第22話 園と花楓……そして覚醒 ACT 5
「な、何を言っている」
怯え、腰を抜かしながら黒マントの男は呪語を発する。
「わ、我の御霊に仕えし緑の聖霊よ。我が主の名においてその呪縛を解き放て!」
飛鳥景の前に10体のゴーレムが現れた。
ガサゴソと体を揺らしまとう葉がカラカラとこすれる音をさせ、一斉にゴーレムは体から、触手を伸ばししなやかな鞭のごとく飛鳥景に目掛け投げうち尽くす。
だが、その触手はことごとく飛鳥景のその身に届く前に切り刻まれ……いや瞬時に所滅した。
『バサ』と葉を切る音と共に一体、また一体とゴーレムは景のソートによって一撃で消えさる。
「どうしたんだい。こんなのが僕に対する攻撃に役に立つのとでも思っていたのかい。ただの人形じゃないか。あはははは。さぁて雑魚はもういい。お前をお前のその命、俺がこの手でぶった切ってあげよう」
ニヤリと笑い黒マントの男にじりじりと近づく飛鳥景のその姿は、慈悲をも受け付けることのないただ、目の前に居るその男を消し去ることだけにしか興味のないいわば、冷たく冷酷な者の塊と成していた。
「さ、覚悟するんだな」
飛鳥景の手から放つ閃光がその黒マントの男の体に一本の線を描いた。
その時だ「シュバッ」と無機質なものを鋭利な刃物で切る音がした。
「ウグっ!」
飛鳥景の背中に一本のクナイが刺された。
「悪く思うなよ飛鳥景」
一瞬その姿を現し、景の視覚に入ったのは、鶉依優華の姿だった。
彼女は景によって傷を負った黒マント姿の人物を抱きかかえ、一瞬にしてその姿を消し去った。
飛鳥景はばたりとその場に倒れ、
目の前に現れた景と園の姿を目にした彩音となつみは、すぐに傷ついた景と園を抱きかかえ、人目のつかない場所へと連れ去る。
景の背中からはドクドクと大量の血が流れ出していた。
「景ちゃん! 景ちゃんしっかりして」
彩音の声掛けにも景は何も返事をしない。
そして園は……。
ずたずたになった血まみれの服をかろうじて、体にまとい、何も反応を示さなかった
「まずいなぁ。これじゃ」
「園、園……」花楓が泣きながら園に呼びかけるが、彼女は何も答えてくれない。
そして次第に園の体から温かさが失われていくのを皆が感じていた。
「とにかく救急車を!」
「大丈夫だよ。僕も園も」
「景ちゃん、気が付いたの」
「ああ、もう僕はなんともない。園も時期に目が覚めるだろう」
飛鳥景は、静かに露わな姿の園の体を抱きかかえ
「彩音さんお願いがあるんだけど、僕たちをうちにまで送ってくれないかな」
彩音は景のその表情を感じ取り。
「分かったわ。すぐに手配する」
彩音さんが手配した車で僕らはうちにまで移動した。
園を抱きかかえたまま、自分の部屋に行き園をそっと僕のベッドに寝かした。
艶やかな髪が血でよごれていた。その髪を優しく僕は手で触れた。
「ごめんね園。痛かったろう……。ううん、今までずっと君は僕の力をこの体の中で守っていてくれたんだね。ありがとう園」
園の唇に僕はキスをした。
キスをしながら、あの草原で僕と園が愛し合い、結ばれたことを思い出す。
ゆっくりと園の唇から僕の唇を離すと、彼女の頬が赤くなっているのに気が付いた。
「ねぇ園、もう気が付いているんだったらいい加減起きたらどうだい?」
「うへへへ、やっぱり気が付いていました景様」
ニンマリとした笑顔を僕に見せつけるように園は目を開けた。
「傷ももう回復したようだね」
「……景……様」
「もう様はいらないよ。僕の最愛なる妻なんだから」
「景、景」園は泣きながら僕に抱き着いた。
「私、今までずっとあなたと一緒でした。あなたの主と共に私は成長してきたんです」
「うん、今日のことで全て分かったよ。今まで辛い思いをさせていたようだね。そしてありがとう。本来の僕を今までずっと守ってくれて」
園は首を横に振り「ううん、私はあなたと共に生きてこれたことが幸せでしたから」
「でもこれからも僕らはずっと一緒だよ。共にその使命がつきるまで……」
フルベアート・ルクセント・ル・バンパイア。
これが僕の吸血鬼としての名だ。
あの時……一発の銃弾が僕の体を貫いた幼少のころ。僕は園の首筋に本能的に牙をさし彼女の血を吸った。
その時、僕の本来の姿であるフルベアート・ルクセント・ル・バンパイアは園の体へとその魂を移したのだ。
まだ幼い僕はすでに一度バンパイアとして覚醒してしまったからだ。
あのまま僕が覚醒してしまば、フルベアート・ルクセント・ル・バンパイアは、持ち備える強大なる力故に、僕自身を食らわなければならなくなる。
それを回避すべく、彼は園の体へと己の魂を移し、眠りについたんだ。
多分のこの事は彩音さんも、園のお義母さんも……父さんも、じいちゃんも。みんなが知っていたんだと思う。
僕と園が結ばれれば、彼は目覚め、僕の元へと戻ることを。
「……景、私たちようやく結ばれたんだよね」
「う、うん。初めてだったんだよね。痛くなかった?」
「ん、もう景のバカ! ……で、でも……気持ちよかった」
恥ずかしそうに園は言う。
「ふぅ―ン、そっかぁ。気持ちよかったかぁ。それじゃもう一回やっても大丈夫だよね」
彼女の裸を目の前にしてその欲望を抑えるにずっと我慢していたんだけど、やっぱり僕は園が欲しくてたまらなかった。
彼女の柔らかいふくらみにそっと手を添えると、その手を彼女手が覆いつくす。
「緊張してるの園?」
「……だって、私嬉しすぎて……キャッ」
「愛しているよ園」
「私も愛しています……景」
その時部屋のドアから「ミシ!」と言う音がした。
「ん?」
園に「シ~!」と言って僕は部屋のドアを一気に開けた。
どどっとなだれ込むように、彩音さん、間宮先生、花楓さん。そして園のお義母さんまで一気に僕の部屋の中に倒れ込んできた。
「あ!」
「なははは、見つかっちゃったぁ」
「あのさぁいつからそうしていたの?」
「さぁ、いつからかしらねぇ……」彩音さんはしらを切るようにニタニタしながら言う。
「ああ園がついに娘じゃなくなったったよぉ!!」
園のお義母さんが半泣き状態で叫んでいた。
「あ、ええっと……今日はお前らの担任じゃないから。そう、景の姉としてだな。弟の……あ、妹だったか。そのなんだ……」
「ああああ! もう私我慢できない。私も混ぜてぇ!!」
花楓さんが上着を脱ごうとしている。
「ちょっとちょっとまったぁ!!」
「ああ。景ちゃん恥ずかしがっているぅ。そんなに恥ずかしがらなくたっていいわよ。ちゃんと私たちが見てあげるからさぁ」
彩音さんが、じゅるるとよだれを啜りながら言うのが、なんともエロイわ。
その時だった。
玄関から懐かしい声が聞こえて来た。
「ただいまぁ。今帰ってたぞぉ!」
「ん!」
彩音さんがピクンと反応した。
「パパだぁ! パパが帰って来たぁ」
飛び跳ねるように玄関に向かう彩音さん。
父さんが帰って来た。
僕の父さん、第二世代吸血鬼の第一後継者である。
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