第3話もう1人の新入部員

「さて、という事でこの語手ノベル部に新たに2の新入部員が入りましたー」


ドンドン、パフパフー


という音が隣から流れる。

 因みにさっきのセリフは、荒神先輩だ。

 あの時の先輩はわりと生き生きしてたけど今のセリフはだいぶ平坦だ。何というか、ギャップのある人だ。

 ていうか、それより


「あの! 2人ってどういう……」


そう、荒神先輩は確かに、2人って言ってたはず。なのに、今は俺1人だ。


「そういや。確かに。どういう事だ優也。てか、リンもいねーし」


長身の先輩、緑園先輩が聞く。


「あー。そう言えば」


「やっほー」


気怠そうな声と共に1人の先輩が入ってきた。

 水色のパーカーを制服の上から羽織った先輩。

 竹野丘リン先輩だ。その後ろに1人の女子がついて来ている。

 黒髪をポニーテールにし目元にホクロのある女子た。顔は凛々しくクールと言った感じだ。

 背中をビシッ伸ばし、委員長なんかをしてそうな感じだ。

 

「誰?」


この部で最も常識人である菊川先輩が聞く。


「あーこの子は」


「矢島綾音です。本日よりこの部に入ることになりました。

 よろしくお願いします」


そう言い頭を下げる。成る程、彼女がもう1人の新入部員か。


「矢島って事は」


「そ、やっさんの妹」


「あー成る程ー」


緑園先輩とリン先輩が何か話しているがまぁ、関係ないだろう。


「さて、それじゃぁ新入部員も揃った事だしやるか!」


その声と共に他の先輩達はトボトボと自分の部屋に入つく。

 ……って! まてまて!


「あの、俺達は」


思わず近くにいた緑園先輩に聞く。


「ん? あー。ごめん。お前らの席そこな。パソコンはまだ準備できてねーから携帯でやっといてくれ。

 あっ、紙でいいぞ、出来たら、声かけてくれ。あっ! もしかしてもう出来てるとかか」


と、一方的に喋る緑園先輩。

 いや、そうじゃなくて……


「いや、その前に俺……小説書いた事ないんですけど」


その声と共にバシーッとという雷の落ちる音が聞こえた、ように感じた。

 そして、空気が固まった。

 え? 何これ。 何この「俺がおかしな事言った」みたいな感じ。


「え、嘘……お前……何でここにいるの?」


声を振るわせる緑園先輩。

 イヤイヤ!


「貴方達が俺をここに連れ込んだんでしょー!」


あっ、しまった。つい声が


「……あー。だったな。ごめん。すっかり忘れてたわー」


と、言いカラカラ笑う緑園先輩。結構イメージに合わない笑かたするんだなー。


「なぁ優也ー」


と、椅子を回転させ荒神先輩の方に向いた。

 

「ん?」


荒神先輩はイヤホンを外しこっちを見る。


「何?」


「いや、こいつらが小説の書き方が分からないって言うんだよ」


「ん? それ普通じゃね」


「えっ! お前は知ってたのかよ」


「逆に幸、君は知らなかったのかよ」


「だって、お前らが必死にコイツを入れようとするから。私はてっきり」


「それは……また。はぁー。輝、綾音。とりあえずまずは、創作物に触れる事だ。

 お前ら携帯持ってるよな。ちょっと出せ」


俺と綾音は携帯をポケットから出す。

 荒神先輩は、俺達の携帯を奪うとすぐにメッセージアプリであるコミューにフレンド申請をする。

 そして、2つのURLを送った。


「あの、人の携帯を。ていうかこれは?」


「それ、俺と幸が投稿してる小説サイトのURLだ。とりあえず読んでみろ。

 それとも、普通に商品化してる奴が良いか?

 だったらそこにある本棚からテキトーに読めば良い。

 まぁ、パソコンも来てない事だし最初のうちはそれで良いんじゃないか?」


うーん。釈然とはしないけど。まぁ、しょうがない。

 俺は本棚の方に目を向ける。漫画とラノベが殆どだが中には絵の書き方が載っている資料なんかもある。

 なんか、人の趣味を垣間見てる気になるな。けど、俺小説読まないしなー。

 どれが。

 

