第10話挫折!

朝5時。

 カタカタカタ。

俺の部屋にタイピングの音が響く。

 タンタン。

 大きく、キーボードの音が響く。


「お、終わったーー!!」


俺は、歓喜のあまりについそう声を出した。


「うるさーい!」


扉が勢いよく開き椿ねーちゃんが現れた。


「げっ、椿ねーちゃん」


「何が、げっ、よ。全く朝っぱらから大きな声を出すんじゃないわよ。

 こっちは、徹夜明けで眠いっていうのに」


確かに目の下にはクマがある。


「いや、まぁ、それは……ごめん。でも! その、初めて出来上がったから」


「出来上がったって何が?」


「いや、それは」


椿ねーちゃんは、ドンドンと俺の部屋に入ると俺を跳ね除け今し方出来上がったばかりの俺の作品を覗き込む。


「ふーん。これ、アンタが書いたの?」


「ま、まぁそうだけど」


椿ねーちゃんは、俺の作品と俺を交互に見た。


「アンタ、今楽しい?」


「ん? まぁ、楽しい……かな?」


まぁ、変な先輩達はいるけど。それでも。


「そっ、なら良いんだけどー」


そう言い椿ねーちゃんは、部屋を出て行った。

なんだ?


        ♢♢♢


「先輩!」


「ん? 何?」


緑園先輩は未だ新しいものをかけていないのか難しい顔をしている。


「これ、書いたので見て下さい」


「お、マジ。じゃぁ、早速おーい」


という事で、いつものように全員が集まり俺の作品を読む。

 何だろう。スゲー緊張する。というか恥ずかしい!

 ここまで緊張し恥ずかしいなんて。想像もしてなかったー!

 ていうか! この人達一体どんなメンタルしんてんだよ!

 

          ♢♢♢


俺の書いた作品はファータジーだ。

 内容は、ヒロインを失った主人公が仲間達と共に悪の国と戦う! って言う話だ。

 色んな話を読んで俺も色々勉強したんだ。この、作品なら!


          ♢♢♢


「成る程、ね。何か、感想のある人?」


「じゃぁ俺か」


「私が言う」


そう声を上げたのは、緑園だった。


「じゃぁここは、任せようかな」


とあっさり荒神先輩は引き下がった。


「じゃぁまず、この作品は10点満点中」





「3点だ」


その言葉が耳をつんざいた。

 周りの景色がグリャリと曲がったように感じた。


「そうだな、いくつか原因はあるが、一つ目は世界観が定まってない事だな。

 ファンタジーなのに、読んでるとどっちかというとダークファンタジーに近い。ジャンルは明確にしないと後々自分が困る。

 次に、主人公のキャラがよく分からない。ここでは明るくしてるのに、ここでナイーブになってる。キャラがゴチャゴチャしすぎ!

 後は……」


          ♢♢♢


あの後の記憶は良く覚えていない。

 はぁー。


「何、落ち込んでるのよ」


うわ!


「びっくりした! いきなり声かけんなよ! ビックリするだろ!」


「知らないわよ。私はただアンタが下校時刻になっても帰らないから、声をかけたんじゃない」


「そうかよ」


「……アンタ、落ち込んでるの?」


「! な、何がだよ!」


「ふーん、図星かー」


……。俺は、良い言い訳も思いつかなかった為、その場でため息をつき本音を吐露した。


「そうだよ! 俺は緑園先輩にダメ出ししてからずっと落ち込んでました!

 悪いかよ。自信があったんだよ!」


俺はそう言うと綾音に背を向けた。

 俺は、ここまで言って言いすぎたかもと思った。

 いや、本当はずっと誰かに言いたかったのかも知れない。

 けど、いくら俺の中を吐き出した所で何も変わらない。

 俺の作品は駄作のままだし。それに……


「そう」


ゆっくりと、綾音はそう言った。

 その声はいつもの元気は無かった。

何だ? この雰囲気。そして


「ククク」


という声が聞こえる。もしかして、泣いてるのか? おいおい何でお前が泣くんだよ! や、やめろ! 本当は泣きたいのはこっちなんだよ! 

 けど……俺のために泣いてくれてるだよな。そう思うと。

 俺は綾音の方を向いた。

 

「なぁ、その。何だ。その俺の為に泣いくれるのは、嬉しいけど。けど、その」


そこで俺は言葉を止めた。

 待て。本当にコイツが俺の為に泣くか? こんな、どこまでも本に一途な少女が。本当に。

 俺はよーく綾音を観察した。


「なぁ、綾音。お前」


俺がそう言うや否や綾音は顔を上げた。


「クククハハハハハーーー!」


と言う笑い声とともに。

 ていうか!


「テメェ! 人が落ち込んだる時によくそこまで爆笑できるな!」


「え? そりゃそうでしょ。競争相手が凹んでたらそりゃ笑うでしょ。

 しかも、これで自分の勝ちが決まったとなったら」


綾音は涙は目を溜めてそう言った。

 流石に俺もカチンと来た。


「テメェ!」


俺は綾音の首元を持つ。

 しかし、綾音は全く動じない。


「何? 殴る? 良いよ。けど、それしたらアンタは負け犬確定よ。

 それとも私のパシリにそんなになりたいの?」


俺は綾音から手を離す。


「お前、友達いねーだろ」


「残念。私、これでもクラスではそれなりのカーストにいるのよ。

 それに、まだ終わって無いし」


え?


「どういう事だよ?」


「だってそうでしょ。まだ、ゲーム部に提出するまで時間はある。それまでに最高の物を書ければ問題無いのよ。

 ダメだった。なら、それ以上の物を書いて払拭すれば良い。駄作を無かった事にするほどの最高の物をね」


そうだよ。……そうだよな! 何でしょげてだんだろう。

 そうだよ! まだ終わりじゃ無い! まだ時間はある。

 それに、俺はまだ初心者だ。だったら、ダメ元で何回もすれば良いじゃねーか!


「ま、たった一回のダメ出しでしょげてるアンタに私が負ける訳ないと、思うけど」


ふふ。そうだよ。


「ま、せいぜい」


「なぁ」


「な、何よ」


「お前、俺との賭け覚えてるよな。俺が勝った時の場合をよ」


綾音はニヤリと笑う。


「当たり前でしょ。私のファーストキスを、アンタに上げる」


「覚えてたならそれで良い。覚えとけよ! 俺、書き直す! そんで! お前よりも面白いもの書いてやるからよ!」


「せいぜい頑張れば。ただし、勝つのは私だけどね」


         ♢♢♢


綾音と輝がそう、誓いあっている部室のドアでは、4人の人影があった。

 言わずもがな。緑園達だ。この4人考える事は同じで輝を励ますために来たのだ。

 しかし、一足早く綾音がそれをやった為出るに出られないでいる。


「とにかく、上手く輝は復活したみたいだね」


「そうだな」


「ていうか、緑園が褒める所も褒めてあげればあーはならなかったんじゃなきの?」


とリンの言葉に


「仕方ねーだろ」


と、罰が悪そうに答える緑園。


「とりあえず、この2人は大丈夫みたいだね。よし、帰るか」


「帰るの?」


も荒神の言葉に菊川が聞き返す。


「うん。多分、明日から忙しくなるだろうからね」


荒神はニヤリと楽しそうに笑う。

 







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る