第33話 もう一人の飛鳥景 ACT2

僕への使命。自分の守るべく人を守りぬく事。

父さんは言う


「力を力で押し込めるのではなく、己の想いを伝え相手を理解することだ」


相手を理解すること。それは、僕の中にいる彼奴を理解しろという事なのか。でも、僕には彼奴が何を想い目的としているのかも図り知りえない。


「ま、こんなことを言ってもすぐには分からねぇと思うけど、今は一生懸命に悩め、そしてお前自身の生き方を模索しろ。その中で自ずと何かが見えてくるはずだ」


焦る必要はない。父さんは僕にそう言ってくれているように思えた。



放課後、園と二人生徒会室の中でいつもの様に仕事を処理していた。


「ねぇ景」

「ん? どうしたの園」

「あのね、最近景何かいつも考え事しているように見えるんだけど、どうしたの?」


「考え事? ……なんでもないよ」


「嘘、自分一人だけで悩まないで、景の背負っているものを一人で解決しないで……何のための伴侶なの?」


「ごめん」


「何で謝るの。私も花楓もあなたの力になりたいという想いは変わらないのよ」


園の潤んだ瞳が僕に彼女の気持ちを投げかけるように振りそそぐ。


僕の横に来た園の体を抱きしめキスをした。


「んっもう! いきなりキスですか」

「なははは、園には敵わないなぁってさ。でも僕そんなに悩んでいるように見える?」


「見えるからそう言ってるんですけど」


「そっかぁ……園にはわかるんだね。僕の中にいる彼奴の事が」


園は僕の体を抱きしめて。

「分かりますよ。だって今まで私自身だったんですもの」

やっぱり園は何か感じるものが有るんだ。彼奴と。


「今私には二人の景がいるような気がします。どちらも正真正銘の飛鳥景。どうして一つになろうとしないんですか? もう一人の景が本来の自分を拒んでいるような感じに見えるんですけど」


もう一人の自分を拒んでいる……確かにそうかもしれない。


僕は彼奴の力に恐れをなしているのかもしれないな。


得体のしれない力、それが今自分の中にあるという事を考えたら、僕の成すべく事は何かという事が分からんなくなってしまった。


「私は今のままの景、ううん景様が好きなんです。無理に何かを変えようとはしないでください。そして、あなたはきっと私たちの前にその真なる姿を見せてくれると信じています」


「あんまり思い詰めるなって言う事かな」

「そうですね」

園はにっこりとほほ笑んだ。


「そう言えば花楓遅いですね。いつもならもう来るはずなんですけど」

「あ、そう言えばそうだね。彩音さんは多分父さんとべったりだからもう帰っちゃったかもしれないけど、花楓はまだ風紀委員の仕事してるのかなぁ」


その時花楓は、鶉依優華と会っていた。


体育館の裏にあるちょっとした庭。そこはあまり人が来ない場所。たまに風紀委員がその人目のつかない場所を巡回していた。


何故たまにかと言えば、その場所の別名が『告白の庭』と呼ばれている場所だからだ。


女子高で告白? 女子しかいないんだけど、やっぱりあるんだよねぇ。そう言うの。


同性同士の恋愛って。


あっちゃいけない訳じゃないけど、風紀上の建前と言うべきなんだろうね。風紀委員もそのことについてはあまり触れようとはしない。


「優香、あなた一体どうしちゃったの? 昔の優香とは全然違う」

「昔の私? あなたいつの事を言って言っているの?」


「いつの事って……」


「多分さぁ、あなたの知っている優華は別な優香なんじゃないのかなぁ」


「別の優華って……」


「さぁそれは知らない。私は昔の記憶はないんだよ。あってもここ最近の記憶しか残っていない。だからあなたが持っている思い出は今の私にはない」


「そんな」


「別に驚く必要はない。私はそうやって今まで生きて来たんだから。それにあなたようやく飛鳥景と結ばれたみたいだね。しかもしかも伴侶になったんだ」

「どうしてそれを……」


「まぁいいじゃない、そんなこと。それよりも一つ忠告をしておいてあげるよ」


「忠告って……」


「飛鳥景はまだ完全に覚醒はしていない。もし、完全なる真祖の力を得た時その力を沈めるのは伴侶の役目だって言う事を」


「あなたはどこまで知っているの彼の事を」


「さぁね、どこまでなんだろうね。さっきも言ったじゃない、私の記憶は最近の事しか残っていないって。でもさ、彼奴の事に関しては蓄積されているんだデータの様にね」


「でも、私のは優華はあの時の優香にしか感じないんだけど、今あなたがどんなに変わってもあの時の優しい優華にしか思えない」


「ま、それはそれでいいんじゃない。どんな形で思い出を残すかはその人次第だからね」


ふんとした顔する鶉依優華。そんな彼女に花楓はあらぬことを投げかけた。

「優華、あなた彼の事。飛鳥景の事好きなんでしょ」


「……うん、好きだよ。彼奴の事を知れば知るほど興味が湧いてくる。恋愛という感情ではないことは言っておくけど。でもさ、嫌いじゃないことはあんたには言っておくよ」


「ならどうして景の事を傷つけたりするのよ」


「さぁね。体が勝手にやっちゃうんだから仕方ないさ」


少し顔を隠させ、明らかに照れているのが分かる顔をしていた。


「もういいだろ、来平井花楓。そして風紀委員長。私はあんたたちの敵でもあるんだから、これ以上こうして私といると自分の身が危険にさらされているという自覚をもっと持った方がいいよ」


そう言い彼女は姿を消し去った。


一人残された花楓は釈然としない表情で空を見上げた。しかしこのことが後に鶉依優華に大きな影響を与えたことにまだ彼女は気が付いていない。



僕の中に存在す吸血鬼の魂。


そして、それはもう一人の自分であることには変わりはない。


今はまだこの体に二人の飛鳥景が存在しているような感じだけど、多分僕はこの二人の自分を一つに出来る日が来ることを信じている。いや信じなければいけないと思った。


その時こそ本来の僕の姿が確立されるんだと思う。

第3世代の真祖として、僕はこの世に大きな影響力を成すことを……。


フルベアート・ルクセント・ル・バンパイア。


この名に恥じない吸血鬼として。



「ねぇ景、気分転換にお化粧でもしてみるぅ?」


「えっ! 化粧って」


「だってさぁ、景っていつもすっぴんなんでしょ。お化粧しなくても十分可愛いんだけど、前から一度やってみたかったんだよねぇ」


にヘラとした顔をしながら園が言い寄って来る。


「あのぉ、化粧って僕したことないんだけど」

「だから教えてあげるわよ……ぬふふふふ」


「えっ! えっ! ちょっと待ってぇ―――!」

「もっと可愛い景ちゃんにしてあげるからさぁ」


じゅるるとよだれを吹きこぼしそうになりながら園は僕の頬に両手を添えてキスをした。


「可愛くなった景ちゃんに私をめちゃくちゃにしてもらいたいから……」


「ん? 園本当の目的ってそっちだったの?」


「あら悪い? 妻が旦那を求めちゃいけないのかしら」


園、お前、突如にエスカレートして来ちゃうその性格。これも彼女何なんだ。

これに花楓が居たらどうなってしまうんだろう。


僕の伴侶は性欲が強い……いやだんだんとマニアックになっていく気がするんだけど。



気のせいかなぁ……。

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