第7話今を賭ける
「で、何ですか? これ、ていうかここ」
「見て分からないか? 本屋だよ」
いや、それは分かってるんだよ。
うーん。この人達の頭っていたったいどうなってるんだ。
「あの、私家でシナリオを描きたいんですけど」
と綾音は手を上げながら言う。
そうだ。俺も書かなきゃいけないんだ。
「家でも部活をするのは結構。で、良いのは出来たのか?」
俺と綾音の空気は固まった。
それを見て先輩。というか、荒神先輩と緑園先輩はニヤニヤする。
殺しておきたいこの笑顔。
「な、当たっでしょ」
と嬉々として緑園はいう
「だな」
荒神は冷静に目を閉じ頷く。
耐えろ……耐えろ
そして荒神先輩が言う。
「という事で、本屋だ」
「あの、それで何がという事、何ですか?」
「えーと、つまり行き詰まっている君達のきっかけにになる、という事で今回は本屋に来たんだよ。
だよね、緑園、荒神」
「そういう事」
と緑園先輩は言い、荒神先輩は頷く。
「ねー、前置きはいいから入らない? 暑いんだけど」
とリン先輩の鶴の一声で本屋に。
本屋マル
全国に支店を持ち、品揃えがとても豊富で荒神先輩御用達の本屋らしい。
そして、俺達が来たのはコミックやライトノベルの本棚がある階だった。
そこで荒神先輩は今回の買い物の概要を説明する。
「さて、今回の買い物のメリットはさっき言った通り。
で、買う本だが……特に決めてない。好きな物を買えば良い。
ただし1人2冊までな」
「何でも良いんですか?」
「あー何でも良いぜ輝。漫画でもラノベでも下に行けば文学小説もある」
「お金は?」
「そこも安心しろ。部費で落とす」
「えっ! 良いんですか?」
「まぁ、部活で使うことだからなねー」
と菊川先輩が言い、そこにリン先輩が付け足す。
「それに、あんまりため込むと生徒会の会計監査がうるさいのよ。
私利私欲に使ってるんじゃないかーって。全くあの堅物は。
ま、そのうち会えるじゃなーい」
「と、言うことだ。みんな選べー!」
と緑園先輩の声で俺たちは一時解散となった。
と、言ってもなー。うーん……何を買えば良いんだろう?
俺あんまり本読まないしなー。漫画も今集めてる奴は全巻持ってるし。
うーん……
「きゃっ!」
「おわっ!」
イテテ。しまった! 誰かによそ見をしたら誰かにぶつかってしまった!
ていうか? 何か服が冷たい
「あ! すいません」
俺は服を見ると、服はグッショリ濡れている。
前を向くと、そこにはキャップを閉めていないペットボトルを持った少女がいた。
二重の瞳とバランスの整った顔立ち。タンクトップにカーディガンを羽織っている。
年は……多分中学生ぐらい。いや、小学生かな?
そして、その小学生はかなり心配そうにこっちを見ている。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「あ、あー。大丈夫だこれぐらい」
「いや、けど、その服が」
「いや、本当に大丈夫だから。あ、これ君のだよね」
「あ、はい」
そう言い、俺は少女に3つの本を手渡す。
1冊目は、タイトルからして歴史小説だろうか? けど、表紙には女の子のイラストの乗ったライトノベル。
2冊目は、2人の男子のイラストの乗った日常系の漫画だ。多分。タイトルからだけど日常系……かな?
3冊目は、この年の少女が読む恋愛小説のライトノベルだ。
なんか、バラバラだな。統一感が無いと言うか
「あ、あの」
「ん? わっ! ごめん。つい、その本を買わなきゃいけないんだけど、何を買うか迷ってて!
本当、ごめん。変だったよね」
しまった。つい気になって本を固まったまま固まってしまった。
しかも、俺こんな焦って。見る人が見たら不審者だ。
「あー。その2冊兄に頼まれて」
「あ、あぁ。そうなんだ」
まぁ、だよな。このライトノベルどう見ても男子が読みそう物だし。
「あの、何を買うか分からなければ一緒に探しましょうか?
