第10話


 食欲がない。いつものように袋ラーメンを食べる気にはなれなかった。

 コンビニでサンドイッチでも買ってこよう。自転車もとりに行かないといけないし。

 頭が痛い。身体が重い。眠たい。


 コンビニに着くと、自転車はそのままあった。

 店内に入る。ササキくんがいた。

「いらっしゃいませ。あ、イエナガさん。おはようございます」

「あ、うん、おはよう」

「え、あの、大丈夫ですか?」

「え? 何が?」

「いや、顔が。その、なんか、きつそうですけど」

「え、あ、うん。ちょっと風邪ひいたかも」

「風邪ですか。風邪ならいいですけど。いや、よくはないんですけど。大丈夫なんですか?」

「あ、うん、大丈夫。今日は休みだし。ありがと」

 ササキくんは心配そうに私の顔を見ている。そんなに私の顔はひどいだろうか。

「イエナガさん、昨日の夜、来ました? なんか、すごい大変だったみたいなんですけど」

「え、昨日? 昨日は来たけど。なんで?」

「なんかですね、そこの道路で、事故があったらしいんです」

「え、そうなんだ」

「イエナガさんは見てないですか。夜だったらしいんですけど」

「え、うん、いや、見てないかな」

「そうなんですか。よかったですね、ちょうどそのときじゃなくて。外にイエナガさんの自転車があったんで、もしかしたら、そのときのごたごたで置いて帰ったのかな、って思ってました」

「え、ああ、うん、自転車はちょっと、眠気がひどかったから。危ないかなと思って、置かせてもらってた」

「ああ、そうだったんですね。イエナガさん、夜勤とかあって大変ですもんね」

「ササキくんは、最近どうなの。彼女さんとはうまくいってるの?」

 私は話題を変えた。

 ササキくんの彼女自慢を少し聞いて、会話を切り上げた。

 なんで自分が嘘をついたのか、自分でもわからなかった。


 サンドイッチを買った。

 コンビニの外に出た。見ないようにしていたのに、あの電柱に視線が吸い寄せられる。

 普通の電柱だ。近くまで行って、電柱を確かめてみたい。本当に普通の電柱だろうか。

 視線を感じた。

 コンビニの中いるササキくんと目が合った。私は笑顔をつくって軽く頭を下げた。

 不審に思われただろうか。

 昨日のことを知らない人間が、あの電柱を見ていたら、おかしいのではないか。

 私は、電柱を見ないようにして、自転車に乗った。


 何度も目が覚めた。

 身体の調子はさらに悪くなっていた。

 寒気がひどくなっている。それなのに、身体は熱かった。

 自分のおでこを触ってみる。熱い。

 起き上がる。立ちくらみがした。ふっと力が抜けて、また倒れ込んだ。

 

 目が覚めた。夜になっていた。

 時計を見る。午前0時。

 あわててスマホで日にちを確認した。よかった。今日はまだ休みだ。

 体調はまだ悪かった。明日の深夜のシフトは休もうか。いや、深夜の時間だと代わりがいない。休めない。私が休んではいけない。

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