第24話 来平井花楓の恋 ACT1
「ねぇ景」何気ないように園は僕の手を握り語り掛けて来た。
「なに園?」
「どうして今日は今も男の子の格好なの?」
「ん?」あ、そう言えばそうだ。お風呂から上がって着替えをしたとき、何も考えず僕はこの服を着ていた。
「そう言えばそうだね。園に言われるまで気が付かなかったよ」
「それに景、やっぱなんか雰囲気が男性ぽくなっちゃった気がするんだけど」
んーやっぱりそうか。此奴が僕の中に戻ってからなんだけど、女の子でいる方が楽だという想いが、なんかどうでもよくなってきている。
元々、此奴。フルベアート・ルクセント・ル・バンパイアは男なんだから、その色合いが濃く出てきてもおかしくはないんだろうけど。何となく寂しい気もする。
まだどこかで、僕は女の子だという想いが根強く良く残っているのに、意識は男だ! と言っているような気がするんだよね。
こりゃ、此奴と要相談だな。
でもさぁ、自分自身と相談なんて僕は二重人格なのか?
ま、慣れるまでの間は色々弊害もあるんだろうな。
「どうしたの景。そんな顔して?」
「ほへ? 変な顔していた?」
「ちょっとね」
「でもさぁ園の方こそなんだか寂しそうな顔してるじゃん」
「そうですか?」
「うん、何か大切なものを失っちゃったかのような気がするんだけどなぁ」
「例えばどんな?」
「どんなって言われてもうまく言えないんだけど。園の中から消えちゃったあの人が……なんだろうね。多分さぁ、今まで僕の本来の魂が園の中にずっといたからだよ。その魂が、僕の所に戻った。それだけ園は僕の事を大切に今まで守ってくれていたんだよ。本当にありがとう」
「……お礼なんてそんな。でもなんだか本当に寂しんです」
「大丈夫さ」園の手をぎゅっと強く握りしめ
もう遠くない将来。この僕の本当の分身。そう僕の子を園は宿してくれるんだから。その時まで、僕がずっと園の傍にいてあげるよ」
「子供が宿るまでですか? ずっと私の傍にいてくれるんじゃなかったんですか?」
「そうだったね園。ずっといるよ……僕は君の傍に」
「あ、うううゴホン。あのう二人のそのムズムズする会話私に全部聞こえているんですけど!! それともわざと私に訊かせているんですか? だとしたら、だとしたら私泣くよ! 本当に泣いちゃうんだから」
僕らの後ろで花楓さんが真っ赤な顔して訴えた。
「えっ! そんなつもりはないんだけど」
園があっさりと言う。その態度が気に入らなかったのか、それとも花楓さんのヤキモチ? が頂点に達したのか! 僕らの手を無理やりはなして僕に抱き付いてきた。
「私さぁ園の事好きよ。同性として、愛しているし親友だと思っている。だから園との関係は絶対に壊したくはないの。でもね……景ちゃんの事も凄く気になるの。私って欲張りだと自分でも思うし、我儘なこと言っているのは良く分かる。でもでも、この胸の中でモヤモヤする気持ち、どんどんつのっていくばかりなの」
「ああ、花楓。ようやく白状したわよね」
園がにヘラッとした顔で言う。
「……は、白状って」
「だから言ったでしょ。あなた景の事好きなのって」
「ううううううっ。……す、好きよ。好きになっちゃったの!!」
「だったらその気持ち素直に出したらいいんじゃないの」
「え! でもでも……」
「私さぁ景にちゃんと話したんだよ。私は花楓の事も好きだって、愛しているって。だから、花楓との関係も景には許してもらうようにお願いしたんだ」
「うん、僕はいいよって言ったよ。僕を愛してくれるのなら、僕は僕の伴侶を縛らないつもりだよ」
「それって物凄く自由な恋愛じゃないの? じゃぁ何? もしよ、私が景ちゃんの伴侶になって、園と愛し合っていても景ちゃんはそれを許すというの?」
「だからさぁ、そう言ってるじゃないか。仮に花楓さんが僕の伴侶に……なったとしてだよ。もし、ほかの人と付き合っていても僕への忠誠心を失わなければ……うんとね簡単に言えば何度も言っているけど、ずっと僕を愛してくれれさえすればいいんだよ」
「まったく花楓ってそう言うところはくどいというかさぁ、固いというかさぁ。私たちの関係はこの日本の一般的な考えから脱しないといけないのよ」
だって………私たちは吸血鬼なんだもの。
「だって私たちは吸血鬼なんだもの」
園が口に出した言葉。多分彼女は何気なく言ったんだろう。
気になった。
園は半妖でもなくごく普通の人間として生まれてきたはずだ。
それなのになぜ、吸血鬼だと断言したんだろう。
その時僕はあまり深くまで考えなかった。出来れぼもっと重要性の高い事だという認識を持つべきだったと後悔している。
出来れば僕は、園には普通の人間としていてほしかったから……。
スーパーで買い物をして帰る時に、園があるところをじっと見つめているのを感じた。
その先はソフトクリームと書かれたのぼりがはためいていた。
「ソフトクリームかぁ僕も好きなんだよねぇ」
「ええッと、私そんなつもりじゃなかったんですけど」
「いいよ。ちょっと休憩していこうか」
フードコートの中のお店で僕らは席に座り、ソフトクリームを食べた。
ただし、3人共別々の味のソフトクリームだ。
「あ、景はマンゴー味なんだ。私はミルク。花楓は……な、何で納豆なんだ?」
「えっ! 納豆ソフト美味しいよ。私ここの納豆ソフト好きなんだぁ」
納豆だよ! ソフトクリームだよ。奇抜過ぎない?
「ああ、なんだなんだ二人とも信じていないんだぁ。じゃ、食べてみる?」
花楓さんが園に納豆ソフトを差し出した。園の小さなピンク色した舌がぺろりと納豆ソフトを舐めた。
「あ、意外。美味しいかも」
「はいそれじゃ景ちゃん」
うっ! これはちょっと勇気がいる。ソフトクリームに納豆と言うイメージが強すぎて、身を引きそうになる。
でもここは意を決してペロリとひとなめしてみた。
「ん? 意外!! 美味しいかも」
「でしょ、美味しいでしょ」と、言いながらじっと自分の納豆ソフトを見つめ
「どうしたの花楓?」
「ええッとねぇ、どっちから先に舐めよかなって。園が舐めたところの方か、それとも景ちゃんが舐めたところか迷ってるの。えへへ」
「んっもう、そんなことで悩まないの」
「だってさぁ」
珍しく園はムスッとしながら
「花楓、あなたもバージン景に捧げたら?」
「ほへ? えええええ! いきなりそう言う展開になるのぉ!」
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