「あの、私書いてるんですけど」


「えっ! マジで」


「はい。これを」


そう言い、鞄から一冊のノートを取り出し荒神先輩に渡した。


「読んで良いか」


「はい。」


「じゃ、集合ー。綾音が自作の小説持ってたからみんなで読むぞー」


その声に他の人達も作業を辞めて来た。


「おー。ノートに書いてる。なんか、昔の自分を見てるみたいでむず痒いな」


「それには同感だ」


そんな会話をしながら先輩達はノート取り囲んだ。

 俺は全くついて行けてない。

 と、そこに


「何やってんだ。お前もコイ。これは、ウチの部活のルールだ。

 小説を書き終えたらみんなで読んで指摘し合って感想を言い合う」


と、緑園先輩がこっちを見ながら言う。


「それ、今先輩が作ったわけじゃないですよね」


「なっ! 失敬なこれは普通にあるんだぞ」


見かねたのか荒神先輩が


「それは、本当だ。いいからコイ」


という事で俺も輪の中に入る。

 

         ♢♢♢


矢島が書いていたのは恋愛小説だった。

 主人公の女子は、ごく普通の女の子。そして、カッコいい彼氏がいる。

 しかし、その彼氏は化け物でその力を使うと性格も変わり記憶もリセットされ全くの別人となる。

 少女漫画のようなノリの恋の駆け引きだけでなく、バトルもあって男の俺でも普通に読めた。

 多分、この主人公のヒロインにも何かありそうなんだよなー。

 30分で取り敢えず10話まで読みそこで先輩達はノートを閉じた。

 俺はふっとこの荒神先輩と緑園先輩。この2人の雰囲気が変わったように感じた。

……というか……空間が変わった。

 そう、変わったのだ。あの、俺が初めてこの部室を開いた時のあの空間に。


「さて、それじゃぁ評価だけど。幸、からどうぞ」


荒神先輩はあの時と同じライフルを。緑園先輩もあの時も同じ黒い鎧を嵌めている。


「えっ、私から。まぁ良いけど。私としては、10点満点中4だな。

 設定は面白いけど」


そう言い、緑園先輩はゆっくりと歩きだしそういう。


「それだけになってる感じがする」


その言葉と同時に走り出す。そして高くジャンプすると体を回転させて綾音向けてパンチ!

 って、だから何これ!


(注・これは緑園と荒神のイメージを周りの人間が共感しそう感じているだけで、実際は起こっていません)


「始まった」


菊川先輩がニヤリと笑いながらそういう。


「それってどういう……」


「まぁ、見てれば分かるわ。あの2人が馬鹿だって事が」


リン先輩俺の横で手を組みながらそう言った。

 ていうか、この2人もこの異常差に順応できてるのね。

 俺はそっちの方がビックリだわ。


「所々来るバトルシーンも少しくどいかな。これは、私の考えだけどバトルシーンはもっと爽快感があった方がいいと思う」


そこから、そう言いながらの怒涛のラッシュ! パンチが蹴りが綾音の体に傷を付ける。

 そして、最後に大きく体を退け反らせてのパンチ。

 そして、それは綾音の腹に減り込み、綾音の華奢な体は壁に激突した。

 土埃で綾音の体は見えない。しかし、先輩達はお構い無し。

 土煙の中にいるであろう綾音に向かってライフルを構える荒神先輩。


「そぅだね。俺はキャラについて言わせてもらおうかな。

 まずキャラが全く立っていない!」


 そして容赦なく引き金を引いた。発射された弾は龍となり綾音を襲う。


「会話分の時の口調も同じだし!」


そう言い引き金をまた引く。次に発射された弾はドリルのように螺旋を描いた光を纏った弾だ。


「このキャラが何のキャラかっていうのもバレバレ! これじゃぁ、読んでる方は冷えた気分になる!」


最後に留めたばかりに引きガネを引く。その弾は銀色に光り、銀色の尾を引いている。

 そしてその弾は壁に激突すると壁に亀裂を走らせ崩壊させた。

 

「こんな物かな」


荒神先輩が後ろを向いた。

 その時だった。


「だったら……貴方がた先輩は! 今行った事が出来てるんですか。ねぇ!」


壁が崩壊した時の土埃が止み中からボロボロの綾音が現れた。

 体中に傷がつき血が流れている。しかし、そんな事より俺が目を引いたのは綾音の右腕だった。

 右腕は巨大カし不気味な形と巨大な爪が付いている。

 アレは綾音の書いた小説の主人公のヒロインの彼氏が化け物の力を解放した時、武器にしていた腕だ。

 まぁ文章だけでしか、俺知らないから特徴を当てはめた推理でしか無いけど。

 その言葉を聞き荒神先輩と緑園先輩はニヤリと笑った。

 まるで、その言葉を待ってましたと、言わんばかりの顔だった。

 そして


「そう思うなら」


「読んでみろ!」


息ぴったりに言った。突如、空間が歪んだ。

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