第16話 飛鳥景は女の子
これは僕が中学生の時の話です。
僕が女の子になったその日。周りの人たちはその存在に特別な何かを付け加えた目で僕を見る様になった。
「景ちゃん今日も元気に行ってらっしゃい!」
彩音さんは僕が女の子の姿になっても、何も変わらなかった。
むしろ「私、本当は娘が欲しかったのぉ」なんて言いながら、次第に増えていく女の子の服。
もうクローゼットの中に入り切らない位だ。
うちは父さんとかあさんそして僕……いや私の3人家族だ。でも父さんはずっと海外に行きっぱなしで家に帰ってくるのは年に数回程度だ。
正直父さんの事については良く分からない。でもたまに帰って来ると、幼いころ僕を抱き抱えいつも一緒に遊んでくれた思い出がある。
「……景大きくなったな」その一言が僕にとって、父さんからの褒め言葉の様にいつも思えていた。
はじめて僕が女の子の姿になって父さんと出会った時、父さんはなんていうのかとドキドキしていたけど、いつもの通り僕の事を可愛がってくれた。
そして「うん、うちに娘が出来たぞ」と喜んでくれていた。
嬉しかった。
だけど学校では違っていた。
僕のこの急激な変化に周りの子たちはついていけなかったのかもしれない。
中には僕をターゲットにいじめに走る子たちもいた。
それでも僕は負けなかった。
男の子の姿でいるよりも、女の子として生きて行くことの方が僕にとって、とても気持ちが安らぐからだ。
こう言う状態を性同一障害と言うのかもしれない。
僕は専門医によるカウンセリングなどは受けていない。彩音さんもそんなことはしなくても僕がそう言うふうに生きたければ、自分に素直に生きていけばいいと言ってくれていたからだ。
そう、自分が納得しうるその姿でいることを、僕が望む姿で生きる事を、僕が望んでいるから……。
今まで親しくしていた男友達も次第に僕から遠ざかっていった。
それも仕方がないだろう。
いつしか僕は完全な孤立状態になった。
そんな中、一人の女子生徒だけが僕と親しくしてくれていた。
学校でも、その外でも僕と彼女はいつも一緒だった。
「景ちゃんさぁ、またまた女の子らしくなって来たねぇ」
「そぅぉ? 本当に? まだまだなんだけどさぁ」
「ううん、物凄く可愛いよ」
「嬉しいなぁ、そう言ってもらえると」
「うふふふ、その笑顔私好きだなぁ」
「うん、ありがとう。そう言ってくれるの舞香ちゃんだけだよ」
「ああ、景ちゃん私よりもかわいくなっちゃったらどうしよう」
「ええ、そんなことないよう。だって舞香ちゃんとっても可愛んだもん」
「そぅぉ? ねぇ、手、繋いでもいい?」
「うんいいよ」
僕……ううん私は、舞香ちゃんと一緒にいることがとても幸せに感じていた。
次第に、僕の周りにはクラスの女の子たちが話しかけてくれるようになって来た。
少しずつだけど、みんなが私を受け入れ始めているのを感じていた。
これも舞香ちゃんが何もこだわらず、私と付き合ってくれたおかげだろう。
私がこの姿に変わってから半年が過ぎた夏。その頃にはもう私はクラスの中でも学校の中でも女の子だという認識の元みんなが理解……、ううん、当たり前の様に生活が出来るようになった。
「ねぇねぇ、景ちゃん昨日さぁ、隣のクラスの安本に告られたんだってぇ」
「なははは、じ、実はそうなんだけどさぁ」
「で、で、どうしたの?」
「ごめんなさいしちゃった」
「ええ、もったいなぁ――い。安本って言ったら陸上部のエースじゃない。見た目もカッコいいし。私だったらぜったいOKしちゃうなぁ」
「うん、そうなんだけどさぁ。何となくまだ男の人と付き合うのって、勇気がいるんだよ」
「そうなの? もうどこから見ても景ちゃん女の子にしか見えないんだけど」
「ありがとう」
正直まさかこの私が告白されるなんて夢にも思っていなかったんだけど、でも本当はね嬉しかった。私を女の子として見てくれていたんだという事がとても嬉しかった。
でも、まだ本当に女の子になつた訳じゃないんだよね。
……それに私にはもう一つの秘密がある。
それは、私は吸血鬼だという事。
中学に入ったころから、私にはある変化が起きていた。
牙が生えて来たのだ。
