第28話 飛鳥頼斗 ACT1
俺はドイツの片田舎の小さな王国の王子としてこの世に生を成した。
肩書は王子と言う事になっているが、そんなたいそうなもんではない。
確かに俺が住んでいたところはそれなりの城であることは事実だ。その傘下にひろがる街並み。我々はこの小さな国を統治する領主でもある。
そして我が一族は第一世代から受け継がれた吸血鬼である。
このことを知るのは我が領地の中でも極限られた者だけが知りえることだ。
吸血鬼の発生の地としてはルーマニアが思い起こされるだろう。だがそれは第一世代に反映したヴアンパイアの事をさすものだ。
ルーマニアではヴァンパイアは人を襲う化け物ではない。現地の人々においては『英雄』として語り継がれている。
だが、その『英雄』も第一世代の真祖が作り上げた影身者である。
「我は影の存在。光ある表に出ることは無き存在である」
第一世代の真祖が言う言葉。
このこの言葉がヴァンパイアは陽の光を浴びると灰になるという言い伝えにすり替えられたようだ。
実際第一世代の真祖は時間を超越した存在であった。
見た目には年を取らない。永遠の若さと不死の力を持つこの世で絶体的な力をなしうる存在である。
この世界の成り立ちをその目で見、干渉をその存在を隠しながら、加えて来た人物それが第一世代の真祖であるヴァンパイアである。
ヴァンパイアと言う称号は彼、吸血鬼として真祖の直系だけが許された称号である。
そして、彼は長き時の狭間にその身を投げ入れ。自らをこの世界から消し去ったのだ。
残されたのは有り余る黄金の財宝。
トラシルバニア地方に伝わる伝説はこの財宝のうわさが広まったことにより、ヨーロッパ全土に吸血鬼という名で広まったのだ。
だが、その財宝は未だかつて発見されてはいない。まるでヴァンパイアの存在自体が架空のものであったかの様に今も語り継がれているのが事実だ。
我が父君……、いや俺はそんな方ぐるしい呼び名では彼奴の事を呼んでいない。
まぁ普通は、親父だな。
でも彼奴がいないところでは「くそおやじ」としか呼んでいないない。
仲が悪いわけではない。何となくそう呼んだ方が彼奴には俺的にピッタリと来るから自然とそう言っているだけだ。
無論あのくそおやじ、いや、親父も何人もの伴侶がいる。俺の母親はその伴侶の一人だ。腹違の兄妹は実際沢山いる。そして俺と面識のあるのは最も俺と能力が近い半妖の兄妹だけだ。
普通の人間として生まれて来た子には、普通の人間の人生を歩ませる。これが、この一族の掟だ。
だが、俺は違った。
俺はあの親父、第二世代真祖の力をそのまま……まるで上書きされたようにその能力を受け継いで生まれたのだ。
つまりは俺は第二世代の吸血鬼の真祖の後継者としてその存在を認められた。
将来この小さな国を統治する王子として、育てられたのだ。
でもよう、俺、あの生活がとてつもなく退屈で、そんでもってへどが出るくらい嫌だった。
よくある王室での生活の様なもの。あれがたまらなく俺には性に合わなかった。
俺が17歳の誕生日を迎えた時親父から言われた使命。
そう、俺の息子、今は娘か……まぁそれはさておいて、景にも与えられたその使命が俺の人生の転機となったのは言うまでもない。
そうなのだ俺も自分の一族を構築すべく、自分の伴侶となる女性を娶れという事だった。
それにより、俺はこの城から出ることを許されたのだ。
「やったぜ! ははははは、ようやくこの城から脱することが出来る。ああ、ほんと夢のようだぜ」
ここから、俺の本当の人生が始まった。
少し、いやかなり前置きが長くなってしまったが、これから俺の伴侶の中で一番心休まる伴侶。彩音との出会いを訊いてもらいたい。
そして彼女と初めて出会ったのは、とある国の遺跡発掘現場だった。
王室の中では俺は何もすることが無かった。だが唯一俺の興味を引いたのは王室の中にある書庫で見つけた古代文明に付いて書された書物だった。
俺はその書物を読み漁った。
書物に触れることでまるで自分を異世界に誘っているかのような感覚に陥りながら、古代文明について調べ上げていた。
無論その中には我が一族の先祖でもある第一世代の真祖の残した財宝の事にも触れる一面があった。
しかし、俺にはそんな財宝などというものには興味はなかった。最も興味があったのは、栄えたはずの文明が何故途絶えてしまったかという事だ。
その文明が今、続々と遺跡となりその痕跡を露わにしている。
途絶えた文明。そして新たに栄、反映した文明。
それは地球上における気象の変化によるもの。または人間同士の争いによって破状した文明。その原因は様々だが、奥深くのめり込んでいく末に俺はある疑問を持つようになる。
例え、一つの文明が終わったにせよ、その成り立ちや文明の構造自体は受け継がれていくものではないのか?
しかし、多くの文明は途絶えた後、その成り立ちを受け継ぐのではなく新たな視覚視点の元発症し栄えているという事だ。
まるで何者かがその新たに栄えた文明に干渉しているかのように……。
「ちょっとライト! その足どけなさいよ!」
「はぁ? 何なんだよ、俺が今踏んでいるところは足場の部分だけだぞ」
「いいからはやくどきなって。そこ掘ってみたいんだよ」
「馬鹿言うなよこんなとこ掘たって何にも出はしねぇだろ。それにこの足場なくなったら上に上がっていけなくなるじゃねぇか」
「うるさい! 私が掘りたいから掘るんだ!! さっさっとお退き」
「ちっ! まったく小うるさい女だ。日本人だから親しくなれるかと思ったけど、あれじゃこっちから願い下げだ」
王室での正式名は「ベルンハルト・ルクセント・ル・バンパイア」この名は表に出ることはない名だ。
我が一族の儀式の時や集まりの時にしか使われない名だからだ。
母親は日本人であるけれど、俺は親父の血を強く受け継いだせいだろうその姿はどこから見ても日本人離れした姿であった。唯一母親が日本語を話せたことで俺は日本語は得意だった。いや日常的に使う事は何ら不自由はしない。
無茶苦茶だ! 現場をしきる監督がいなかったからよかったが、もしいたら始末書じゃすまなかっただろう。
彼女は今年大学に入学したてのまだ18歳。そして俺はようやく17歳を迎えた彼女の一つ下……と言っても同年代であることは変わりはない。
性格は我儘な自由奔放な性格。
自分の思う事はなんでも自分が思うようにならないと気が済まないというかなり厄介な性格の持ち主だ。
彼女は大学の夏休みを利用してこの遺跡発掘作業のボランティアに参加していた。
足を彼女に蹴られ、バランスを崩した俺は豪快に5メートルはある坂を転がり落ちた。
「うわああああ!」
まさか彼女もこの俺が滑落するとは思ってはいなかったみたいだった。
その様子を見て、地面に叩きつけられた俺の元に坂を下りて駆け寄って来た。
「ラ、ライト! ライト……」
彼女が必死に叫び俺の名を呼んでいたが、俺の意識は次第に遠のいていった。
気が付いた時俺の目に真っ先に飛び込んだのが、彩音の顔だった。
しかも俺と彩音の唇が重なり合っているところに、俺の目はばっちりと開いた。
「馬鹿ぁ!!」
気が付いた途端、俺の頬はバチンと音を立て、彩音の手の平がクリティカルヒットした。
目覚めてすぐにビンタとは。
なんだか物凄くひでぇんだけど!!!
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