第138話:縁は異なもの転がるもの③


 「ほら、言ったでしょ。本人は清々しいほど気にしてないって」

 「うん。いろいろ計らってくれてありがとう、リック」

 「どういたしまして。――ところで僕も聞きたいんだけど、あの子の容態は?」

 「……芳しくない。相変わらず、だが」

 見守っていた近衛騎士の問いかけに、殿下が静かに答えた。ぱっと見にはあまり変化がないみたいだけど、声のトーンとか目の表情がふっと暗くなったのがわかる。やっぱりあんまり具合がよくないのか、リュシー。

 「今日の移動もぎりぎりまで様子を見ていた。短時間ならばどうにか耐えられる、との治癒師たちの判断に従ってああいう手段を取ったが、……後々の反動が気掛かりだ」

 さっきの光景を思い出す。虹のゲートをくぐってきたお付きの人たちの真ん中に、護衛らしいがっしりした男性四人で担いでいる輿があった。ちょうど人がひとり横になったまま乗れそうなサイズで、周りをすっぽり覆って垂れ下がる薄絹が淡いピンクだったのもあって『ああ、リュシーが乗ってるんだな』と直感したのだ。

 ひと月ばかりも寝付いているってことだったし、自力で移動するのは難しいだろうとは思ってたけど、起き上がる体力もないほどだとは……

 「よっぽど弱ってるんですね……」

 「必要最低限の食事は摂れるが、動こうとすると気力がついていかないらしい。あれでも先日、リックから受け取った知らせを聞いて日中は意識を保てるようになったから、以前よりは改善しているんだ」

 「知らせ? りっくんから?」

 「正確にはアルバスの言伝てを仲介したものだが。君が生きて元気にしている、という」

 予想もしてなかったセリフに、とっさに言葉に詰まる。そんなわたしに、さっきみたいに淡く微笑んだ殿下が静かに言い添えた。

 「……アンリさんに会えるなら頑張って元気にならなきゃ、と口癖のように言っている。後で顔を見せてやってくれ」

 「――っ、はい!」

 さすがはゲーム擦れしてるオタ友をして『今時珍しい嫌みゼロのマジ天使』とか言わしめた主人公、いい子過ぎか! いや知ってたけど!! 中身が代理で申し訳ないけど、わたしで良かったら看病でも何でもするよー!!

 『ご主人、よかったねえ』

 『ふぃー』

 「ううう、二匹ともありがとう~~」

 心の中で叫びつつ、感動にうち震えてまたもや涙目になったわたしの肩をポンポン、と叩くものがあった。さっきからおとなしく話を聞いていたティノくんのしっぽだ。反対側に乗ったリーシュも、片方の翼でぺふぺふしてくれている。相変わらず優しい。ついでに素敵にもふもふだし、ほんとわたしってパートナーに恵まれてるよなぁ。


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