3ページ目〜思い出したくない記憶〜
冬美が体験入部に来た火曜日の翌朝、あくびを噛み殺し洗面所へ顔を洗いに行った俺はリビングの机の上に『今日も遅くなる!ごめんね〜母より』と書かれた紙を見つけ、「またか……」と呟いて作り置きされていたパンと目玉焼きを食べ、歯を磨き制服に着替え玄関を開けた。
「行ってきまーす。」
誰もいない玄関にそう言いつつ家出た。お気づきだとは思うが俺の母さんは朝から働いている。父さんがいないからだ。……一応言うけど別に父さんは死んだ訳じゃない。単身赴任で離れたところで暮らしてるだけだ。母さんが働いてるのは元からであり、父さんと共働きで学校の教師をやっている。中学校の教師だから俺が中学の頃のテスト勉強になかなか力を注いでくれていた。
「おーい!」
「……」プイっ
話を戻そう。だから俺は……
「無視しないでくださいよっ!」
今さっきまで2メートルほど離れてたのに急に真後ろに現れてバシ!と思いっきり背中を叩かれた。
「いってぇ!何すんだお前。」
後ろを振り向くとほっぺを膨らませながら不機嫌な顔をしている冬美がいた。
……あざと。
「……そう言うとこだぞお前。」
「お前が言うな!!」
呆れた顔で俺は指摘すると冬美は耳元まできて叫んできた。それに対しあぁーうるせぇと俺は耳をさすった。
「冗談だって。悪かったよ。……はよ。」
「おはようございます!最初からそうしてればいいんですよ!許しませんからね今のこと。」
「はいよ。んで、わざわざ引き留めたって事はなんか話す事でもあるのか?」
俺はそう聞くと冬美は何かを思い出したかのように話しを始めた。
「っと、そうでした。私、今日から交流部に入部させてもらいますね。」
「あーそうか了解……っておい、今お前なんて言った。」
「だから交流部に入部を……。」
「えぇ〜……。」
「何ですかそのあからさまに嫌そうな顔。」
マジかよ……夏樹でさえ相手しにくいってのにアイツ並みに扱いづらいこいつが入部してきたら俺の体が持たん……。だけど冬美のやつ、入る気満々だし歓迎してるような態度だけしとこ。
「オォーフユミモニュウブシテクレルノカーコレカラヨロシクナー。」
「全然歓迎してないですよね……。それにしても立花くん演技ヘッタクソですね。めちゃくちゃ棒読みじゃないですか。」
こいつ!俺の完璧な演技を見破っただと……!?それに演技が下手くそ?何を言ってるんだこいつは……。
"そうこの男、自分は演技が上手いと錯覚しているのである。"
「何でそんな嫌がるんですか。もしかして、夢野さんのこと気になってるけど私が入ってきちゃうとどっちを選んでいいかわかんない〜。なんて変な妄想してます?」
「すごいな、俺の考えてることと真逆の考えを出せるのはお前だけだよ。」
もうさすがになれたよ?こいつの自画自賛の精神。だから俺は半ば適当な返事をしてやった。
「むぅ〜、まぁなんと言われても私は入りますから。」
「むぅ〜」て……。後ほっぺを膨らませるなって……。あざとさ半端ねぇなおい。
「だからそう言うところだぞって言ってんだよなぁ……。っと、こっから別れて教室行こうぜ。」
「何でですか?」
「こっからは登校してくる生徒も増えるから。お前といると周りからの視線が痛いんだよ。特にこう言うぼっち君にとっては。」
「でも、私たち普通に友達だって言えばよくないです?」
「俺はな、平穏に過ごしたいんだよ。現状、1学年で1番かわいいって言われてるお前と友達ってだけで変な噂が飛び交うの。」
「かわいいだなんてそんな!褒めても何にも出ないですよ!」
そう言った冬美はほっぺに手を当てて「えへへ」と喜びの表情を浮かべていた。
「褒めてねぇ!あくまで周りの評価だよ。……続けるぞ、んでそう言うのめんどくさいから部活とか周りが見てない時間以外ではこんなに積極的に接して来ないでくれって話。」
「そんなもの何ですか?」
「そんなもんなの。……っ!」
中学、高校生は恋愛に飢えているのかそう言う話に敏感になる。ただ男女が話してるだけなのに、あの2人はできてるだの、喋らなくなったからってフラれただのと勝手な妄想で噂を立てられそれが広がり場合によってはいじめや他人との間に壁が作られる。俺はそんな考え方をする奴が大嫌いだ。本人の勝手だろ、そんなの。だから俺は分かり合えない人とは馴れ合わない。夏樹もそれを知っていてくれてよっぽどの事をのぞけば部活以外では話したりして来ないでいる。馴れ合って変な噂を立てられるくらいなら俺は一生ぼっちでいい。
「わかりましたけど。大丈夫ですか?なんか怒ってます?」
冬美は心配そうに俺を見つめてきた。
「怒ってない、ちょっと頭痛がしただけだ。ありがとな冬美。話を分かってくれるやつが友達で良かった。」
俺は乾いた笑みを浮かべた。冬美はその後も心配そうに俺を見ていたが、数秒後「じゃあ、私行きますね……。」と言って校門前まで小走りで去って行った。
……はぁ。保健室行こ。そう思い俺は、いつもは発さない近づくなオーラを撒き散らしながら、校舎に入った。
ーーーあれからどれだけ経ったのか。保健室のベッドから体を起こし時計を見ると10時を過ぎていた。そろそろ戻るかと思い「ありがとうございました。」と言って保健室を出た。
教室に戻ると、やはり俺の存在に気づくやつはいなく唯一気づいていた冬美も朝のことを守ってくれていて、他の友達と話をしている。
それから3,4時間目の授業があったが、ボーッとしていて頭に全く入って来ずいつの間にか昼の時間がやってきていた。
