1:空からの脱出 その2
「お、落ちてますっ!?」
「魔術を破ったんですから当然の帰結ですね」
「ま、間生くん! せ、責任取ってくださいっ!」
「なんとかしますから、僕にしがみついててください!」
真二郎の声に応えて、美姫は空中で向きを変えながら、真二郎の方に近づいてきた。自衛隊でスカイダイビングの訓練をしていたのだろう。器用に体勢をコントロールして、美姫は真二郎の背中にしがみつく。
胸が押しつけられる感覚に、真二郎は鼓動が跳ね上がった。大きくはないが、スーツ越しでも確かな弾力。
いや、それどころじゃない。このままなにもしないと、ふたりとも地面に叩き付けられてジエンドだ。
真二郎は軽く首を振って、もったいないと思いながら雑念を振り払う。
もちろんノープランだったたわけではない。風の魔術を応用して移動させればいいはず。
「セラ・アエル=ムヴィーレ……」
呪文を唱えかけた真二郎だが、うっと詰まる。
「どうしたの!?」
「移動の呪文は起点と終点を指定しないと起動しないんだった……」
「どういうこと!? いえ、説明はいい! なんとかして!」
その間にもぐんぐん地面が近づいてくる。緑の森。川もある。森林地帯らしい。今やはっきりと木の一本一本が見える。
「ええい! 時間がない。ちょっと荒っぽいけどこれでなんとか! セラ・アエル=ヤケーレ・ナルド・フィラミオッ!」
真二郎は叫び終えると同時に落ちていく方向に向かって腕を突き出す。すなわち、迫って来る大地に向けて。
ドウンッ!
鼓膜どころか全身を震わせる衝撃音。自由落下状態の体が巨人にグイッと持ち上げられるようにブレーキがかかった。真二郎が風の魔術を使って前方に空気の塊を放ったのだ。
「きゃっ!?」
美姫の短い悲鳴が聞こえて、腰に回していた腕が離れる。
とっさに振り返った真二郎の目に飛び込んだのは、美姫のおへそ。風圧でスーツのボタンがはずれ、シャツがめくれ上がっていたのだった。
風グッジョブ!
真二郎は内心で拳を握りしめた。
「見てないで助けて!」
美姫は髪を押さえながら悲鳴を上げた。叩きつけてくる風にきっちりまとめてあった髪はもはやグシャグシャだ。
眼福のお礼に真二郎は腕を伸ばして手首をつかむ。思ったよりも華奢な腕だ。
魔術のおかげで落下のスピードは一旦落ちたとは言え、すぐにまた加速する。時間の猶予をもらっただけだ。
「や、やっぱりダメなんでしょ!?」
「大丈夫。なんとかなるよ」
無責任なこと言うなぁと真二郎は自分に呆れた。しかし、ここまでの展開を考えれば、自分の中に詰め込んだゲーム内の魔術の知識はすべて使えるはずだという確信があった。
シャツを抑えながら悲鳴を上げる美姫の腕を左手でつかんだまま、地面に激突寸前を狙ってもう1発。
「セラ・アエル=ヤケーレ・ナルド・フォルテオ・ロントゥッ!」
右手を地面に向かって突き出す。
ドウウウウウッ!
手のひらから目に見えないアフターバーナーが噴射されたような轟音と衝撃。体が再び押し上げられる。
今度の魔術はさっきより威力は緩めて、その代わり長時間風を叩き付けるようにした。本来は攻撃魔術の部類だ。向かってくる敵を吹き飛ばすとかそういう目的で使う。
予想どおり、ゆっくりと降下していく。この高さなら落ちても大丈夫かと判断して、真二郎は手首を8の字に振る。これが魔術の術式解除。
と、フワッと体が浮いて落下する。
「きゃっ!」
美姫がまた可愛い声を上げ、振りほどくように真二郎から手を離した。
「うわわっ!?」
ふたりで手を繋いだ状態でバランスを取っていたため、真二郎までバランスが崩れる。足から着地するはずがブザマに背中から地面に落ちた。2メートルはあったので衝撃を覚悟したが、幸いにも下は軟らかな土だった。
「助かった……。やったぞ……。魔術を使いこなして生き残った!」
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