第102話:書庫の六人+α①
一方、冒険者ギルドに出向いた男性陣はというと。
「……いやー、依頼って一口に言っても、ほんとにいろいろあるよなぁ」
本館に隣接された資料室、そのさらに奥まったところにある書庫の一角。受付で本日いっぱい借り受けたい旨を伝えてカギを預かって以降、ひたすら資料に目を通している一同がいた。さきの一言は、机に運び出した資料を見て感心したディアスのものである。
なんせ、ちょっとした手伝いからダンジョン探索まで、冒険者に向けた依頼の内容は多岐に渡る。それがひと月分ということになると、冗談ではなく山のような分量なのだ。加えて束ねた紙というのはなかなか重たいので、出来るだけ早く済ませようと男性全員で取り掛かることにしたのだが、実はあまりはかどっていないのが実情だったりする。
「あくまでもこれは表向きの文言、いわば建前だ。内情は実際に依頼を受けるまで聞かされぬこともある。殊に駆け出しで経験不足と判断すると、足元を見てくる輩が多いな」
「そーいう裏表のあるしごとってのは、報酬が高いぶん危険度がとんでもなかったりするから気をつけろよ。いわゆる口止め料込みってヤツだな」
「は、はい!」
さすがにこうしたことには詳しい。すでに年単位での先達であるオズヴァルドとアルバスがこともなげに言うのを、真面目に受け止めていい返事をしているスコールである。……が、その一方で、
『アニキのおにーさん、なんかすごい実感こもってるー』
「さては一度ならず引っかかってるだろー、兄貴」
「やかましい! さらっと痛いとこ突いてくんなっ」
「ぐえええええ」
『きゃ~~~~っっ』
「はいはい。仲睦まじいのは良いことですが、今は口より手を動かしてくださいね? イオンさんとお母様の未来がかかっていますから」
実に楽しそうに茶化した弟、および雷獣にヘッドロックが炸裂中の盗賊ブラザーズに、フェリクスが冷静なツッコミを入れる。その手元にもまた、紐で括った分厚い依頼書の束が置かれており、やり取りのさなかも目線が外れることはなかった。普段の楽器演奏で指が鍛えられているのか、紙をめくるのがとんでもない速さだ。
本を保管するという都合上、日光で紙が焼けてしまわないように窓が締め切られており薄暗い。それを補うべく、作業に入る前に魔法の明かりをつけたから、手元に影が出来なくて読みやすいのもあるだろう。獣油ランプの淡い赤色光だとこうはいかない。
(温かみのある灯は、自分としては好きなのだが)
こちらも紙の束と格闘していたショウの脳裏に、ふと以前の記憶がよぎった。そういえば以前、イブマリーも同じことを言っていたように思う。
あれは確か、最初に養生していた宿を発つ前のことだ。怪我が大方回復した彼女のためにと、皆で散歩に出たことがあった。小さな村をのんびり一周して、戻ってきた頃はちょうど黄昏時で。宿の軒先に下がったランプの光に、ほっとした表情で笑っていたのを覚えている――
『ふぃーふぃ、ふぃー』
「……ああ、済まなんだな。忝い」
『ふぃっ』
そんなこと考えていたら、いつの間にか手が止まってたらしい。手伝ってくれているリーシュが、すぐそばまで飛んできてぱたぱたと訴えてきた。素直に謝ってのど元を撫でてやり、作業を再開する。
カラドリウスは精霊の一種なので、実は性別を持っていない。ざっくり男性陣でと決めた際、リーシュは女子グループに行くことも出来たのだが、本鳥が自分からこっち側についてくれた。まだ赤ん坊で、母親とはぐれて寂しい思いをしているイオンが、最も懐いているイブマリーとより一緒にいられるようにと気を配ってくれたのだろう。同じくらい小さいように見えるが、確かにこの子には重ねた年月分の洞察力が身についているのだと実感した場面である。
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