昼の時間が始まると同時に俺はいち早く教室を出て、いつも昼ご飯を食べている場所の部室へと足を運んだ。
「よお。」
「今日はいつもより早いのね。」
「教室に居るのが嫌だったからな。今日は特に。」
「またあの事を思い出したの?」
「あぁ……。冬美に部活以外では絡んでくるなって言う説明の過程でな……。」
「2年以上も前の事なのにね……。で?今日は帰るの?」
「いや、だいぶ落ち着いたよ。少しずつだけどあの事の耐性も付いた気がするし部活には出る。」
前までは思い出すだけで動悸が起きて息苦しくなっていたが今は頭が痛くなる程度で済む。人によってはすぐに忘れられる出来事だったとしても、あの事をトラウマのように思っている為か俺にはなかなか乗り越えられない。
「そう……。でも無理しないでね。」
「おう。冬美も入ってきたし、俺がいないってのもおかしな話だろ。」
「そうね。」
そう言い夏樹は優しく微笑んでくれた。やっぱり夏樹といると心が落ち着く感覚がある。いつもはめんどくさいやつだけど話が通じるからかこう言う時は頼りになってくれる。
「ありがとう。夏樹。」
今日、俺話してる人みんなにありがとうって言ってる気がするけど……気のせいだよな?と持ってきていたおにぎりを頬張った。
キーンカーンカーンコーン……
「っと俺先に行くから。じゃあな。」
「うん。また部活で。」
俺はそう言い残し、教室へ戻り5時間目の授業を受けた。
5時間目が終わり、帰りのHRを済ませた俺は部室へ行こうと椅子から立ち上がり、教室を出た。
「おーい!」
この感じ、デジャブだな……。と思い後ろを振り向くと冬美がこちらに向かっているのが見えた。
「朝ぶりだな。」
「もぉー、一緒に行こうとしたのになんで先にいったんですか?せっかく教室で探してたのに。」
「お前いなかったからもう行ったと思ったんだよ。悪い。」
「もっと待ってくれても良かったのに。」
そんな他愛もない会話をしながら部室へ到着した俺らは、ドアを開けた。
「ようやくきたな。立花、冬美。」
「な、なんで木坂先生がこんなところにいるんですか。」
ドアを開けるとそこには俺らの担任木坂先生がいた。あれ?ここ俺らの部室であってるよな……。
「冬美が入った事で正式な部活になったから私が顧問になったんだよ。なんだ?何か不満か?」
この人、俺の前だと性格豹変するんだよなぁ……。それにしても変わりすぎだけど。ほら冬美も困惑した顔をしてる。
「いえ……。何もないですけど。じゃあなんで急に部室に来たんですか。」
「そのことなんだが、正式な部活になったことでこれからの活動内容を教えに来たんだ。」
そう言うことか。確か今までは2人しかいなかったから、木坂先生が嘘をついて何とかやってきてたんだっけ。
「それで、活動内容とは何をするんですか?」
夏樹が続けて質問をした。
「それなんだがなぁ〜昨日私も見てみたが、『いろんな学年の元へ行き、話し仲良くなる』とか書いてあるんだよね。」
どう言うことだそれ……。今の一瞬だけ3人の考えてることが完全に一致した気がした。
「まぁ、それだと今は認められないらしいから、私が適当に考えだから安心して欲しい。」
「「「よかった〜」」」
俺らは3人揃って安堵の声を上げた。そりゃそうだろ。意味のわかんない活動内容を教えられてもどうしろって話だ。てか夏樹の兄さんどんな部活作ってるんだ……。よく許されたな!
「どうした夢野、立花、冬美急に声なんかあげて?」
「い、いえ気にしないで続けてください。」
夏樹が額に汗を浮かべながら誤魔化してくれた。てか逆にその活動内容に動揺しないってどう言うことだよ!?
「ん?そうか?じゃあ続きを……、んで私が考えた活動内容が『他の部の試合やコンクールの時、準備などの手伝いをする』て感じで校長に伝えといたから。」
「でもそれってボランティア部じゃ……。」
俺がそう呟くと夏樹がそれは違うよ!と言わんばかりに言い返してきた。
「"ボランティア"は決められたことではなく、自分から参加してやることって意味。だからボランティア部って言うのは間違ってると思う。」
「お、おう……。」
学力の差が出てしまった……。恥かいたじゃねぇか。俺は少し恥ずかしくなり、ほっぺを掻きながらそっぽを向いた。
それを尻目に冬美が木坂先生に質問をしていた。
「確か今週末にバドミントン部の大会がありましたよね?そこから部活動は開始するんですか?」
「冬美よく覚えてるね!そう今週末から早速始めるぞ〜。てなことで朝の8時に部室集合な。」
「え……。」
「もし誰かが休むなら中止にするが……。どうした立花?」
「いや、日曜日ぐらいは休みたいな〜って……。」
「「どうせ何も無いでしょ(ですよね)?」」
「……。」
鬼!悪魔!なんで?日曜日、休みたく無いの?確かに何も無いけど、それがいいんだろ!
やめろ!その「行かない」って言ったら殴るぞみたいな顔。
……はぁ〜仕方ないか……。
「分かった!行きます!行きますよ……。」
「立花くんならそう言ってくれると信じてました!」
俺がそう言うと、冬美と夏樹の顔がパァーッと晴れた。そんなやりたいの?これ。
「決まりだな。朝8時!遅れるなよ〜。じゃあ今日は終わりだから帰り支度して帰りなさい。」
そう言い先生は部室を後にした。
めんどくさいことになったなぁ……。まぁ決まったことだしやるか。紅い夕陽を眺めながら俺は家に帰った。
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