第20話 園と花楓……そして覚醒 ACT 3
「景様」
振り向けば、そこには今まで見たことのない天使の様な可愛らしい園の姿があった。
駅前の時計台がある小さな公園の前で僕らは待ち合わせていた。
「ん、もう。景様待ち合わせの30分前ですよ。早すぎませんか?」
「そう言う園だって今もう来てるじゃん」
「主を御待たせする訳にはいきません。当然の事です」
「まったく、そう言うところは引かないよな園は」
「いけませんか?」
「ううん、ありがとう。いつも僕の事を気にかけてくれて」
「……そんなことないです」と小さな声で園は恥ずかしそうに言う。
「でもどうされたんですか。景様今日のそのお姿は」
「う、うん。今日はさぁ、園と初デートだから……お、男の子の格好にしてきたんだけど、変かなぁ」
「ううん、かっこいいですわよ」
にっこりとほほ笑んだ園の顔が胸をキュンとさせる。
「でも、無理して男の子の姿にならなくても、いつもの景様のお姿でよかったんですよ」
本当は男の子の服なんて何年ぶりに着たんだろう。物凄く今では恥ずかしい。
女の子の装いがもう僕の中では当たり前になっているから……。
二人で電車に乗って、目的地の遊園地までずっと手を繋いだままだったのはここだけの話にしておく。
なんか不思議な感じだった。園とは今まで学校で会うのが当たり前だったし、彼女の私服姿を見るのは園の実家に行った時以来だ。こうして外で彼女と一緒に出かけることがとても新鮮だった。
遊園地に着くとさすが休日。ゲートはすでに人の山で埋め尽くされていた。
「凄い人だねぇ」
「そうですわね。でも安心してください。ここの遊園地、実はうちの会社がスポンサーなんです」
そう言いながらゲートの横の管理等へと向かった。そこにいたスタッフに園はチケットを見せると、全く人の並んでいないゲートから僕たちを通してくれた。
「ええッとなんだかすごいVIP待遇なんだけど」
「そうですか? いつもこれが普通だと思っているんですけど」
あああ、やっぱり園ってお嬢様なんだ。
そう言えば、父さんと3人で遊園地に行ったことがあったな。その時も物凄く混んでいて、待つのにくたびれちゃったんだよね。そうしたら父さんがこう言ったんだ。
「庶民はこうして、待ち時間をどうやって楽しく過ごすかって言うイベントが常にあるのさ」
待ち時間の間、僕を肩車してくれたり、じゃんけんしたり一緒に遊んでくれた。
遊園地に来て思い出に残っているのは、その待ち時間に父さんと一緒に遊んだことだった。
遊園地の遊戯に乗って遊んだことよりも、待ち時間に父さんと一緒に遊んだことの方が思い出として強く残っているなんて。
「さぁ景様どこから行きますか?」
園は遊園地のアトラクションマップを開いて、検索し始めていた。
「園が乗りたいものから始めに行っちゃおうよ。僕も多分園と同じだと思うからさ」
「ええ、景様私をエスコートしてくれるんじゃないんですか?」
「いいのぉ? 僕が好きなのは結構過激なものばかりだよ」
「あ、う……ええッとですね。私あんまり過激なのは苦手なんですけど」
「それじゃ決まり、園が僕をエスコートしてよ。園が楽しめるところが僕も楽しめるからさ」
二人で自然と手を繋いで僕らは遊園の中を歩き始めた。
「ふぅ――ン、意外といい雰囲気じゃない、あの二人」
「そうですね。お母さん、あ、いや、あ、彩音先輩」
「あら、いいのよぉ。お母さんでも。もしかしたら本当にそうなるかもしれないしね」
「えええええええっ!! で、でもぉ。そんなぁ」
もじもじとしながら花楓さんは顔を赤くする。
「好きなんでしょ景ちゃんの事」
「……そ、そんな景ちゃんは園の夫なんですよ。そんなことしたら不倫関係になるじゃないですか」
「あらうちはならいないって言っているでしょ」
「あ、そうか……。私も景ちゃんの伴侶になれば園と一緒に景ちゃんに愛してもらえるんだぁ」
ニタぁ―としながら、じゅるるとよだれをすする花楓。
