第133話:王子が来たりて笛を吹く④
ぱたぱたぱた、と軽い羽音がしてそっちに目を向けたら、リーシュが飛んでくるところだった。街に戻って色々用事を済ませるメンバーといっしょに行ったので、今朝から別行動してたのだ。
「お帰り、どうだった?」
『ふぃっ』
差し出したわたしの手のひらにちょこん、と着地して元気に鳴き返してくれる。そこでちょうど、追いついた男性陣が部屋に入ってきた。
「お帰り~。なんか収穫あった?」
「ああ、うん、それなんだけど……なんかややこしいことになっててさ」
「へ?」
帰宅いちばんで意味深なセリフだ。言葉通り困りきった顔で頭をかいているディアスさんに代わって、我らがリーダーが口を開く。
「先程、帰りがけに冒険者ギルドへ寄ってきたのですが。くだんの下手人を尋問した御仁から、妙な話を伺いました」
いろいろありすぎた離宮のダンジョン攻防戦後、ぷっかり浮かんできたのを回収して一応手当てしてあげた犯人なんだけど。フードとか取った素顔がやたらと地味で、いろんな意味で驚いたのを思い出す。
いや、言い方はひどいけど、一応悪口とかではない。飛び抜けてきれいではないけどものすごく不細工でもない、本当になんの特徴もなくて、町中ですれ違ったら一分後には忘れてそうな男の人だったのだ。
意識が戻ってわたしたちを見るなり、お化けに遭遇したみたいな絶叫を上げて猛スピード後ずさりを披露されたのは記憶に新しい。幸いひどい怪我とかはなくて、簡単に治療したあとすぐにギルド側へ引き渡したのである。あれから数日、職員の皆さんは地道に聞き取りを続けてくれてて、そろそろ黒幕の話が出揃った頃かなと思ってたんだけど……
「誘拐した魔法生物については、ほぼ滞りなく聴取が済んでおります。……しかしあやつ、依頼主のことはさっぱり思い出せぬと言い張っておりまして」
「ええ!?」
「いや、いくらなんでも無理があるでしょ。しょっぱなからりっくんとこみたいな伝令越しにやり取りしてたわけじゃあるまいし」
「アニキ、人間ウソ発見器は?」
「もちろんやったよ、許可もらって。でもホントに何にも出てこなかったんだよなぁ……スコールも頑張ってくれたんだけど」
「すみません、鼻には自信があったんですけど……あと、捕まるまでは覚えてた気がする、とも言ってました」
しょんぼりしてる当人、耳としっぽがぺたんと寝ていて気の毒な様子である。そんなの気にしなくていいのに、相変わらず真面目な子だなぁ。
ディアスさんの生得魔法の性能は、実際かけてもらった身として保証できる。人間の何倍も鋭い感覚を持っている獣人さんたちだってもちろん同じだ。その両方が口をそろえてこう言うのなら、やっぱり本当に覚えてないんだろう。
そんなことして得するのは、間違いなく背後に控えてる黒幕だろうけど、いちばんの問題は何をどうやったのかだ。遠隔で特定の記憶を消す魔法なんて、一ヶ月必死でゲームをやり込んでたわたしも見た覚えがないし……
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