第8話 生徒会長 豊島園 ACT4

 生徒会長、豊島園。2年A組


 身長163㎝、体重……(内緒、僕は知ってるけど他に人に言ったら、ただではすまい)、バスト89、ウエスト75、ヒップ82と一応このサイズだったら言ってもいいと許可はもらっている。


 成績は優秀。学年トップを許したことがない才女。

 長い黒髪に愛らしく透き通った白い肌、その美貌は誰もが認める美しさだ。


 そんなパーフェクトガールが僕の伴侶となった。

 しかも彼女は僕の第一伴侶だ。この先の生涯を共に過ごすパートナーだ。


 伴侶と言えば、連れ添い、いわば妻と言う存在をイメージするだろう。確かに彼女は僕にとって妻と言う位置づけになる。しかし、僕ら吸血鬼にとって伴侶は一人だけではない。この日本では認められてはいないが、そう一夫多妻という男なら夢見る世界を構築しなければいけない。


 そうなのだ、いわゆるハーレムと言う環境をこの僕は作り上げないといけない。


 昼休み、僕は屋上の扉を開いた。


 高い金網のフェンスが外周を囲み、校舎全体からすれば屋上として使える広さはごくわずかなスペースだが、ここは何となく気持ちがいいところだ。


 視線を真っすぐと向ける。その先に備え付けられていたベンチに、豊島園の姿があった。


「豊島さん」


 声をかけると読んでいた文庫本から目をそらし、僕の方に視線を向け。

「景様」と、恥ずかしそうに彼女は言った。


「学校ではその……景でいいよ」


「でも、二人っきりの時は私は、お慕いする主を景様とお呼びしたいですわ」


「なんだか恥ずかしんだけど」

 うふふふと彼女は笑い

「馴れてくださいね」と言う。その彼女の表情に胸が締め付けられた。


 僕の初めての伴侶。


 誓いの契りを交わした正当なる第一伴侶。豊島園。

 こんなにも美しい彼女を第一伴侶として迎え入れたことに、優越感を持たない方が嘘だ。


「そうそう、景様。私、今日お弁当作って来たんですの。お口に合うかどうかわかりませんけど、よろしければお召し上がり頂けますか?」


「えっ、本当。うん、食べる食べる。嬉しいなぁ」


 ちょこんと彼女は腰を浮かし、横に置いてあったお弁当箱を僕らの間に置いて、蓋を開けた。


 綺麗に盛り付けられたおかずに、俵型に握ったおにぎりに海苔のバンドが巻いてあった。


「わぁ、美味しそうだね。凄いよ園ちゃん」


 彼女は箸を持ち卵焼きをつまみ「さ、どうぞ景様」と僕の口元まで持って、僕が口を開けるのを待っていた。


「なんかちょっと恥ずかしいなぁ」

「そんなことありませんわよ、景様」


「でもさぁ、僕男の子なのに、今は女の子の姿なんだよ。そんな僕と……なんていうかさぁ、ほかの人が見たら、女の子同士でこんなことしているなんて思われるの嫌じゃないの」


「ううん、私はそんな事ちっとも気にしていませんわよ。むしろ今のこの可愛い景様のお姿が好きなんですもの」


「そぉぉ? こんな僕でいいんだ」


「何を今さらおっしゃっているんですか。私はあなたのすべてを受け入れて伴侶の誓いをしたんですから。それに、言ったじゃないですか、ずっと私は景様の事を見てきていたって」


「うん、そうだね園ちゃん。ありがとう」


「……あのう、あのね。それで一つお願いがあるんですけど」

「えっ? 何、お願いって」


「……えっとですね。私の事『園』って呼んでもらえますか?」


「うんとね、うんとね……なんかとっても恥ずかしんだけど。いいの?」


 豊島園はこくんと頷いて

「うん」


「そ、それじゃ……『園』」と呼んだ。


 顔を桜色に染めて

「景様……愛しております」

 と、彼女は自分に確かめるように言う。


 ああああ! いいなぁ。僕幸せ!