その服を汚してしまったので。私、兄に連れられてここに来るので」
「えっ!」
い、良いのか? いや、けど……
「ダメですか?」
うっ。年下にそんな申し訳なさそうな目で見られると……
うーん。けど、これ犯罪になるないか? いや、けど……ぶっちゃけ困ってるし。
「じゃ、じゃぁお願いしようかな。俺も困ってたし」
「はい。任せて下さい」
それから俺らは少女と本棚に移動。
「それで、お兄さんは何を探してるんですか?」
「何を、って言ったら何を買うか、かな」
「つまり、欲しい本が見つからないんじゃなくて何を買うかすら決めて無いと」
「そうだな」
「兄と同じですね」
そう言い少女は微笑む。
まだ少しアドけない。ドキッ
って、何で俺はときめいてんだよ!
「じゃぁ、好きなジャンルとかありますか? バトル系とかファンタジー……とか」
「うーん。ファンタジーは好き? かな。あ、後主人公が何にかをするのも好きかも?」
「何かと言うと?」
「えーと……ヒロインを助けたり、事件を解決したり、かな?」
「成る程。でしたら……」
と言い、少女は本棚を探した。
「この2冊何かはどうですか? 私も兄に貸してもらった本の中でこの2つは特に主人公がピンチに陥るんですよ!」
そう言い、俺に本を渡す。
片方はさっきこの少女に渡したヒロインと思しき女の子のイラストが表紙を飾る歴史小説。
もう一つもヒロインが表紙を飾っている。しかし、こっちはタイトルやイラストも簡素な感じがする。
「どちらも、アニメ化までした作品です。そして主人公がいつも事件に巻き込まれてヒロインがピンチに陥ったりするんですけど、主人公がそこをいつもボロボロになりながらも助けるんです!」
そう言い少女は俺に近づき興奮気味にそう説明する。
「おぉ。その近い」
「あ、すいません。兄の影響を受けてしまったかもしれませんね」
「君の兄さんも本を読むの?」
「はい。いつもは無表情だけど本を読んでる時は表情を表に出すんですよ。
まぁ、本を読み過ぎて怒られたりするんですけど。それがたまに傷で」
「ん? そうかな?」
「えっ?」
「あ、ごめん。いや、うちの部活にも似たような先輩がいてさ。基本は無表情で同じ部活の先輩と話す時か、後自分で作った作品の続きを書く時は凄い楽しそうに書くから。
多分、君のお兄さんは本を読む事に今を掛けてるんだろうね。
だって、そうじゃ無いと人に怒られてまで続けられる訳無いよ。
って、受け売りだけどね」
「今にかけてる。……ですか。
確かにそうかもしれないですね。兄が本を読んでる姿を見てると本当に楽しいんだろうなーってのは分かります。ってあ、私はそろそろ」
「えっ」
「すいません。約束があって」
「あー、そうか。ありがとう。ドッチも買ってみるよ」
「分かりました。では、また」
そう言い少女は階段を駆ける。
また、転ばないよな。……今にかけてる……か。
その今を俺は捨てたのになぁ。
俺は、そのまま集合場所の一階のレジに下る。また、あの少女と出会うとさっき別れたばかりで気まずいので少し時間を開ける。
よし、いいかな。
いたいた。ん? ていうか、何かやけに騒がしいな。
そう先輩達は俺に気づく事もなく誰かと話し込んでいる。
「先輩」
「ん。来たか。遅かったな」
緑園先輩はそういう。
「えーまぁ。で、誰と話てんですか?」
「あー。なぁ、荒神こいつにも紹介するだろ」
「あー。という事で、おい」
荒神先輩が言うと後ろから1人の少女が出てきた。
「ハイハイ。えーと、初めまして。私は荒神優也の妹。荒神ハルナと言い……って! お兄さん!」
「えっ! 君は」
そう、荒神ハルナと名乗った少女は、さっきの少女だったのだ。
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