第139話:縁は異なもの転がるもの④
『ねえねえ、そういやあれってどうなってたの? 王子さま、笛で魔法つかえるの?』
「ああ、あれか。残念だがおれの力ではないんだ。王家に代々伝わっている品で、奏でることによって別の場所同士を繋げる通路を作ることができる。虹竜笛(ビフレスト)と名付けられているな」
『じゃあ楽器もふけるんだ、すごーい!』
「……そうか? ただの手遊びで覚えただけなんだが……」
わたしの肩からえいやー、と遠慮なく跳び移って、楽しそうに誉めてくれるティノくんだ。それに応じるレオナールさん、キョトンとしてるけどほんのちょっぴり嬉しそうでもある。よかった、ちょっとだけ元気になったかも。
殿下の趣味および特技は、なんとも優雅なことにフルートの演奏だ。長男かつ一人っ子なのでまず確実に王位を継ぐことになるし、その日に備えて現時点でも多忙を極めているこのひとの、数少ない大切な癒しなのである。まさか生で聞けるとは思ってもみなかったけど、現世のテレビ中継で見たプロの演奏に勝るとも劣らないレベルだった。さすがは社交界で『完全無欠の君(ロア・ドゥ・パルフェ)』なんてすごいあだ名をつけられた、って設定なだけある。
『詩人さんはコンサーティーナっていうのがじょうずなの。ご主人のおともだちってみんなきようだねー』
「ああ、フェリクスのことか? 彼は職業柄、おおよそ何でも弾けたはずだ。アルバスもリュートが得意だし、リックは確かフィドルが」
「ヴァイオリンて言ってください殿下。僕は民族音楽は履修してませんので」
「……そうか? いつだったかに泊まった宿で、アンリたちの歌に合わせて早弾きしていたような」
「何でそんなことばっかり覚えてるんですか! あんな乱暴な演奏は二度とごめんですからねっ」
せっかくほめてくれてるというのに、当のりっくんは渋ーい顔をしてそんなことを言っていた。なにか譲れないこだわりがあるらしい。
「ねーアルバスさん、フィドルとヴァイオリンの違いってなんだっけ」
「あー、モノは同じだが奏法が違うんだ。聞けば一発でわかるから今度リックにやってもらうといいぞ」
「はーい!」
「やらないってば!!」
「あっちのメンバーは器用なひとばっかりね。うちだと若旦那がかろうじて行ける感じ?」
「わあ、どんなのですか?」
「は!? ……いや、その、胡弓を少しばかり」
「えっすごい! あの弦が二本しかないやつですよね!?」
「いや、本当に手遊びにもならぬ練度でして……こちらには持ってきてもおりませんし」
すっかり話題が横道にそれたところで、思いがけないパスを回されたショウさんがしどろもどろで答えてくれた。やだ、それ絶対にカッコいいやつじゃないですか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます