第17話 中学の恋人
「ゴクリ、ゴクリ」と夢中になって
そこしえぬ未知の快感が、この胸の奥底から湧き上がるのを感じた。
茫漠たる草原、その中で僕は一人っきりで遠くを見つめていた。
草原の草の色と空の色の境が、ぼやけて見えるその先をただ見つめていた。
誰もいない、鳥のさえずりさえ聞こえない草原は、広大な空間としてこの僕を包み込んでいた。
しがみつく舞香の力が弱まった時、僕は我に返った。このまま舞香の血を吸い続けていれば舞香が死んでしまう。
まだこの草原の中に漂っていたいという気持ちを抑え、僕は舞香の首筋からそっと牙を抜いた。
ガクンと舞香の体が力なしげに僕に寄り掛かる。
「ごめん舞香吸いすぎちゃったんだね」
うっすらとした意識の中、舞香はそっと僕にキスをした。
「ねぇ、景ちゃんあなた吸血鬼だったの? 本当に吸血鬼っていたんだぁ」
「……うん。そうなんだ。僕は吸血鬼。こんな僕の事が怖い?」
「ううん、景ちゃんに血を吸われている時とても私……幸せだったから」
「は、初めてだったんだ……。人の血を吸ったの」
僕の膝を枕にして、舞香は僕の顔を見つめて
「景ちゃんの初めてを私にくれたんだ」と、言った。
「な、なんだか恥ずかしいけどね」
「ううん、嬉しいよ……。あっ! あぅ、ああああああああ!」
「ど、どうしたの舞香?」
「な、なんだか変なの。体の中が熱くなってきて、どきどきして……。変なの、私。こんな気持ちになったの初めて……」
「こんな気持ちって……」
ねぇ、景ちゃん……、ううん景。この熱いのをなんとしてぇ、お願い。
目を潤ませ、舞香の表情は女の子から、己の情愛を欲する女の表情へと変わっていった。
その姿は、妖艶なる果実を抱きかかえているように甘く柔らかかった。
「どうにかしてって、僕どうしたらいいの舞香……」
舞香の手が僕の手を取り、その柔らかい部分へと触れさせた。
僕には無いその部分の感触が僕の手に伝わる。
なんて柔らかいんだ。それに温かい。
「あぅぅぅ……ああ」
漏れる舞香の声が聞こえる。
その声を塞ぐように、僕らの唇はまたつながった。そして、僕の口の中に舞香の熱いものが割り込んでくる。
一体舞香は急にこんなになって、どうしちゃんったんだろう。
その時僕はまだ知らなかった。
僕が女の子の血を吸うときに出る唾液の分泌液が、舞香をこうさせていることを。
欲情する舞香の体を抱きしめ、僕は彼女の欲する欲望を受け入れた。
この日僕は、二つの初めてを経験した。
無論彼女も……初めてだった。
女の子の姿をした僕は、舞香を抱いた。
ベッドのシーツにはうっすらと赤く滲んだ後が付いていた。
次第に舞香の表情が戻っていく。
そして、今の自分のその姿と、体に感じる今までにない感覚に舞香は己が今行った行為の事を認識し始めた。
「もしかして、景ちゃんと私って……」
「……うん。ごめん。舞香。僕舞香の初めてを奪ってしまった」
ごめんね、ごめんね。
ぎゅっと力強く舞香を抱きしめた。
もしかしたら舞香に、僕は大きな心の傷を付けてしまったのかもしれない。
避妊もしていなかった。
僕の子種を舞香の中に注ぎ込んでのだ。
もし、舞香のお腹に赤ちゃんが出来たのなら……。その時僕はその責任を一心に受けようと思った。
舞香は何も悪くはない。こうさせたのも僕なんだ。
僕はこれから舞香を守っていこうと決めた。
どんなことがあろうとも僕は舞香を守る。それが僕に与えられた使命でもあるかのように思えて来たからだ。
「舞香、僕、こんな姿の僕だけど。僕は舞香の事守るよ。力はないけど、僕は一生懸命舞香の事を守っていくよ」
僕の胸の中で、舞香はこくんと頷いた。
