第103話:書庫の六人+α②
いや、もちろんリーシュも偉いのだけれど。
(その賢さは、主たる御仁の性質ゆえだろう)
ただ物事を知っているだけのものを知恵者とは呼べない。生きていく中で実際に使ってこそ、その真価が発揮される。そしてそれを促すのは本人の心掛けであり、周りに集う人々の性情だ。カラドリウスも雷獣も、今最もそばにいる海竜の子どもも、イブマリーの大らかで温かい人柄ゆえに能力を示せているのだろう。
つくづく不思議なひとだ、と思う。最初に崖下で倒れているのを見つけたときは、怪我を負っていたこともあってあまりにも生気が希薄で、眠り続ける姿は美しい人形のように見えたものだ。
数日を経て意識を取り戻し、じかに言葉を交わしたとき、淡い色彩と儚げな容姿からはかけ離れた知性と芯の強さに驚いた。あれほどの痛苦を受けてもなお人を信じ、残してきた同胞を心から思いやれるものなどそうはいない。例えていうなら雪に埋もれて、どれほどたわんでも決して折れないなよ竹の強さだ。
かと思えば、時おり全く世俗を知らないような純真すぎる言動をする。野宿の時の誉め言葉などいい例だ。自分だったからまだいいようなものの……
「……だぁから、なんでそこまで気にしててこっち来たかなーうちの若旦那は」
「はっ!? だから心を読むなとあれほど!!」
「いや、俺読んでないからな? 今思ってたこと全部顔に出て、そりゃもう見事に百面相してたから」
「~~~~~~っっ」
ここまで来ると、もはや微笑ましいを通り越して呆れてしまう。完全に半眼になっているディアスの指摘に、頭を抱えて机に突っ伏す我らがリーダーである。なんてことだ。
しかしながら、悲喜劇はここで終わらなかった。今まで黙々と作業に没頭していた年長者たちが、そろってこっちに興味を示したからだ。
「何だ、とうとう自覚したか。もっと時間がかかるものだと踏んでおったのだが」
「……あ~、十中八九うちのヤツのせいだろ。そりゃあんだけ露骨に牽制すればなぁ」
「こちら側からの参戦は心配しなくて大丈夫そうだ、と言っていましたからね。良い意味合いで伸びしろがあるのだから、まずは腕を磨く方に専念してもらった方がいい、と」
「そーいうことは言わんでいい」
『えーなになに、アニキのおにーさん若だんな推しなの??』
「……推しってなんだ、おい」
『うんとねぇ、とくべつ応援してるってこと。リラとかご主人が言ってたの』
「しばらく会わなかった間にだいぶ世間に染まってんな、姫さん……」
ぼくも覚えたー、と楽しそうに片前脚を上げて申告するティノである。さっきまで拳骨でグリグリやられていたというのに、このあっけらかんとした物言いはいかがなものか。ホントに反省してるのかお前、と、疑念のまなざしを送るアルバスである。
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