第4話ノベルバトル!

空間が歪み、そこに巨大な影達が降りて来た。

 それは巨大なロボット。

 それらは、手を掲げる。すると、その手には幾何学模様の文字と円が写し出される。

 そしてその図式から雷や炎。エネルギー弾が飛び出す。

 それらは、1人の男に向かって飛んでいる。

 その男は荒神先輩と同じライフルを構えて足についている機械で中に宙をとぶ。

 その男が引き金を引くと多種多様な弾丸がうちだされる。

 ド派手なバトル。

 そして、また空間が歪むとそこはあの男とその仲間の少年、少女達との会話。

 軽妙でテンポの良い会話にはつい笑ってしまう。

 

         ♢♢♢


荒神先輩の書いている小説は「銀の弾丸と機械姫」という小説だ。

 魔術がありそして、戦争の絶えない世界。

 その世界での戦い方は魔力で動くロボット(魔華機エリーゼ)同士のバトルだった。

 そんな世界で唯一魔華機エリーゼを使わず魔華機エリーゼを倒す存在がいた。その人物こそ大国アラン帝国の英雄の1人にして主人公である(俊貎真斗しゅんげいまさと)だった。

 そしてその真斗は王の命令で何故か学校の先生となる。

 というミリタリー、ファンタジー、学園という3つのジャンルを合わせた小説だった。

 空間が素の姿に戻る。

 俺は正直に言うとこの小説は綾音の物より「面白い」と思った。

 作り込まれた世界感に。魅力的なキャラを余す事なく使い。そして、誰一人キャラ被りも無い。

 荒神先輩が口だけじゃ無い事はよく分かった。


「どうだ? 面白いか?」


「……」


綾音は黙っている。

 けど、それは分かる。誰だってあんな事を言って、そしてこんな結果になったら誰だって。


「まぁ、その」


菊一先輩がフォローを入れようと口を開く。

 しかし、それよりも先に


「面白い」


「?」


何か言ったか?

綾音はバッと顔を上げた。そして


「落ち込んでいませんよ。確かに先輩方の小説は面白いと思いました。

 だからって、私が落ちこぼれている訳じゃ無い訳ですしね」


スゲー。なんかかっけー。


「ねー。そろそろ帰らない?」


リン先輩の声で俺たちは空をみた。

 空は朱色に染まっていた。


「それじゃあ、取り敢えず今日は解散」


俺と綾音は廊下を並んで歩く。その間に会話は一つも無い。

 あの後、時間が来ているという事もあって帰る事になった。

 決まった事は俺は緑園先輩の元で教えてもらう。

 そして綾音は荒神先輩の元で教えてもらうという物。

 そして俺の当面の目標は、「何を書くか」に決まった。


「ねぇ」


「ん? 何だよ?」


「貴方は何であの部活に入ったの? 小説、書いた事ないんでしょ」


「ん? まぁな。……そうだな。強いて言えば俺も荒神先輩に説得させられたから、かな?」


「説得」


「そう。何か、あの人の小説を書いてる理由を知ったら。何でだろう……まぁ、何かやってみようって気になったから、かな」


「そう。貴方はあの先輩に屈したのね」


ん? 何か、今屈したって言わなかったか?


