第9話 第三の転校生 ACT1

「はいはい静かにして! 朝のホームルーム始めるぞ」

 騒めく教室が担任の間宮先生の一言で、シーンと静まった。


 今日の間宮先生の姿は教師としてはアウトなのか、それともギリギリセーフなのか? あのセクシーさにはドキンとしてしまう。


「あ―、ゴホン。実は―、うちのクラスにまた転校生が来た。紹介する、おい入っておいで」


 僕の時と同じように廊下で待っていた子が教室に入って来た。


 一瞬騒めくクラスの子たちが、その子を見たとたん「えっ!」と言う声が聞こえた。

 正直僕も「んっ!」と思ったくらいだ。


 なんか僕に似ている。


 髪はショートヘアーで目はくるりとした見開いた瞼。ちょっと幼く見えるところは……う――――ん、僕と比較していいんだろうか?


 でも何か雰囲気的なものは、どこか共感するところが多いような気がする。


「それじゃ自己紹介して」


 間宮先生に言われ、黒板に名前を書く。背は小さめだから、背伸びをしてつま先立ちでチョークで書くのはきついのを僕は知っている。


鶉依優華うずらいゆうかです。ドイツに居ましたけど、父親の仕事の関係で、日本にまた帰ってきました。久しぶりの日本なので、ちょっとずれているところあるかもしれませんけど、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げ、お辞儀をする姿はとっても可愛らしい。


 んーっと、僕の後ろの席空いているから、多分僕の後ろになるんだろうな。


「ほい、それじゃ鶉依の席は……、ほい、後ろの入り口の所、ちょっと騒がしいとこだけどかんべんな」


 あれぁ、僕の後ろの席も空いているんだけど、ん? そう言えば昨日まであそこに机あったかなぁ。なかったような気もするけど。


 でもどうして僕の後ろの席空いているのに、来なかったんだろう。


 千裕に訊いてみようとしたけどやめた。ま、空いていても何も問題もないからだけど。


 でも、僕はこの時まだ知らなった。

 この席にちゃんと主がいることに……。


「しかしまぁなんだ最近、転校生多いな。3年にも転校生が編入したって聞いたけどな」

 間宮先生がぼそりという。


 なははは、それって彩音さんの事なんだろうな。


 まぁ、僕が第一の転校生で彩音さんが第二の転校生、そして今日来た鶉依優華うずらいゆうかさんが第三の転校生て言うところだろう。


「ねぇ景ちゃん、あの子、景ちゃんによく似ていると思うんだけど、親戚か何かなの?」


「ううん違うよ千裕。初めて会う子なんだけど、私もびっくりしたんだ、よく似ているなぁって」

「ふぅ――んそうなんだ。でもさぁ、ちょっと景ちゃんよりも幼いような感じに見えるかなぁ。可愛いんだけど」


「駄目だよ千裕、食べちゃ」


「アハハ! 食べない食べない。食べるんだったら私景ちゃんがいいなぁ」


「ほへぇ、私食べられちゃうんだ千裕に」

「うんうん、食べちゃうぞぉ!」


「おいおい! 千裕に飛鳥景、授業そろそろ始めてもいいか?」


「あ!」


 間宮先生ににらまれて、二人して小さくなちゃった。


 休み時間になるとやっぱり鶉依さんの所にみんな集まって、あれやこれやと聞き込みに走っていた。ああ、僕の時と同じだなぁ。なんて思っていると、鶉依さんの視線が僕に注がれているのに気が付いた。


 な、なんだろう? この熱い視線は……。


 確か鶉依さんってドイツから来たって言っていたけど、もしかして僕らの一族の事何か知っているとでも言うのか。


 ……多分それはないと思うんんだけど。


 でも、気になる。……彼女は何かを知っているような気がする。



 放課後、生徒会室に行くと、あの立派過ぎるディスクに向かい園が仕事をしていた。


「あ、景様。クラスの方は今日はもうよろしんですか?」

「うん大丈夫だよ」


「そうですか、済みません私ちょっと今手が離せないもので、そちらのソファーでお休みになってください。もう少しましたらお茶お淹れしますので」


「あ、大丈夫だよ。お仕事の方優先させてよ」

「ありがとうございます。景様」


 そう言いながらディスクの上のパソコンを見つめ、キーを打つ音が響いていた。

 そう言えば、ここに来てから思ったんだけど、生徒会室に他の役員の姿がない。


 他の人たちって、どうしてるんだろう。……まさか、生徒会って園一人って言う訳でもないだろうし。


「ふぅ、ようやく終わりましたわ。すみません景様」


「ううん、僕も何かやらないといけないんだろうけど、何やったらいいのか分かんないからね。それと、ここ誰もいないんだね」


「うふふ、そうですよ。ここで作業をするのは私……と景様だけですから」

「えっ! 生徒会ってまさか僕ら二人っきりなの?」


「まっさかぁ、そんなことありませんわよ。私の直下の副会長に、その他役員が5名ほどおりますわよ」


「でもぉ、今まで会ったこともないんだけど」


「ああ、そうですわよね。みんなが集まるのなんて、緊急事態の時以外ほとんどありませんから。連絡や職務は全てリモートで行っているんです」


 園は僕に生徒会の今のシステムの説明をしながら、紅茶を淹れてくれた。


「へぇ、凄く進んでいるんだね」


「ええ、何もここに集まって会議をしたりする必要もありませんし、みんな、生徒会の仕事をこなすために有効な時間の使い方をしていますからね」


「なんだか前の学校とは全然違うよ。あ、前の学校では生徒会はやっていなかったけどね」


「存じ上げていますわよ景様」


 にっこりとほほ笑んだ園の顔を見ると物凄く心が和む。


「ああ、そうだ忘れていました。今晩私の家にお越し頂けませんか? お母様、私の方の母親ですけど、今晩お夕食ご一緒にどうですか、との事なんですけど。ご都合は大丈夫でしょうか」


「ええッと、お義母さんのお誘いじゃ断れないよね」


「うふふ、そう言っていただけると思っていました。今晩は楽しい夕食が頂けそうですわね」


「それなら彩音さんに連絡しておかないと」

「大丈夫ですわよ。彩音さんもご一緒ですから」


 ふぅーんそうなんだ。


 なんか彩音さんと園のお義母さんが二人そろうと、またテンションアゲアゲになりそうな気がするんだけど。


 この前なんか、無理やり彩音さんが園の両親の所に、僕らの事を報告しに押しかけた時だって大変だったんだから。


 でもさぁ、園のお義母さん、僕らの事快く承諾してくれたからほんと助かったよ。見た目はちょっと厳しそうだけど、本当はすごく気さくな人だったからね。


 でも世継ぎの事は釘刺されちゃった。

「もう少し我慢してね」だって。


 そして園の表情が少し曇り始めた。


「今日転校生が景様のクラスに編入されましたよね」


「うん、鶉依優華うずらいゆうかさんて言う子だけど、どうかしたの園?」



「お気を付けください。その方の事についても、今晩お母様からお話があると思いますので」



 ん? いったい何だろう。鶉依優華うずらいゆうかさんに、いったい何があるんだろうか?

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