第3話 捕食準備 ACT2

「部活動ねぇ。あんまり考えていないんだけど」


「だめだよぉ景ちゃん。ここの学校ってさぁ、部活強制なんだよ。ほら、生徒玄関に大きく書いてあったじゃない『文武両道』てね」


「そんなのあったけ? でもそうなんだ、部活動かぁ今までやってなかったからなんか気が重いなぁ」


「千裕は何やってるの?」

「ん、私? 私は美術部だよ」


「美術部かぁ、絵描くの下手だからなぁ。美術部は無理だね」

「そうなんだぁ。一緒に部活出来ればよかったんだけど」


 意外とあっさりと引くんだなぁ。もう少し粘られるかと思ったんだけど。


「今日の放課後覗いてみるよ」


「そうだね。それがいいと思うよ。あとさぁ、部活とは別なんだけど、生徒会とか、風紀委員なんて言う、お役所さんもあるんだけどね」


「そっち方面はパスかなぁ、お堅い感じの事って合わないんだよねぇ」

「なははは、何かそうみたいだね」


 くるりと千裕は前に体を戻した。


 その後ろ姿を見つめ、目に入る千裕のうなじを眺めていた。

 千裕って綺麗なうなじしてるんだ。


 ちょっと興味あるかなぁ。

「ゴクリ」とつばを飲み込んだ。


 でもさぁやっぱり、最初のターゲットは宮間先生かなぁ。


 あの首筋にガブッと行きたいよなぁ。

 う――-ん、転校して早々教師って言うのは難易度高いかなぁ。


 ああ、ダメだよう。体がうずいてきちゃうぅ。


 て、今からそんなことばかり考えていたら、暴発しそうだ。


 ええッとまずは次の授業なんだっけ。時間割をちらっと見て、数学かぁ、カバンをごそごそとあさりながら数学の教科書を取り出した。


 ふと隣の子の教科書を見ると表紙がなんか違う? 

 あれぁ、もしかして教科書違うのかなぁ。

 ちょっと焦りモードになっているところに、隣の子が声をかけて来た。


「も、もしかして飛鳥さん教科書違ってるの?」


「なははは、何だかそうみたいだね。前の学校の教科書しか今ないんだよねぇ」


「そうなんだ、よかったら一緒に見ます?」

「えっ、いいの? ええッと……」


「あ、私、前原弓弦まえはらゆずるです」


 なんかとっても、おとなしい子なんだなぁ。


「ありがとう前原さん」

 机を彼女とくっ付けて前原さんの横にぴとっと体を寄せた。


 で、でででで、そん時に気が付いたんだよ。


 ま、前原さん。あなたのそのお胸。おっぱい。制服の上からでもはっきりと分かる、いや分からない方がこりゃ変だ。


 あの豊満なおっぱいの姿を。


 まじまじと見つめてしまう彼女のそのおっぱい。

 はぁ、こんだけあったらいろんなことできそうだよ。


 色んなことってどんなこと? 


「あのぉ、そんなに見つめないでください。恥ずかしいです」


「あ、ご、ごめんなさい。でもすごいねぇ」


「そうですかぁ。私はこんなにいらないんですけど。私にとってはコンプレックスなんですよ」

 ニコット笑いながら彼女は言った。


 コンプレックスって、ないのも凄いコンプレックスなんですけどぉ!


 ……おいその前に僕は男なんだよ。でも、女の子としては欲しいよねぇ、おっぱい。


 長い黒髪に柔らかそうなぷよッとした体と、それなりに整った顔つき。ン―――。好みかも……。


 ああ、女子高ってこんなにも美味しそうな子にすぐに出会えるんだ。なんだか可愛い子の自動販売機みたいなところだよなぁ。


 このなんとも言えない甘すっぱい香りが教室の中全体を包み込んでいる。その香りを押しのけるように彼女から漂う香りを感じた。


 何だろうこの香りは?

 何となくとても懐かしいようでいて、禁断の香りの様な。


 も、もしかしてこの香りは……。


 母乳?


 ええええええ! 前原さんってもしかして妊娠してんの?


 まっさかねぇ。

 これって訊いていいことなんだろうか?


 やっぱりまずいでしょう。


「前原さん妊娠してんの?」なんて今日会ったばかりのクラスメイトにそんなこと訊けないよ。


 でもさぁ、これ間違いなく母乳の匂いだよ。


 血、飲んでみれば妊娠してるのかどうかは、すぐにわかるんだけど。だってさぁ、やっぱ味が違うんだようねぇ。


 ん―、初日からすごい人と出会ってしまったよ。

 なははは、こりゃ放課後までもつかなぁ。


 僕ら吸血鬼の吸血衝動ってさぁ、何も養分を吸うためのもじゃないんだ。


 言わば欲求の解消の方が大きいんだよ。


 だからさ、誰の血でもいいって言う訳でもないんだ。

 僕で言えば、可愛い僕好みの女の子でなければ受け付けないんだよ。


 中学の時に、隣のクラスの男子にしつこく付きまとわれて、いきなりキスされそうになったことあったんだ。その時思いっきりそいつに噛みついて血吸っちゃったんだよねぇ。


 そうしたら、熱は上がるし食あたり状態になって、動けなくなっちゃうし。散々な思いをしたんだよ。


 それからは僕は誓ったんだ!


 絶対に男の血は吸わないって。


 でね、どうせ吸うんなら、僕好みの可愛い女の子の血にしよって。

 だってやっぱり吸っている時の感じが全然違うんだもん。


 ああああ、今日はもう3人もいい子に巡り合えたよ。あ、そのうち一人は先生なんだけどね。


 でもさぁ、きっかけがまだ出来ていないんだよねぇ。

 いきなりカプッと言う訳にも行かないし……。それに転校初日だよ。


 今日は偵察に専念した方がいいよね。


 変な噂立てられるのも嫌だしぃ!


「あのぉ飛鳥さん」

「えっ? ど、どうしたの?」


「授業もう終わったんですけど」

「嘘、そうなの? あははは、あっという間だったね」


「でも飛鳥さんなんだかずっと、考え事していた見たいでしたね」

「そ、そんなことないよちゃんと授業訊いていたよ」


 うふふふと彼女は笑い。


「だってノート何にも取っていなかったじゃないですか。今日の授業の所多分期末に出ると思いますよ」


「えっ! マジ。本当に、あちゃぁ。やっちゃったよ」

「はいどうぞ」

 前原さんがノートを差し出した。


「私のでよければどうぞ写してください。今日の放課後までに返してくれればいいですよ」


 あくまでもおっとりとにこやかに接してくれる前原さん。


 ほのかに彼女から放たれる母乳の香りが食欲を……いや、好感を一段上げていく。


 ああ、早くこの子の血を吸いたいよう。


 その衝動を抑えながらようやく今日の授業が終わった。



 転校初日。僕はこの女子高の甘い甘美な誘惑の中で、一日欲情と戦い続けた。


 明日もこの欲情と戦うのか?

 ああああ、僕は持つだろうか。


 衝動的にカプッとしないことを祈りたい。

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