


 捌いている間、妙な違和感を感じた。


 いつもなら捌き始めた時点で、すぐに近寄ってきていた。


 しかし今は、妙に距離感がある。


 しかも、僕に対して明らかに警戒しているようだった。


 捌き終わると、魚の切り身を持って彼らに近づいた。


 だが、1歩近づくとその分彼らは離れた。


 思い切って近づいたら、クロが引っ掻いてきた。

 

 それからの記憶がなかった。


 気がついたときには、身体中に引っ掻き跡が至るところにあって、目の前にはクロが横たわっていた。


「クロ!!」


 クロはすでに冷たくなっていた。


 その時、腕に冷たいものを感じた。


 水だ。


 ふと空を見上げてると雨が降っていた。


 まるでクロの死を悲しむかのように。


 僕は泣いた。


 雨の中、ただただ泣いた。


(クロを殺してしまった。なんで、どうして、

僕は殺してしまったんだ)


 そして、クロの墓をたてると、ふらつきながら帰路についた。


 それから数日間は、何かする気力も湧かず

ぼーっとしていた。


(なんでクロを殺してしまったのか。)


 ただそれだけを考えながら。


 そして落ち着いた頃、クロたちの行動の異常さが気になった。


 そして、スマホを取り出し、


[猫 威嚇 原因]


 そう検索したが、いっこうにこれといった原因は見つからなかった。


 ふと乱頭トンネルのことを思い出した。


(そういえば、不可解なことが起こり始めた

 のは乱頭トンネルで倒れてからだったよう

 な...)


[猫 霊感]


 特に理由は無かったが、この単語が思い浮かんだ。


 恐る恐る検索してみる。


 そこには、猫は霊感がある、人間には見えないものが見えているなどの情報があった。


 実際、体験談も何件かあった。


 今までは、幽霊などと非科学的なものを信じてこなかったが、今回ばかりは信じないと辻褄が合わない。


「ドン」


 突然の大きな音に驚いた。


 音のした方を見ると、


「ドン」


 また音がした。


 おそらく隣の部屋からだろう。


(えっ、でも隣は空き部屋じゃ...。)


 結局、この音は一晩中続いた。


 あまりにも、うるさすぎてその晩は一睡もできなかった。


 次の日の朝、眠たい目を擦りながら大家さんのところに行った。


「朝早くにすみません。1つお聞きしたいこ

とがあるのですが。」


「何ですか。」


「隣の部屋って誰か住んでいますか。」


「いや、誰も住んでないはずだけどねぇ。」


「そうですか。ありがとうございました。」


「またなんか困ったことがあったらいつでも

相談してね。」


 そう言って、僕は自分の家に戻って行った。


 家につくと、とてつもない睡魔が僕を襲い、すぐに寝てしまった。


 久しぶりに、夢を見た。


 いつものように、湖に向かって山道を歩いている。


 しかし、何も持っていない。


 湖に着くと近くで猫の鳴き声が聞こえる。


 ミケがシロに寄り添っている。


 ミケをどかし、シロを掴んだ。


 シロはだいぶ弱っていた。


 そんなシロを湖の方に投げ捨てた。


 そこで目が覚めた。


 とても嫌な予感がした。


 急いで湖へ向かう。


 そこには、シロが浮いていた。


「シロ!!」


 焦りながらそこに向かい、シロを抱えて、陸に上がった。


 シロは冷たかった。


 シロは僕に気がつき、僕に向かって弱々しく鳴いた。


 そして、シロは動かなくなった。


 今まで気づかなかったが雨が降っていた。


 まるでシロの死を悲しむかのように。


 僕はその雨に隠れるように泣いた。


 

 




 


 


 

 

 

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