第3話 石像

 私はこんなにコミュ力がなかっただろうか?


「デイリーさんは、何が好きですか?」


「紅茶かな」


 私は、魔王であることを悟られないようにデイリーと偽名を使うことにした。そして、望みの対話が出来たのだが、結果は・・・


「デイリーさんは、紅茶が好きなんですね。私も好きなんですよ。今度一緒に私のおすすめの喫茶店に行きましょう。そういえば、最近ここら辺に・・・」


 私の望んでた対話と違う!

 レミーも街に向かうというので、一緒に行くことになったのだが、かれこれ1時間こんな感じが続いている。確かに私はあまり誰かと話をしたことはない。精々勇者と話した(戦う)か、ゆりちゃんと談笑した(エア友達)しかいない。改めて思うと自分でも寂しいと思う。ただ、それだとしてもこれはおかしい。私が口にしたのは、相手からの質問に対しての答えを言うくらいで、後は、レミーの弾丸トークが続いている。

 そうしている内に門が見えてきた。街の名前はカリントン。ここら辺だと一番大きい街のようだ。門の前には1人の門兵が立っている。

 その前を通り過ぎようとしたとき、門兵に声をかけられた。


「おい、そこのお前止まれ」


 私に言っていると思わなかった私は門を通り過ぎようとすると、腕を捕まれた。


「おい、どこに行くきだ。ちょっとこっちに来てもらおうか」


 そこで自分の格好を思い出した。フードを深く被っていて、顔があまり見えない状態の私は完全に不審者であった。しかし、フードを脱ぐわけにもいかないしどうしたものか、と考えていると


「ちょっと待って、ケビンさん。その人私の知り合いだから通してくれませんか?」


 隣にいたレミーが門兵の人にそう言った。どうやらこの門兵の人とレミーは知り合いのようだ。


「レミーちゃんの知り合いなのかい?でも不審な人を通すわけにはなぁ~」


「お願いします!」


「ん~、わかった。ただし何かあったらすぐに捉えるからな」


 そうして、私は街に入ることが出来た。自分で言うのもなんだが、それでいいのか門兵の人!


「ありがとうレミー、助かったわ」


「いえいえ、そんな。それよりこれからデイリーさんはどこに行く予定なんですか?」


「まずは、雑貨屋に行くつもり」


 まず自分の髪や目の色をどうにかしないと観光も出来ないと思った私は、雑貨屋に行って、髪染めとかを買うために、雑貨屋に行くことにした。


「それでしたら私が案内しますよ」


 そう言って、雑貨屋まで案内してもらうことになった。

 その道中、中央広場にあるものを見て、悲鳴じみたものを上げてしまった。


「ゆ、ゆ、勇者!?」


そこには、勇者の石像が建てられていた。

その時、私のトラウマが蘇った。

一人でやったお茶会、一人でやったダンスパーティー、一人でやった誕生日パーティー、それらを生み出した元凶である勇者の石像を見た私は、手足が震えていた。


「はい、ここの近くに魔王の城があって、魔王が倒された際に建てられたそうです」


 私の動揺に気づいていないレミーは説明を続ける。

 あれは石像、あれは石像、あれは石像。自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。


「近くに行きますか?」


 私は、首を横に振った。絶対に近づきたくない!

 そんなこんなで目的の雑貨屋にたどり着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る