第4話

「彼女は、屋敷芽衣。これでも、お前よりふたつ上だ」

親父は、芽衣さんの肩を抱く。


「ということは、19歳?」

「うん。誕生日がきたらね」

芽衣さんは、軽くウインクをした。


「実は、彼女は知り合いの作家さんの娘さんだ」

「知り合い?」

「ああ。正しくは後輩だがな・・・その作家さんだが・・・」

「うん」

「失踪したんだ」

「失踪?」


親父は真面目な顔で、頷いた。

なるほど・・・

そういうことか。


僕も作家の息子なので、その話はよく聞く。

締め切りの重圧に耐えられなくなり・・・

深くは、訊かないでおこう。


「で、20歳までは、我が家で養う事にした。彼女のおかあさんも一緒にな・・・」

「でも、18歳なら自力で・・・」

「ああ。彼女もそうしたいと望んだのだが、女子力がまるでない」

「うん」

「なので、今では体を壊しかねない。元も子もなくなる」

「それで、ここへ来たのか?親父」

「まあな」


実は、理由はそれだけではないのだが、その真の理由を知るのは、かなり後になる。

その理由を知った時、僕は儚さを知ることになる。


「というわけで、改めてよろしくね。冥くん」

「ところでメイドというからには・・・」

「当然、メイド服を着るよ。『お帰りなさいませ。ご主人さま』ってね・・・」


いかがわしい店じゃ、ないんだから・・・


その夜は、お袋も交えて歓迎会となる。

明日から、大変だ。

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花嫁修業 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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