第21話 園と花楓……そして覚醒 ACT 4

流れ出す園の鮮血。赤く輝く雫を薄れゆく意識の中、その輝く雫をこの目にしていた。


園が……。園が死んでしまう。


何も出来ない。僕は大好きな園を守ることも出来ない情けない主なのか。


「ぬははは、さぁどうするよ。飛鳥景。このままお前の第一伴侶を指をくわえて死なしてしまうのかい? なにも出来ない弱い吸血鬼さんよぉ」


妖獣の触手が園の体の奥深くまで食い込んだ。


「あうっ!」と声を上げ、ぐったりと園の体は全ての力が抜けきった。まるでぼろぼろにされた人形の様に。


「園……ち、ちきしょう」


園の体から一気に触手が抜かれると、大量の血が噴き出した。彼女の体を妖獣は投げ捨てるように地面に落とした。


ドクドクと血があふれ出し、まるで己の血の池に浮かぶ園の姿をただ僕はみている事しか出来なかった。


次の瞬間、妖獣のその鋭い触手は、僕の腹を一気に貫く。


「ぐはっ!」


「ふん、あっけなかったねぇ。愛する女が目の前で傷つけられるのを見ながら、お前は死んでいくんだよ。例え、不死の体であろうとも、お前自身の心が死んでしまえば、もう自己再生はしない。お前は死ぬんだよ、さぁ、我がしもべゴーレムよ。そいつの体を再生不能まで突き刺せ!」


