第31話 飛鳥頼斗 ACT4

「とにかく検査してみないと。もしかしたらライトに感染しているかもしれないし、その逆が発生しているのかもしれない。あなたが普通の人じゃないことが分かった今、興味のある題材であることは確かになったんだもの」


おいおい、此奴は俺をモルモット代わりにしようとしてるんじゃないだろうな。

……。さっき思った事ちょっと保留! こっちの命がヤバい状態になるのはごめんだ。


で、にっこりとほほ笑む彩音の顔見たら断れねぇじゃねぇか。


俺と彩音は採血をしてその血を検査させた。

結果は……。


俺にはそのなんだ、彩音が持っているという菌の感染は認められなかった。

俺が感染した菌もほとんど感知できなかった。つまりは俺は回復したという状態にあるという事だ。


そして彩音の検査結果だ。彩音の中にある菌は、あの発掘現場から採取された特殊な菌とよく似ていた。そのことが彩音をあの現場に誘ったのだ。自分と同じような菌があるあの場所で何か手掛かりが見つかればという想いがあったからだ。


そして彼女はあそこで俺と出会った。


「嘘! 数値が変化している。この数値はもしかして私に体内で抗体が出来つつあるのかもしれない」


「マジか! 治る見込みが見えて来たのか?」


「まだ何ともいえないし、何が作用しているのかも分からないけど、今まで不動だった数値が変化し始めている……もしかしてあなたから血を吸われたから?」


「いや、そんな事……待てよ。もしかして俺が血を吸うときに出てくる分泌液が作用しているのか?」


「分泌液って?」


「ほら、牙をさしても痛いのは多分ほんの一瞬だろ、それは牙の付け根から出る分泌液のせいなんだ。だから刺された方は痛みを感じない。その分泌液事態吸血鬼が持つ特殊なものなんだ」


「まるで蚊みたいね……」そう彩音は言いながら顔を赤くしていた。


「でもさぁその後が大変なんだよねぇ。実際」


「大変って?」


「あなた知らないの、刺された後に起きる症状の事」


何が起きるんだ? そもそも俺は今まで、人の血を吸ったことがなかったんだ。正直に言おう、彩音が初めての女性だったんだから。


「いったい何が起きるんだよ」

「ンもう、知らない」


彩音はぷんと怒ったそぶりをする。そして俺の手をぎゅっと握り。

「あなたを欲しくなっっちゃうの……」

「欲しくなっちゃうって、それどういう事?」


「ホント鈍感!!」またまた彩音はムスッとする。


「もしかしてほしくなるって……そのぉ、あれがしたいという事なのか?」

彩音がこくんと恥ずかしそうにうなずいた。


そうか、そんな作用もあるんだ。知らなかったよ。


でもまぁ、もし彩音を俺の伴侶に迎え入れたら、当然俺は彩音と……、やんなきゃいけねぇんだよなぁ。まじかぁ、俺と彩音の子を作る作業かぁ……。


そう考えるとなんか使命というよりは俺の性欲を収めてくれる女性を探し求めるのがこの伴侶を娶る旅なのかもしれないなぁ。いやいや、そんな浮ついた気持ちでいるといけねぇ。あのくそおやじの様にただ女をはべらかしているように見えてしまうのはなんともこっちから願い下げだ。


俺は、俺が本当に愛せる人とのみ伴侶の契りを交わす。


それが何人になるかは分かんねぇけどな。


「まぁ、なんだそんな作用が有るなんて俺も知らなかったことだ。で、でもよう、お前だったら俺、いつでもいいぞ」


「はぁ! ライトあんた、良く分かんない媚薬を使って私を興奮させてやるって言うの! なんのデリカシーもないんだ。もっとさぁ、お互いを知りあって気持ちを……。その、ああああああ! 何私に言わせてんのよぉ。馬鹿!」