いつもこの牙は生えてはいないんだけど、なんだろう……気持ちが、何となくエッチな気持ちになった時、私の牙が少しずつ生えてくる。
そうなれば、血を吸いたいという衝動に襲われてくるのだ。
私の家系が吸血鬼の一族であることは、彩音さんから大分前に知らされていた。
そのことを決して軽々しく人に行っては逝けないことも。
そして私が第2次成長期を迎える時に、多分牙が生えてくることも知らされていた。
「うーん、これが吸血鬼の牙かぁ。なんか門凄く鋭いんだけど。ちょっと怖い気もすなぁ」
なんて思う自分がいたのは正直なところだ。
牙が完全に生える状態なった時には、もう私は女の子でなければいけないという想いがこの頭の中を支配していた。
多分この成長期にあわせ、私の中で眠っていたもう一人の私が目覚めたんだと思う。
吸血鬼と言う本来の私の姿と共に。
もうクラスの中に完全に女の子として溶け込んでいた私に、吸血鬼としての性が襲い始めたのは、舞香と私の部屋で期末試験の勉強を一緒にしていた時だった。
「ああ、舞香ぁづかれたよぉ! ちょっと休憩しない」
「うーーん、本当に疲れたねぇ」
「だってさぁ今回の数学のテストの範囲物凄く多いんだもん。こんなに多いとさぁ、やってもやっても追いつかないよう」
「あははは、景ちゃん数学苦手だもんねぇ」
「ううううううううう!!!! それ言わないでよう。でもさぁ舞香が数学得意で助かちゃってるんだ実を言えばね」
「うんうん感謝しなさいよ。私がいないと景ちゃん数学玉砕だもんねぇ」
「なははは、そうなんだよねぇ。あ、今何かお菓子持ってくるからちょっと待っててね」
「うん、分かった」
私は部屋に舞香を残して、キッチンにお菓子を取りに行った。
あれは僕のミスだった。もっと注意を払っておけばよかったと思った。
トレーにお菓子とジュースをもって部屋に戻ると、舞香は私のベッドに寝そべっていた。
「どうしたの舞香。眠くなっちゃったの?」
「ううん、そうじゃないんだけどね」
「本当に疲れちゃったんだぁ」
「うん、疲れちゃったのほ本当だよ。だからさぁ、景ちゃんのこの香りで疲れ癒しているんだぁ」
「ええ、、ちょっと恥ずかしいよ舞香」
「でさぁ、私見つけちゃったんだよねぇ。この熊さんどうして首のところにこんな穴がいくつも空いているの?」
「えっ!」み、見つかってしまった。
どうしても吸血衝動が抑えきれない時、私はベッドで一緒に寝ている熊の縫いぐるみにあの牙をさし込んでいたのだ。
「そ、それは……」
「ねぇ、景ちゃんってさぁ私にまだ何か隠し事していない?」
「……し、していないよ」
「本当に? 私さぁ告白するけど、本当は女の子の景ちゃんが好きなんだぁ」
舞香は熊の縫いぐるみをぎゅっと抱きながら「きゃっ、言っちゃった」と体をベッドの上でもそもそと動かしていた。
舞香のスカートがめくりあがる。
淡いピンク色のパンティーが私の目に飛び込んできた。
「あのね、こうして景ちゃんの香り嗅いでいるだけで、私変な気持ちになっちゃうの。ねぇ、この気持ちどうしたら落ちつくんだろうね」
そっと、愛華の瞳が私の瞳を映し出した。
彼女の体を目にするたびに私の胸の鼓動は高鳴る。
「ねぇ景、この私を静めてよ」
「本当にいいの?」
こくんと舞香は頷いた。
ゆっくりと優しく私は舞香の体を抱いて、彼女の首筋に自分の唇を軽く押しあてた。
「あん、景くすぐったい」
そして、私は舞香の首筋に牙をさし込んだ。
「あっうっ!」びくっと舞香の体が反応する。
最初は浅く、そしてゆっくりと深く私は牙を舞香の中に押し込んでいった。
「ああああああ!」
気持ちいい……景とても幸せな気分だよ。
舞香はうわ言の様に私の耳元で行った。
じわっと舞香の温かい血が溢れてくる。
その血をごくりと飲み込んだ。その時に得られた快感は今でも忘れられない。
はじめて、人の血を吸った瞬間だった。
友達の私の大切な親友の血を私は吸った。
罪悪感はなかった。
そう、この時私は吸血鬼としての衝動を受け入れたのだ。
親友の
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