第2話 捕食準備 ACT1

 僕の席は窓側の後ろから2番目。

 なんとも転校生に用意されたかのような場所だ。


 しかも後ろの席は空席となっている。


 席に座ると早速前の席の子が、くるりとこちらを向き話しかけてくる。


「私、東千裕あずまちひろよろしくね。けいちゃん」

 にっこりと笑い「よろしくね東さん」と愛想よく返す。

 始めの印象が肝心なのだ。


「もうそんな方ぐるしくしなくてもいいよ。千裕でいいよ」

「そぉ、それじゃ千裕さん」


「んっもう、さんもいらない」

「んじゃ千裕」


「うんうん、そうそう。それで十分。景ちゃんてホント可愛いよねぇ。ねぇねぇ、前の学校でモテていたでしょう。あ、それともう彼氏なんかいたりするのぉ?」


「ええ、そんなぁ全然モテていなかったよ。彼氏なんていなかったし」


「へぇそうなんだ。ほっとかないと思うんだけどなぁ。こんなにも可愛い女の子。きっと前の学校の男子って変つく者ばっかりだったんじゃない」


「なははは、そ、そうかもね。でも、私が前の学校共学だってよく分かったね」


「ぬふふっ、感じるんだよねぇ。私男知ってますって言うオーラが」

「はいぃ? 男知ってますって……、そのぉ、あれの事ですか?」


「そ、その先はここじゃ言えないでしょ」


 顔を少し赤くする千裕。

 ははは、知ってるも何も僕は男なんだからさ。


「おいそこ、いつまで話してるんだ、もうホームルーム終わるぞ」

 先生の激声が私たちに響いた。


 おお、意外と間宮先生って怖いんだなぁ。

 でもさぁあのフェロモン、モンモンの先生見てると、よだれが止まらないよう。

 こう押し込んで首筋に「ガブッ」といきたい!


 ああ、牙を差し込んだときにビクっと体震わすんだろうなぁ。


 あのビクッとするときいいんだよなぁ。


 じわぁっと、滲み出てくる血を始めはゆっくりと舐めるように、それから軽く吸い出しながら、あふれ出てくる血をごくごくと飲み干していく。


 ああああああああ! 快感だよねぇ。


「あれぇ、景ちゃんどうしたのぉ? 顔赤くなってるよ」

「えっ! 嘘ほんと。だ、大丈夫だよ」


 や、やばい。男の部分も反応して来ちゃったぁ。


 落ち着こう、ここは落ち着いて平常心平常心。


「なはははは、なんだろうね、ちょっと緊張しちゃったのかなぁ」


「そぉぉ? そうそう担任の間宮先生、怒らせると物凄く怖いから気を付けてね」


「ふぅーんそうなんだぁ。覚えておくよ。ありがとう千裕」


「どういたしまして。私たちなんか気が合いそうだね。いい友達になれそうだよ」


「そうだね」

 と、愛そう笑いをする僕、いいや私なのです。


 休み時間は案の定、クラスのみんなが私を囲んで、あれやこれやと質問攻め。


 やっぱり中にはいる。みんなと行動が違う子が。

 でもそれはそれでいいし、取り急ぎ、どうこうしようとしたところで、なんともならないのはよく知っている。


 でも、そう言う子に限って美味しいのがいるんだよねぇ。


 て、転校はこれが初めてなんだけど。


 前の学校でも、何人かの女の子の純血頂いたんだけど。さすがに収穫率が低い。

 最も男女の比率が男性の方が多い学校だったから、それは致し方ないかぁ。


 僕がね、こうして女の子デビューしたのはね。

 そうそう、中学の時からなんだよ。


 小学校の時はおとなしい、自分で言うのも変だけどちょと可愛い系の男の子だったんだけどね。成長するにつれてさぁ、だんだんと表に出るようになってきちゃったんだよねぇ吸血衝動が。でさぁ、そのまま男の子でいるのがなんか苦痛になってきちゃったんだ。


 女の子の姿になると物凄く落ち着くんだぁ。


 体もさぁ、普通の男の子の様に背が高くなったり、力が付いたりしなかった。


 身長も155㎝で打ち止め状態だねぇ。


 その代わりくびれは出来ていたんだなこれが。ちょっと目には女の子そのものに見えるんだけど、……残念ながらおっぱいはさぁ、大きくならなかったんだなぁ。


 でもさぁ、最近ね、ちょっと恥ずかしいから小さい声で言うけど……。


 おっぱい出て来たんだよ。うれぴぃ!! 超極貧乳なんだけど。ぐすん、もっと大きなおっぱいが欲しいよぉ!! 切実な願い。


 で、そんな僕が何でこの女子高に転入してきたか? それにはある理由があるんだよ。


 お父さんのお父さん。つまりは僕にとっては、お爺ちゃんになるんだけど、やっぱりお爺ちゃんも吸血鬼なんだよ。もちろんお父さんもそうなんだけど。

 でさぁ、お爺ちゃんから一通の手紙が届いたんだ。


「景、お前ももう17歳だ。18歳までにはお前のハーレムを構築しておかないといけない。これは我が一族の血筋を守るために必要なことだ。健闘を祈る」


 と、物凄くアバウトで簡単な内容だったんだけど、実際吸血鬼の血筋を受け継いで、真祖直結の一族の血統になれるのは、ごく僅か。ほとんどが普通の人間として生まれる。中には半妖として生まれるのもいるみたいだけど、真祖直結の血族にはなれない。


 しかも最近と言うか、吸血鬼は年を取らない。不死である。と言うのが常識の様に言われているけど、それは真祖さんだけの話であって、実際は年も普通にとる。でもって銀の杭で心臓を撃ち抜かなければ死なないなんて言うのも当てはまらない。致命傷を負えば普通に死ぬみたいだ。


 でも僕はなんかちょっと違うみたいだけど……。


 あ、あとニンニクとかさぁ、ロザリオなんかを嫌うって言うのも真祖さんだけかもしれない。


 僕ニンニク大好きなんだよねぇ。


 焼き肉に生生ニンニク。ああああたまらない!!


 ロザリオ? うんネックレス持ってるよ。たまに着けてるんだぁ。あれさぁ、使徒と戦う人造ロボットの女性司令官がしていたロザリオを、モチーフしたやつの限定品なんだよねぇ。


 お気に入りの一つだよ。


 ででで、話がずれちゃったけど、要はさぁ、僕に吸血鬼の血筋を受け継いだ子を作れという事なんだよ。


 まぁねぇ外見は女の子なんだけど、子孫を残す種は十分すぎるくらい溢れているんだよねぇ……これがまたぁ。


 という事で、女の子がいっぱいる。いやいや、女の子しかいない女子高に編入したって言う事何だよ。


 それで何で男の子が女子高に編入できたのかって? そこは触れないでおこうよ。だって僕は今は女の子なんだからさ。まぁ多分お父さんが裏で何かしらやっているのは感じているんだけどね。


 うふふふふ。だからね僕は、今日から花の女子高生なのだ。

 甘い蜜を堪能しながら、僕のハーレムを構築しよう。


「あ、そうだ景ちゃん」

「ん? なぁに千裕」

「景ちゃん部活何か入る予定あるの?」


 ぶ・か・つ・ど・う。

 それは、今まで帰宅部だった僕には縁遠いものだった。

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