第134話:王子が来たりて笛を吹く⑤
考えてみたら、魔王を蘇らせる目的だって分かってないのだ。誘拐犯はいちおう何を呼ぶかってことは知ってたし、莫大な報酬をもらう約束であちこちから生贄を誘拐してはいたけど、何のためにそんなことをするかまでは聞かされてなかった。深入りしすぎると命がヤバそうだったから――というのが当人の言い分だ。まあ、そりゃそうだよなぁ。
もっとも、当たり障りなく仕事が済んだとしても、口を封じられる危険は最後まであったとは思う。というかそれ以前に、魔王が再臨したとき一番近くにいる人間になるはずなので、それに巻き込まれるとか出合い頭の事故とかでお亡くなりになっていた可能性はかなり高い。なんせメインキャラですら、選択肢を間違えると容赦なくデッドエンドを迎えかねないというシビアな『エトクロ』世界だ。
「とにかく、まだ事件は終わったわけではないということだ。わざわざこの離宮を舞台に選んだのも意味があると思った方が良い。
グレイ殿、グローアライヒ王城の動きがどうなっておりますか」
『今のところ目立ったものはないようだ。直に戻る現王太子もいたって健康だよ。……まあ、彼は少しくらいしょげている方がちょうどいいかもしれないけれど』
「え、どゆこと?」
『うちの、いや、彼らヘリオドールは元々武芸を生業としていた家系でね。代々の君主も、何か一つは得意な武器の扱いや戦法を身に付けていた。
一から国を創るに当たって力を貸してくれた民草を守るのは、誰よりもまず王であれ、といってね』
そんなこんなで王位を継ぐ可能性のあるなしを問わず、小さい頃からひととおりの武術を習うし、魔法の扱い方も早くから学んで自分のものにする。今の王太子も例にもれず武闘派で、なおかつ責任感が強く真面目な性格なので、いざとなったら関係者を押しのけて先陣切りかねないくらい元気なんだとか。
『いや、決して猪突猛進という訳ではないよ? 話せばわかるし、次期国王に相応しい度量もあるんだけれど、それだけに責務に対して忠実すぎるというか熱くなりやすいというか……』
「あ、何となくわかった。熱血タイプで走り出すと止まらない系?」
『そうそう、まさしくそれだ。君は勘がいいね』
思いついてはい、と手を挙げたわたしにぽんと手を打って頷くグレイさんだ。続けて軽くため息をつくと、
『相手の狙いが何にせよ、民草を害する方向なのだけは間違いないだろう。あの子は出来た太子だがまだ若い、うっかり暴走などしなければいいんだが……』
『グレイさん、なんか親戚のおねーさんみたい~』
「まあ身内っていえば身内だからね、うん」
どさくさに紛れて肩によじよじ、と登ってきたティノくんとそんなやり取りをする。物静かで慎重なランヴィエルの殿下とは、ほぼ正反対に近い性格なんだな。どういう経緯で仲良くなったのか、隙間のエピソードまで網羅しておきたい原作ファンとしては非常に気になるところである。
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