「ありがとう、景ちゃん。私嬉しんだぁ。景ちゃんの初めてを二つももらえたんだね」
「私も景ちゃんの事を守るよ。私のこの体、これからも景ちゃんの好きにしていいから。私が景ちゃんのその欲求をを全て受け止めてあげるよ」
……舞香。愛している。
「私も……景の事愛している」
このころはハーレムを構築しなければいけないことも、何もかもまだ知らなかった。
ただ僕らは純粋にそのお互いの愛を確かめ合い。そして受け入れたのだ。
これが僕と舞香の最初の本当の繋がりが始まった時だった。
それは中学3年の夏休みに入る前の出来事だった。
それから僕らは恋人の様に……いやもうその関係は恋人と呼ぶにふさわしい関係だった。
まだ15歳と言う幼い二人の関係。
それも外見だけを見れば、僕らは同性同士の関係と言われても否定は出来ない様に見えていた。
僕が普通の男の子の姿であれば、違和感はなかったのかもしれないが、僕のその姿は時間が経つにつれ、女の子の姿として定着していったからだ。
クラスの中では、本当に仲のいいクラスメイトに留まって見せていた。
でも僕と舞香が二人っきりになった時は、『愛』を求めあった。
僕らが初めて意志あったあの時、僕は舞香は妊娠するものだとばかり思いこんでいた。しかし、それは僕の想い込み過ぎだったようだ。
「ねぇ舞香。僕さぁ、舞香のお腹の中に赤ちゃんできたとばかり想い込んでいたんだけど、出来なかったみたいだね」
「なははは、そうだねぇ。私もさぁ、妊娠するんだろうなぁって思てたんだぁ。でもさぁ、来ちゃったんでよねぇ。生理。しかもさぁ、ばっちり狂いもせずに来ちゃうなんて、本当はさぁちょっと悲しくなっちゃった」
「ほ、本当にさぁ妊娠してたら、やっぱり舞香は僕の子産んでくれきでいたんだね」
「あったり前じゃない! 私の愛する景ちゃんの子だよ。例え親や世間がどんな事言ったって私は絶対に産むつもりだったんだから」
なんだか舞香のその言葉を訊いていたら胸がジ――んと熱くなってきちゃった。
そうは言え、僕らはあれからそういう関係は一度もなかった。
ただ吸血鬼としての衝動は日に日に強くなっていく。
舞香の血を僕は何度も吸った、そして彼女はそれを拒まなかった。
この短期間で僕は多分舞香の今まであった血を、吸いつくしてしまったんではないだろうか?
「もう最近さぁ、景ちゃん私の血欲吸うから、レバーとかさぁ毎日食べてるんだよう。で、さぁいいの見つけたんだぁ。増血サプリ。これ飲んでもっとたくさん血作るからね。だから遠慮なく私の血を吸ってね景ちゃん」
ああああ、なんてけなげで、僕想いなんだろう舞香は。
今はまだ出来ないけど、僕が結婚できる年齢になったら、僕は絶対に舞香と結婚する。
「僕はそう心に誓った」
しかし、僕らのその二人の想いは叶う事はなかった。
高校への進路。僕と舞香は別々な高校へと進学をした。
舞香と同じ高校に僕は行きたかった。
舞香の父親の仕事の関係で舞香は千葉へ引っ越すことになった。
千葉までだったら、電車で片道2時間あれば通える。僕はどうしても舞香と同じ高校に入るべく、舞香が推薦で合格した高校を受験した。しかし、結果は『不合格』だった。
2次募集枠で僕は前にいた共学の高校に合格し、舞香は千葉へと引っ越していった。
それから、僕らの仲は次第に遠のいていく。
そう、お互いの新たな時間が僕らの間には流れ始めたからだ。
その後、僕はじいちゃんからの命により、僕のハーレムを構築すべく
『私立陽華学園女子高等学校」へと編入したのだった。
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