第132話:王子が来たりて笛を吹く③
「そういやイオンとカナンさんは?」
『先程中庭で行き会ったよ。昼寝が済んだので散歩にいくとかで』
「ああ、そういやそんな時間か。良く寝るようになったわね、あの子」
「安心したんだろうねえ。よかったー」
フィアたちが言った通り、お母さんと再会してからのとかげさんは甘えた全開だ。ご飯のときも寝るときもずーっと一緒で、付きっ切りでお世話してるカナンさんもとっても嬉しそうで、微笑ましいったらなかった。まあいくらしっかりしたいい子でも赤ちゃんなんだし、いきなり何日も離れ離れになったら不安でしょうがなかったろうから、仕方ないか。
――海ぬ
止まれ 止まれ 梯梧散らし
『とぅーまれ、とぅーまれ、でいごちらし~♪』
風に乗って、カナンさんの歌う声が届いた。何度か聞いたことがある、南海の子守唄って教えてもらったやつだ。ときどき混ざる可愛い声はイオンだな。
聞けば海竜はクジラとかに生活スタイルが似ていて、子どもはお母さんと過ごす時間が一番長い。旅の仕方や餌の捕り方、魔法の使い方など、必要なことを教わりながら各地を回游して、独り立ちするまでずっと一緒に過ごすんだそうだ。
この子はまだまだ先だけど、そうなったら寂しいだろうねぇ。そう言って苦笑してたカナンさんを思い出すと、ちょっと切なくなる。それだけ可愛くて大事にしてるんだろうな。
(……うちのお母さんもそうだったのかなぁ)
ふと、そんなことが思い浮かんだ。毎日忙しくてつい忘れがちだったけど、元の世界ってどうなってるんだろう。いきなりわたしがいなくなったんなら、今頃大騒ぎになってやしないだろうか。だからって今すぐどうしようもないけど……もっとちゃんとお手伝いとか、しとけばよかったなぁ。
「いいなぁ……、あ」
いろいろ考えてたら、うっかり口からそんな言葉が出た。はたから聞いたら意味不明――と、思ったら、
わしゃわしゃわしゃわしゃ。
一斉に伸びてきた手と前脚と、何本かはしっぽとか尾びれも混ざってたけど、とにかく頭をヨシヨシされた。犯人はその場にいた、小動物さんを含む全員だ。
「えっ、なになに!?」
「いや何となく」
「右に同じくー♪」
『ご主人いい子いい子~』『こんこん』『ひぽ~』
『貴女はよく頑張っているよ、周りの縁に恵まれているのが何よりの証拠だ。私のことは祖母とでも大叔母とでも思ってくれて構わないから』
「なんでそんなに上世代!? お母さんとかお姉さんとかは!?」
『うーん、見た目はどうあれ実際の歳は恐ろしいことになっているからね。ここは謙虚に行っておこうかと』
「そんなあっさり!!」
ははは、と爽やかに笑いながらあっけらかんと言うバンシーさんである。数日間の付き合いで判明したのだが、この方は某歌劇団の男役みたいなしゃべり方同様、穏やかかつめちゃくちゃさばさばした性格なのだった。
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