妖獣の体全体から触手が伸び出した。数えきれないほどの鋭い針の様な触手が一斉に僕の体を貫いた」


「げほっ……ぎゃああああああああ!」


体中に鋭い触手が突き刺さった。


ああ、もう終わりだ。僕も死ぬんだ。いくら不死の力があろうともここまでやられたらもう再生なんか出来ないよね。



もう、僕の目にはうっすらと光が差し込んでいるのを感じることしか出来ない。

ごめんね園。ごめんね……。


残りわずかな力を振り絞り、僕は園の所に手を伸ばした。



最後に、君の手を握っていたい。



ようやく園の手に触れることが出来た。

まだ温かい。柔らかくて細い園の手をしっかりと握った。


「ふん! なんだよ。死ぬ間際までいちゃつかれるのを見せつけるんだ。いやだねぇ……。もう楽にしてやりなよ」


次の瞬間、妖獣の触手が僕の心臓をえぐるように貫いた。


「終わったな。意外とあっけなかったじゃないか。何が不死の力を持つ吸血鬼なんだよ。単なる普通のガキだったじゃないか。ああ、なんだか拍子抜けしちゃったね」



その黒マントの男は僕らの血にまみれた体を見て、高笑いをしながら己の力に酔いしれていた。




さわさわと草原の草が風に揺れ、草葉がすり合わさるたびに、柔らかい音を奏でていた。


広大に広がる草原の中、僕はまたずっと続く遥かなる彼方を見つめていた。

スッと僕の手に温かい感触が伝わった。


「園」


そうか、園もここに来たんだ。


僕らは一糸まとわぬ生まれたままの姿で二人、霞見える地平線を眺めていた。


「ごめんね園。僕は君を守ることが出来なかった」

ぎゅっと僕の手を握る園の手に力がこめられた。


「ううん」彼女は俯きながらそう答えた。


「景様はもう諦めちゃったんですか?」


「諦めたって……もう僕には何も出来ないよ。あんなのに勝つ事なんかできない」


「本当にそう思っているの景。あなたは私の主なのよ。そして私たち伴侶となる者を守らなければならない義務がある。あなたがそんな弱腰でどうするの」


「そんなこと言ったって……」


「大丈夫あなたなら必ずできるわよ」


そっと園が僕の体を抱いた。


僕の体に園の生身の体が密着する。彼女の温かい体温が僕の体に伝わって来る。


「景……」


一言僕の名を呼び彼女は僕の唇に自分の唇を重ね合わせ、己の熱いベーゼを流し込んでいく。


強く、そして優しく僕は園の体を抱きしめた。

高鳴る鼓動に、柔らかい園の体が僕の抑えることの出来ない欲情を掻き立てた。


園とはまだ超えてはいけない境界線。


こんなにも僕は園の事を愛しているのになぜ僕らは、その境界線を越えてはいけないんだろうか……。でももうそんな事はもうどうでもよかった。


僕は今、僕のこの胸の中にいる彼女の事を守りたい出来ることなら、もう一度彼女と共に、これからの生涯を共にしたい。その欲求が頂点に立ったとき、僕は、……園を抱いた。


囁く葉音の中、誰もいない二人だけのこの世界で僕と園は結ばれた。


押し寄せる波を乗り越え、僕の想いと、園の想いが一つになった瞬間だった。


「……景」


園の潤んだ瞳が僕の瞳と重なりあう。


幸せだよって言っているのが言葉がなくとも僕に伝わって来た。


「景、私の血を吸いなさい。そしてあなたは……」


差し出す園の首筋に僕は牙をさし込んだ。


「あうううう。っ、ああああああ!」

強く力強く園は僕を抱きかかえた。


あふれ出る園の温かい血を吸い、僕は自分に湧き上がる何かを感じつつある。


「もっと、もっと吸って、景。あなたの為ならこの血、一滴残らずあなたに捧げます」


心臓が高鳴る。どこからか知らずとも湧き上がる力を感じた。


あの時、園の部屋で僕を襲う力。僕を食らおうとしたあの力が、今は忠実なるしもべのように従い始めているのを感じる。


「お前!」その力に僕は問いかけた。

「お前はこの僕を食らうのか?」


「食らってもらいたのか? 飛鳥景よ」


「食らうのなら食らえばいい。されど俺はお前などには負けぬ」


「ぬははは、まだその程度の力の物などを食らったところで、何が起こる訳でもない。ならば我がお前が真の力を得るまで、力を貸そうではないか。われの名は」



第三世代真祖『フルベアート・ルクセント・ル・バンパイア』



「さぁ行くが良い。我の力を存分に使いこなし己を磨け!!」


「園……」


握りしめる。血だらけの園の手を握りしめ、僕は立ち上がった。


すでに今まで受けた傷は蘇生していた。


「よくも俺の大事な園をこんな目に合わせてくれたな」


「ん! いったいどうしたというのだ。あれだけのダメージを受けていたはずなのに、たとえ不死の力が残っていたにせよ、回復までにはそうとなる時間をまだ要するはずであるが……ま、まさか。……か、覚醒したとでもいうのか飛鳥景」


「おいそこでこそこそかけれている弱虫野郎。俺の前に出て来いよ。相手にしてやろうじゃねぇか」


「何を粋がっているのか分かんねぇけど、所詮まだガキじゃねぇか飛鳥景。我の敵に足らんやつよ」


「さぁてどうかな? 試してみるかい?」


どうしたんだ、さっきとはまるで雰囲気が違う。何なんだこの威圧感は。


「行けゴーレムよ。奴を叩きのめせ!」

「ふん、そんな縫いぐるみ。なんて事ねぇぜ」


『我に潜む汝に命ずる。我に己の力を与えたまえ』


我の名はフルベアート・ルクセント・ル・バンパイア。汝に我の力貸し与えよう。


瞬時に景の両手は鋭利なるソードへと変化した。


「うりゃぁ!!!!」


襲い掛かる妖獣の触手を切り払い一瞬にして、景は妖獣の母体にそのソートを差し込んだ。


ツェアシュテールング破壊


差し込んだソートから閃光が走り、妖獣はその姿を消し去った。


「ば、馬鹿な……。そんなことがっていいのか。こやつが完全覚醒したとでも……」



「さぁてお次はお前の番だな。あはははははは!!」

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