 そして彼女は箸に持つ卵焼きを見つめ

「あ、いけない。さぁどうぞ、お待たせいたしました」

 彼女の作った卵焼きをアムっと口の中に頬張った


 口いっぱいに濃厚な卵の風味と甘さが広がる。


「美味しいよ。とっても美味しいよ……園」

「う、嬉しいです。私本当に嬉しいです景様」


 その時彼女の右手の指に、絆創膏が巻かれているのに気づいた。


「園、その指。もしかしてこのお弁当作るのに切っちゃったの?」


「なんでもないですわよ、ちょっとしたかすり傷程度です。お気になさらないでください景様」


 園はそう言うけど、多分、今日朝早くから園はお弁当を作って、その時に怪我をしたんだ。それを思うと胸が熱くなる。


「園……」


 彼女の指をそっと攫み、巻いてある絆創膏を剥がした。

 意外と傷は深かった。


「まったく、これのどこがかすり傷なんだよ。これ以上僕の為に園の体に傷は付けさせたくはないよ」


 うっすらと血が滲んでいるその指を僕は優しく口に含んだ。僕の唾液が彼女の指の傷を覆いつくす。


「あ、ダメです景様。そ、そんなことしたらいけませんわ」


 ちゅぱッと、彼女の指を口から離した。


 彼女はその指を見て

「あ、傷が治っている」


「えへへへ、そうなんだ。なんかさぁ僕、自分の体の傷すぐにもとに戻って治っているんだよね。もしかしてと思って、やってみたら治ったね。よかった。園」


「嘘、……そんな」

「ど、どうしたんだよ園」


「ああああああ! 景様、あなたはもしかしたらおじい様の前の、第一世代の真祖様の性質を受け継いだのではありませんか?」


 第一世代の真祖の性質? 


「それって、もしかして……」

「そう不死の体質」


「まだはっきりとは分からないんだけどね」


 えっ! その声は彩音あやねさん。


「彩音さん、また学校に来ていたんですか?」

「あら嫌だ、私が学校に来ちゃいけないのぉ?」


「だって生徒でもないのに、しっかり制服なんかまた来ちゃって、生徒の様に紛れ込んでいるなんて、まずいんじゃないのかなぁ」


「ぬふふふっふ。景ちゃん、聞いて驚くなかれ! なんと私、飛鳥彩音あすかあやねは今日3年A組に転校生として編入したのだ。これで、私はれっきとした女子高生となったのだよ。よ―――――く覚えておきたまえ!」


『エッヘン!』


「えええええええ! マジなの? 本当にマジに生徒になっちゃったの」


「そうよ、景ちゃん。だからこれからは私の事は、彩音先輩と呼んでね」

「はぁ、そうやって僕たちの事監視するために、そこまで普通やるかなぁ」


「あら、そんな無粋なことなんかしませんわよ。もうあなた達は伴侶の契約を済ませた仲なんですもの。もうれっきとした夫婦でしょ……、でもさぁ、まだ一線だけは超えちゃねぇ、ちょっとまずいんだよねぇ。ねぇそうでしょ園ちゃん」


「一線てさぁ、昨日も彩音さん言っていたよね、僕が18歳にならないと法律がどうのこうのって」


「そうね、でもねそれは……」


「お、お母様、いかがです今日私が作って来たお弁当、お味見していただけないでしょうか」


 園は話を遮るように、彩音さんに話しかけた。


「お、お母様!」


「ええ、そうじゃありませんか、私は景様の伴侶ですもの、その景様のお母様は私にとって親ではありませんか」


「あら、そうねぇ。お母様かぁ、うんうん、そうかぁ。私にも娘が出来たのね。あ、でも今は景ちゃんも娘だったわね」


 う――――ん。なんだかちょっとややこしい関係だけどね。

 この際その部分は適当に了解してもらうしかないんだよねぇ。



「あら、美味しいわねぇ。園ちゃんお料理上手。今度私に教えてくれない?」

「えっ! お母様。お母様の方がお料理上手じゃないんですか?」


「なははは、私料理からっきし駄目なんだよねぇ。ねぇ景ちゃん」

「はいはい、よく私もここまで生きてこれたものですよ、あの彩音さんの料理で」


「んっもう、そこまで言わなくたっていいじゃない」


 ちょっとほほを膨らませてすねる彩音さん。自分の母親なんだけど、なんか可愛い。変な競争心が湧き出るのは……やばいのかなぁ。


「あ、そうだそうだ。景ちゃん。園ちゃんのご両親に伴侶の契りを交わしたことまだ報告していないでしょ。ちゃんとご挨拶しないとね。それじゃこれから行きますかぁ」


「えええええええ! これからって、まだ午後の授業があるんだけど」


「大丈夫大丈夫。さ、行くよ景ちゃん」


「ああああああ! 私が景様の為に作って来たお弁当、全部お母様に食べられちゃったぁ!!」


「美味しかったわよ園ちゃん」




 **サウンドオンリー


「ほう、飛鳥景が豊島園と伴侶の契りを交わしたとは」

「いささか展開が早まったという感じですかね」


「いずれはあの二人がこうなることは織り込み済みでしょ」

「確かにそうだ、おや、今日は『黒』は来ていないようだが」


「ふん、あの方は自由気ままな方ですからね」


「まぁよい。それでは時期が満ちたようだ。我々も行動を開始しようではないか」


 各々は一斉に「頭首の御心のままに」と声をそろえて言った。


 僕に忍び寄る影が、すぐそこにまで押し寄せていることなんか、まったく知ることなんかない僕……私、だった。

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