第37話 血の香り ACT3

「わぁ、大きな病院」


園がここに来るのは初めてだ。僕他定期的に来ているからいつもの見慣れた風景なのだが……。


ここは某大学の付属病院。そこに併設されている研究室。そこが彩音さんがリーダを務めるラボだ。


受付で、僕は入館ライセンスカードを提示すると、入館証が交付され、それを首から下げて晴れて特別エリアへの侵入が許可される。園はライセンスカードがないため、彩音さんが事前にアポイントビジターとして登録をしておかなければいけない。


「豊島園様ですね。ビジター申請がなされおります。こちらにご連絡先とご住所、お名前をご記載ください」


受け付けの事務員の言われるまま、所定の申告用紙に記載し、入管証が交付された。


「なんか物凄く厳重そうね」

「ん、そうぉ? でもここから少し離れているんだ彩音さんがいるところ」

「……そうなんだ」


物珍しそうに辺りをきょろきょろと見回していた。


彩音さんのいるラボはこの病院の一番奥にある。一般の外来ホールには多くの患者さんがいたが、そこから外れると人の姿ほとんど見当たらない。


ようやく見慣れたエリアに入るとすぐに「西明寺彩音研究室……だよ!」と張り紙が張られた扉を開ける。


「こんにちわぁ!」

「おお、景ちゃん。待ってたよ」


いち早く僕の傍にやって来たのはこのの研究員、時田昭ときたあきらさんだった。


「ううううう、こんなにも可愛い景ちゃんに、またこんなにも早く会えるなんて僕は幸せだぁ!」

僕に抱き付きながら感激の涙を流す時田さん。


「時田さん大げさすぎだよ」


「そ、そんなことないぞぉ! 僕は景ちゃん命なんだから。景ちゃんファンとしては当たり前の行動だ!」えっへん!


そうなのだこの人男性なんだけど、この女の子姿の僕にべた惚れなんだよね。

もちろん僕が男の子だって言う事は知っている。


彼曰く「景ちゃんが男の子であっても可愛いものは可愛いんだ。そんなちっぽけなことなんか俺は気にしない」

ああああ、この人と長く時間を共にしているとBLの世界が見えてきそうな気がする。


この前の検査の時なんか、真っ赤なバラの花なんかプレゼントされて、別な新たな世界へと僕を引き込もうとしている感がみえみえだったよ。


そして僕の後ろにいる園の姿を見て


「もしかして彼女が景ちゃんの第一伴侶なのかい?」

「うんそうだよ。豊島園。僕の妻なんだ」


「ああ、そうなんだ……」急激に変わる時田さんの態度。この落差は何なんだ。


そしてもう一人僕に声をかけて来たのが、もう一人の研究員の植野真奈美 うえのまなみさんだ。


「まったく! 時田ぁ、あんたいつもながら何なのよ。呆れちゃうわね」

「うっせぇ! 俺の趣味にケチつけんじゃねぇ」


「ふぅ―ン。あなたが豊島園さんなのね。さすがにきれいな子ね。ああ、若いっていいわぁ……。どうせ私はもう時期30歳を迎える。『お・ば・さ・ん』よ。現役の高校生に勝うなんて思ってなんかいないわよ。そうそう、私はおばさん……おばさん……ああああああああ! 私おばさんなんだぁ!!!!」


「あ、園さんって言ったよね。彼女の事気にしなくてもいいから。いつもの事なんだから」


時田さんがあきれたように園に向かって言う。でもさぁ時田さんも植野さんも、どっちもどっちなんだけどさぁ。まぁでこの二人はいつもこうだから僕は馴れているけど、園はちょっと額に青筋がたっているような気がする。僕の後ろから、異様な殺気を感じているからだ。


「ところで彩音さんは?」


「あああ、彩音先生なら今無菌室に入っているよ。もうじき出てくるんじゃないかなぁ」


その時まるで飛行機の搭乗口のドアみたいな扉が、ガチャッと音を立てシューという音を立てながら開いた。


「あ、景ちゃん」


彩音さんは僕の姿を見つけると、たたたたたたっと駆け足でやってきて僕に抱きついた。


「う―ん、いらっしゃい景ちゃん。遠かったでしょう」


「あのさぁ彩音さん。朝も家で一緒だったし、あれから半日しか経っていないんだけど」


「だってだってぇ! ここでこうして白衣を着ている私は、飛鳥彩音じゃなくて西明寺彩音なんだもの。今は私はあなたの母親じゃないんだもんね」


「ああ、そうですか……はぁ」とため息が漏れてしまった。そう言いながらも「高校三年生やってるときも母親じゃないんでしょ」それには全くのスルーで「園ちゃんもようこそ私の城に」と言ういつもと、雰囲気が違う彩音さんの姿に少し戸惑いを隠せないでいる園。


ごめん園、何が何だか分かんなくなちゃってるよね。


「ま、とりあえず先にやることやっちゃいましょう」

時田昭ときたあきらさんが彩音さんを遮り、僕らに検査をさせるための準備に取り掛かった。


「あ、豊島さんと景ちゃんこっちの椅子に座ってちょっと待っててね。最初に採血してから、MRI投影検査に入るから。ええッと豊島さん、念のため刺青とかはしていないですよね」


園はそれにちょっとむっとしながら

「してません!!」

ああ、なんか園怒っているよなぁ。


「……で、あのね……」

「はいはい、彩音先生はここに座っていてください」


ちょこんと椅子に座らせてお辞儀よく手をまえにして座った。


「あのね……」

彩音さんが声をかけると、時田さんが

「ああ、高校生の生徒先生は静かにしていてくださいね」


「……はい」律義に返事をする彩音さん。


「で、何であんたが仕切ってんのよぉ!! ここで一番偉いのはこの私! 西明寺彩音なんだからね。わははははは!」


「ああ、ちびっこい高校生がただ白衣を着て、チョロチョロ実験用のマウスみたいに動かれても、今は邪魔なだけですから……静かにしていてください」


「ううううっ」とうなりながらも彩音さんは、おとなしく椅子に座ってじっとこちらを見ていた。


最初に僕の腕から注射針で採血され、その次に園が採血された。

続いてMRI検査を受けてようやくひと段落したところで、彩音さんがお茶を淹れてくれた。


「ごめんねぇ園ちゃん慌ただしくて」

「ええッと、今日は私何の検査だったんですか?」


「……うん、検査結果出るまで少し時間かかるんだけど、結果が出た時に説明するよ」


「それと……ここの人たちって景が吸血鬼だということ……」

「うん、知ってるよ。そのための検査なんだけどね。それと私が半妖だっていう事も二人とも知っている」


「ああ、彩音先生は見かけは高校生 なんだけど、本当の年齢は……」

ごん! と彩音さんが時田さんの頭をトレーで叩いた。


「いててて」

「うるさい! 私はずっと永遠の18歳なの。パパと出会ったあの時の姿で私は一生いるんだから」


「なんかそれって、ずるくないですか?」

指を銜え植野さんがうらやましそうに言う。


「それが西明寺彩音の特権なんだから」

やっぱり、ここに来るといつも思うんだ。


これが彩音さんの本当の姿なのかもしれないなって。


でもこの後、彩音さんの口から訊いた事実は、僕らを新たな道へと誘う事となる。


夢の中で出会った。第一世代の真祖。彼が言った言葉が僕を誘う。





「我が真祖の末裔よ。第三世代の真祖と共に、この世の成り立ちを見守りなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る