まぁこんな具合に彩音と出会う事で、俺の伴侶を娶る旅は始まりからなんかつまづき状態という感じだった。


でもさ、俺。彩音に出会う事が出来て本当に良かったと思っているんだ。

こんなにも美人で、それでもって我儘で……。何かあればすぐに俺にビンタくらわすし。


ああああ。考えてみれば俺って彩音に完全に尻にしかれちゃってるよ。

まぁいいんじゃえぇか。そう思える自分がいるんだから。


もうあの発掘現場に戻ることは出来ない。それよりも、俺は彩音の体の事が心配だった。


この街で俺はしばらく腰を据えようと思った。そして、彩音の傍にいてあげることが何より彼女にとって一番力になれることだと思った。


……本音を言えばあんな我儘でやんちゃ女だけど、俺は彩音を愛していたんだ。時間が進めば進むほど彼女へのその気持ちは深まる一方だった。


この俺が彩音の傍を離れたくなかったのが本音だ。

このまま俺は彩音と伴侶の契りを結ぶものだと思っていた。


だが、俺たちはその数か月後別れた。


俺が彩音の血を吸う事により、彩音の中に潜む菌は劇的にその姿を消し始めた。

彩音の命は救われる方向性を導き出したのだ。しかしその反動が彩音の体を新たに変えて行っていることを俺は感じていた。


俺は彩音の治療もかねて幾度となく彼女の血を吸い続けた。


これにより彩音の体は改善の方向を見出すことが出来たのは事実だった。しかし、彼女には徐々にある変化が表れて来た。


それは彼女が半妖化しつつあることだ。


このまま俺が彩音の血を吸い続ければ、吸血鬼としてのあの分泌液が彩音の体内に蓄積される。それは彼女の病気に対抗する手段でもあるが同時に彼女を半妖として変化させてしまう事でもあったのだ。


このままでは彩音は普通の人間としてはいられなくなる。

だが、彼女の傍にいれば俺は彼女の血を吸わずにはいられない衝動に駆られてしまう。


我慢、と言う言葉も浮かぶが、それは抑えきれる物ではなかった。


幸いと言うべきだろうか俺たちはまだ伴侶としての契りを交わしてはいなかった。なぜこれほどまで愛しているのに俺はその先に進めなかったのか。それは未だに分からないが、あの時の俺は彩音が伴侶としてではなくともただ傍にいてくれていればそれで十分だったのかもしれない。俺の本来の目的をあの時放棄していたのかもしれない。


彩音はもう大丈夫だ。

そう確信した。


俺はそのまま、何も言わず彩音の前から姿を消した。


俺が18歳になってすぐの事だった。


それから幾年の歳月が流れたんだろうか。俺は2人の伴侶を娶り、後継ぎとなるべく子をこの世に生をなさせた。しかし、真の後継者となる子は生まれてこなかった。


この時の流れの中、心の中には未だ彩音のあの姿が残っていたのは事実だ。しかし、もう彩音と会う事はないだろう。


あれからお互いの消息は途切れたままだった。


でも俺はあの時ほど運命の出会いというものを信じるたことはなかった。


王室の事業でもある業務に俺は携わるようになり、各国の企業、財閥との繋がりを持つようになった。


そんなある日俺は日本の財閥が主催するパーティーへ招かれた。


正直王室での生活は幼少のころから大嫌いだった俺は息抜きもかね軽い気持ちでこのパーティーへ参加した。


そこで出会った……令嬢。


あの頃の面影を色濃く残しさらに美しさに磨きがかかったその彼女を一目見た時、懐かしさと、心の痛みを感じずにはいられなかった。


その令嬢の名は……。


西明寺彩音さいみょうじあやね


彼女はずっとこの俺を、俺がまた彼女の前に現れるのを待っていた。


「ライト。あなたが王様だったなんて信じられないよ」

「まだ王様じゃねぇけどな。時期にそうなるみてぇだ。あんな堅苦しいしいのは本当にごめんだけどな」


「あははは、やっぱりあんたは自由奔放なライトだよ何にも変わっていない。私が思っていた通りだよ。ライト」


その夜の月は明るく輝くスーパームーンだった。


あの月明かりの中。

あの黒真珠の様な瞳を輝かせ、俺の瞳に映し出し、ゆっくりと俺の前に彼女はひざまつく。

そして……彩音は誰から教わったわけでもない、あの言葉を俺に向けて放した。



「我が愛しき主なる『飛鳥頼斗』様。なんじにこの身を捧げこの純血を分かち合う事を許したまえ。我の生涯をなんじに捧げ生涯の伴侶とし、汝に仕える事を誓う」



私はあなたにこの体を救ってもらった。例えこれから私が人間として生きていけなくなってもそれは後悔はしません。だから、私のこの願いを受け止めてほしい。


彩音は全てを知っていた。あのまま俺と共にいれば自分が人間ではなくなることを。吸血鬼の半妖となりうることを……。

せっかく繋ぎ止められた人としての命を失う事を。

ならば俺ももう何も迷う事などはない。己のこの想いは不変なるものだから。


「汝の願い我が承諾する。汝を我が伴侶として迎え入れる」



何年ぶりだろう、透き通る彩音の白い肌に俺は己の牙をさし込んだ。


もう放さない……彩音。


そして彩音は俺の第三伴侶となった。




その半年後、彩音のお腹には俺たち二人の愛の結晶が宿ったのだ。


景よ。お前は俺たちの宝物だ。

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