「花楓ちゃん、妄想力凄いねぇ。ならがんばって景ちゃんにアタックしちゃえば」
「あぁん、お母様。そんな勇気今の花楓にはありませんわ」
「面白いよねぇ。花楓ちゃんいじると性格いろんなの出てきそうね」
「……意地悪」
そうなのだ、僕はずっと感じていたんだけど、彩音さんと花楓さんが僕らの後をこっそりとつけているのを知っていた。
園はまだ気づいていないようだけど。でもさぁ、尾行するんだったらもっと、うまくやってよね。あれじゃバレバレだよ。実際。
でさぁ、もう一人いるんだよねぇこれが……。絶対にそっちの方は向いちゃいけない人が。
んーあれは目立ち過ぎじゃないのなぁ。あれで変装しているつもりなんだ。間宮先生。
て、言ってもこの前知ったんだけど、間宮先生って僕の姉だったんだなんて。まぁ血の繋がりはあるんだろうけど、どうしてこう派手好みなんだろうね。
それに一応忍びだって言っていたけど、忍びってさぁ自分の気配を消して、相手にその存在を察知されない様にするのが普通? だと思うんだけど。
ああ、僕らのデートってこんなにもギャラリーがいたなんて……。
「どうしたんですか景様?」
「ううんなんでもないよ」
「少し休みましょうか。私喉が乾いちゃいました」
「おやおや初々しいねぇ。なんだかこっちが体かゆくなってきそうだよ。ま、でも十分に楽しんだようだから、そろそろこちらもお仕事に入るとしますか。うふふ、さてどうする飛鳥景。お前は守り切れるのかい、いとしの第一伴侶をさぁ。くくぅっ。さて行くよ、覚悟しな飛鳥景」
我の御霊に仕えし緑の聖霊よ。我が主の名においてその呪縛を解き放つ。
行け、『緑のゴーレムよ』
ガサ、ガサ緑の葉に覆われた一見遊園地の中によくいる着ぐるみモンスターだと思うような歪な格好をした。モンスターの姿が僕らの目に入って来た。
「ねぇ、あれってモンスター?」
「あはは、凄い葉っぱ散らかしながら歩いているよ」
園が面白そうに言う。
だがその時僕は気が付いていた。僕ら二人が今までいた空間とは違うところにいることを。
「園、気を付けて」
その僕の言葉にようやく、自分の身の周りの変化に園が気づいた。
ゆっくりとその緑のモンスターは僕らの方に近づいてくる。
園の前に立ちはだかり、彼女を守るように僕は前に出た。
するとそのモンスターからツルのような触覚を一気に伸ばし、
「ちっ、やられたか。
「なつみちゃん!」
「彩音先輩」
彩音さんと一緒にいた花楓さんは、いったい何が起こったかまったく分からないまま、突如消えた僕たちの事を心配しておろおろしていた。
「ちょっとどうなちゃったの? 園は? 景ちゃんは? いったい二人ともいきなり消えちゃったんだよ。どこに行っちゃたの」
「どうします彩音先輩」
彩音さんはじっと僕らがいるであろうその空間を見つめながら……。
「け、景ちゃんを信じるしか今はない」
「うがぁ! 見えない壁に強く打ち叩かれ、僕の口から血が飛び散った。多分内臓のどこかが破裂したんだろう。物凄く痛い。意識が薄れていく」
「がうううううううう」言葉じゃない雄叫びでもない、そんな擬音が耳につんざく。
「景様!」
僕の所に駆け寄ろうとした園の体に、緑の妖獣は触手を巻き付けた。
「きゃぁああああああ!」
園の叫び声が遠のく意識の中聞こえてくる。
体中が痛い! 痛くて死にそうだよ。どうにかして。彩音さん……、と、父さん。た、助けて……。
園の着ている服が切り裂かれていく。あの白い肌があらわになっていく。
「さぁてどうる飛鳥景。お前の大事な第一伴侶があわれもない姿になって行っているよ。うははははは」
さぁやれ! 我がゴーレムよ。
「ぎゃぁああああ!」園の叫び声がする。
ポタリ、ポタリと。園の体をつたい、真っ赤な血が流れ出していた。
「……園。園」
妖獣の触手は園の体を貫いていた。
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