第18話 園と花楓……そして覚醒 ACT1

……サウンドオンリー


「黒が飛鳥景に接触したという情報を入手した」


「うむ、そのことについてはこちらも感知している。しかも飛鳥景に傷を負わせたという情報も入手している」


「いささか勝手が過ぎませぬか? 黒の独断の行動は無視はできないのでは?」


「いや、そうでもない。今回飛鳥景に対し黒は攻撃を仕掛けた、その手工は定かではないが、ただ通常であれば死に至るほどの致命傷を負わせたのは事実。しかしながら飛鳥景はその後、完全復帰を成しえている。これは当人が第一世代の真祖の能力を保持していることの証となった。しかもまだ覚醒しておらぬ為、回復にはいささか時間がかかったというデータも入手できた。これは大きな成果ともいえよう」


「もし飛鳥景が覚醒した場合、今の状態では収まりがつかないという事か」


「おそらく飛鳥景の覚醒と共に、第3世代の時代が到来するのかもしれぬ」


「第3世代とは……」


「バンパイアにしてバンパイアにあらず。その能力は歴代の真祖とは比べ物にならぬほど超越した存在になりうる」


「ならば覚醒する前に、飛鳥景を始末してしまう事が得策なのでは?」


「しかし不死の力の前では、なんの効力も持たぬのではないのか?」



「……ならば今回は私、緑が馳せ参じましょう」



「緑、何か得策でも……」


「まぁ、ご覧ください。例え不死の能力があろうとも所詮はまだ子供。穴の青いガキには少々きついかもしれませんがね。ぬははははは」




風紀委員長、来平井花楓きひらいかえで。園の親友であり、……ここは仲のいい彼女たちと言う表現がいいんだろうね。


間違っても百合な関係だったなんて口が裂けても言えないよ……えっ、もう言っているって。なははは、ほんと僕もびっくりしちゃったよ。


あれから園は言い訳の様に


「あのですね、私と花楓の関係はお互いの理解を深め合う事に意味があるんですよ。その意味って何かって訊かれたら……。んっもう。正直に言いますわよ。そうですよ。寂しかったんです。私も花楓も……。そんな私たちはお互いを慰め合っていたんです。ですから、私は本当にその世界にドップリと漬かってなんかいないんです」


「うんうん、わかったからさぁ園。そんなにムキにならなくてもいいよ」


「あのぉ、景様。私の事、幻滅されていますよね」


「してないしてない。大丈夫だよ。ただ園にもそう言う一面があるんだって言う事知れただけで……」


バタン!! 物凄い勢いで生徒会室のドアが開いた。


「いた! 飛鳥景。やっぱりここにいた」


はぁはぁと息を切らしながら乗り込んできたのは、風紀委員長来平井花楓きひらいかえでだった。


「ちょっとあなた何者? それにどうして男のあんたが、女子高の生徒としているのよ。いきなり私の血を吸って、あなた吸血鬼なの? ええ、どうなのちゃんと納得のいくように私に説明をしなさい」


「ええッと……まずは落ち着こうか、来平井さん」


「落ち着く? ええ、私はいたって冷静ですわよ。ねぇ、園」

と、園の方をギロリと睨みつけた。


園はその視線にギクリとしていた。


ああ、二人ともかなりテンパっているなぁ。


はぁ、どこから説明しようかなぁ。園はいいとしても来平井さんには何もかも話さないと、これは収まりがつかいよなァ。きっと。


「あのさぁ、正直に話すよ。だから来平井さん、僕の足踏むの止めてくれないかなぁ」


「えっ! あ」ようやく来平井さんは僕の足を踏みつけていることに気が付いて


「ご、ごめんなさい」と、なぜか物凄く顔を赤くしていた。


真っ赤な顔をしながら「ちゃんと教えてよ。私と園の秘密も知っちゃんだから」これは交換条件か?


「分かった。これから話す事は作り話や架空の事じゃないんだ。そのことをちゃんと受け入れてほしんだけど、大丈夫かな」


「もう何が起きたって驚かないわよ。さぁ、話してちょうだい」


僕は来平井さんに、僕のこの存在と一族の事。そして僕に課せられた第2世代真祖であるじいちゃん。バレンナシア・ルクセント・ル・バンパイアから命じられた使命。そう僕自身のハーレムを構築しなければならないという事を話した。そして園が僕の第一伴侶としてすでに契約の儀式を済ませてあることも。


「嘘でしょ。この現代にそんなことがあっていいの? それに吸血鬼って架空の人物でホラーとかに出てくる人物なんでしょ。本当に実在しているなんて信じられない」


「多分ね、すべてを一気に信じろって言うのが無理なことかもしれない。でもこれは現実なんだ。そして園はいずれ僕の子を宿さなければならない。それが伴侶としての使命でもあるからね」


「園、あなたはそれでよかったの?」


園は何も迷いもせず来平井さんの方の顔を見て「うん」と頷いた。


「私は幼少の頃からずっと景様の事をお慕いしてましたもの。この気持ちに一点の曇りもありませんわ」


「はぁ、なんだかあまりにも現実離れした話だから、うまく飲み込めないけど、信じるしかなさそうね」


「ありがとう来平井さん。でもこのことは内密にしてください。お願いします」


「そんなの当たり前よ。こんなこと誰にも話せないわよ。で、ここまではいいとしてもう一つ。どうして男のあなたが女装までして女子高にいなきゃいけないのよ。ハーレムを作るんだったら何もそこまでして女子高に潜り込まなくてもいいんじゃないの?」


「なははは、そう言われると身もふたもないんだけど。僕さぁ、中学の時にトランスしたんだぁ。どうしても男のこのままでいるのが苦痛になっちゃってさぁ。それからは外見だけでも女の子になりたくてそうしてきたんだ」


「それって性同一性障害って言う事なの?」


「多分そうだとは思うけど、正式にカウンセリングは受けていないんだ。両親もこんな僕をちゃんとありのまま受け入れてくれているし、僕がそうしたいのなら、女の子になればいいって」


「ありのままって……」


「うん、だからこれが本来の僕の姿なんだ。その想いも気持ちも僕はおんなの子であることに何も違和感は持たない。逆にこの体が男の体であることには違和感はないと言えば嘘になるけど、でもそれも受け入れているんだ。だって僕には世継ぎをこの世に生まれさせないといけないから」


「なんだかその部分もかなり複雑なんだけど。でもさぁ、信じてあげるよ。うん、信じるよ。それに応援もしてあげる。だって、私の親友の旦那様なんだもんね」


「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとう来平井さん」


「ううん、そんなことない。それと私の事も名前で呼んでいいよ。景ちゃん」

「うん花楓さん」


「あのぉ……お二人ともいきなり仲良くなっちゃったみたいなんですけどぉ。そのぉ、景様に一つお願いがあるんですけど」


「え―と何かな園」



私と花楓の関係についてですけど……。

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