「すまん、聞き取れなかった。何て言った」


「だから貴方はあの先輩に屈した。もっと分かりやすく言えば、貴方は負けたのね。あの先輩に」


「んー。負けた……とは違うんじゃねーか。ていうか、それ言ったらお前も荒神先輩に負けた事になるぞ」


「いいえ。私は負けていない! 確かに、今は劣っているかも知れない。

 けれど! 負けだと思わなければ負けじゃないの!」


うわっ! スゲーとんでも思考。コイツ、クールな奴だと思ってたけど、意外に熱いやつだったんだな。

 いや、単に負けず嫌いってだけかも。


「だから、私は負けないし、負けて無い。ま、貴方には負ける事はないでしょうけど」


「どういう事だ」


「だって小説も書けない人が、私に負ける訳ないじゃ無い」


なっ! コイツ! 澄ました顔で


「じゃぁ! お前、もし俺がお前より面白い物書いたらどうするんだよ」


「……そうね。もし、私よりも面白い物がかけたら」


してあげる」


…………はっ。


「ま、マジかよ」


「えぇ。ただし、私は私のファーストキスをかけたのだから貴方も同等の物を賭ける。それが、後輩な勝負よ」


「いいぜ! だったら俺が負けたらお前のパシリになってやるよ!」


「それで良いわ」


俺と綾音はそのノリで違う道を通り学校を出た。

 ……ってまて! 俺、今とんでもない事はなかったか。

 それこそ、漫画ミテーな事を。

 ま、いいか。どうせ、あんな約束、明日にはアイツも忘れたいだろう。

 俺はまだ知らない。矢島綾音と言う少女がとんでもないギャップの持ち主だと言う事を。

 俺は騙されていたという事を。


        ♢♢♢


「で、何でこう言う事にしたんだよ」


緑園はジト目で荒神をみる。

 荒神はその声を聞き作業を辞めて緑園をみる。


「こう言う事とは?」


「はぐらかすな! 何で私が輝に教えなきゃいけないんだよ」


「だって幸、面倒見いいじゃん。俺にも小説の細かいルールとか教えてくれたし」


「それは、お前に教えた方が利益があるからで。書いた事無い奴に教えて私にどんな利益があるんだよ」


緑園幸は、利益のある事しかしない。

 それは、彼女と共に過ごせば分かる事だし。彼女の小説を読めば分かる。

 「思いたったらすぐ行動」というのも、単に利益があるからだ。

 合理的で冷たい人間。少なくとも幸自身はそう思っている。

 他の人間がどう思っているかは別として、だが。

 そして、荒神優也はそんな緑園幸の性格を熟知している。

 扱い方も。趣味も。


「それじゃぁ、輝に教えた場合の幸のメリットを話そう。

 簡単だよ。マンネリ化」


幸は、顔をしかめてそっぽを向いた。

 優也は、その反応をみて心の中でニヤリと笑う。


(よし。かかった)


「俺もだけど、幸も何か刺激を受けるとそこから発展させて物語りを書く。

 だけど、今の幸は刺激が無いからそれが出来ない。

 書いてる奴を続けるにしても、新しい物を書くにしても刺激が無いと書けないでしょう」


「それで輝に教えるって訳……か」


「そう言う事」


長い沈黙が流れる。

 緑園は考える。考える。考える。そして


「はぁ」


と溜め息をついた。そして、お手上げというふうに手を上げる。


「成る程。分かった。教えるよ。けど、輝ばっかりには俺も付き合ってられねーぜ。

 俺は絵もかかなきゃいけないし」


「そこは、大丈夫。緑園が見れない時は僕が見るから」


「なら、安心だな」


緑園は笑いそして何処か暗い影をおとした笑顔をしながら下を向いた。そして、優也の方を向く。


「……けど、何で分かったんだ? 俺の小説がマンネリ化してる事。結構バレないようにしてたんだけど」


「舐めんな。どんだけお前の小説を読んでると思ってんだよ。

 なんならお前の次にお前の作品を理解してるつもりだよ」


「流石だ」


流石だな。と言うより前に


「はい。ストープッ! 全く、話があるから残れ。っていうから、もっと凄い事かもと思ったのに。

 緑園のスランプで私を巻き込まないだよね」


「それなら帰れば良かったのに」


優也がそう言うと


「何で私がのけものみたいになるのよ」


と噛み付く。


「おー流石自由人。リアルでそんな事言う人初めて見た」


「自由人っていうか、アレはツンデレ?」


「菊一と荒神後でちょっと」


リンは人差し指を出しチョイっと自分の方に向ける。

 後ろから黒いオーラーのような物が流れているように見える。

 そして、とんでもない殺気が菊一と優也を襲う。尚、これはあの特殊空間の事ではなく現実である。


「「すんませんでしたー!」」


菊一と優也はすぐに頭を下げた。しかも腰まで折っての90°。


「ふん。分かれば良いのよ」


リンはそっぽを向き、来ているフードを被る。他の3人も帰り支度を始めた時だった。


「やっほー。まだいる?」


と突然ドアが開いた。

 長い黒髪を腰まで伸ばし。スーツをビシッと着ている。顔立ちも整っておりスタイルも良い。中々の美人だ。

 因みにモテる。そして、この人がこの語手ノベル部の顧問。矢島静音やじましずねだ。


「さっさん」


「イェーイ」


「イェーイ」


緑園と静音はハイタッチ。

 他の部員も近く、


「どうしたんですか? わざわざこんな時間に?」


「んー。実は」


静音は、眉にシワを作り顔をしかめた、


「ごめん、パソコンが来ない」


「「「「?」」」」


一同、何を言っているか分からず頭を傾げる。


「と、言うと」


「えーと。そのつまり……頼んでたパソコンが手違いでさ。注文されてなかった」


「はぁー。まぁだったらアイツらには、暫く携帯で」


優也がそう言っていると


「まって! それって、私の頼んでた奴も来ないって事!」


「うん」


「ふ、ふ、ふ、ふざけるなー!!!」


放課後の語手ノベル部にリンの声がこだました。

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