2ページ目〜体験入部……?〜
「こっちが職員室で、あっちが購買な。」
説明を始めて20分弱、俺は冬美の少し前を歩き、指を指して施設の説明をしていた。それに冬美はふんふんと相槌を打ちながら質問を聞いてきた。
「今思ったんですけど、何で一階から説明するんですか?私たちの教室四階なんですから上から説明すれば良かったのに……?」
「四階は美術室と部室くらいしかないからな。めんどくさいとこから説明してるだけだ。」
その考え方のおかげか説明は予想よりも早い25分くらいで終わりそうだしな。それに今日はアイツもいるだろうし4階で解散がちょうど良い。
「そういう事でしたか……。って、良いこと思いつきました!」
納得をした表情をすると、すぐに少し何かを考えているかの様なポーズをした冬美はパンっと手を叩いて俺の方を向いた。うーん、なんか嫌な予感がする……。
「せっかく早く終るんですし、立花くんの部活に体験入部させて下さいよ!」
「……は?」
突然のことすぎて俺の思考はついて行かなかったが、これだけは分かる。「あ……めんどくさいことになるな。」と。
「何で急に……」
「この学校、部活強制入部ですよね?パンフレットの部活紹介のページのこと思い出しまして、こうりゅうぶ……?そこに立花くんらしき人ともう一人女の子がいた記憶があったので。もしかして……駄目、ですか?」
顎の下に手を当て、上目遣いで目を潤ませながら俺を見つめてきた。クソ、こいつ!俺の弱点をしっかりとついてきやがる……!いくら性格が気に入らないと言っても、この頼まれ方をされたら……断れねぇ。
「し、仕方ねぇな。紹介してやるよ。」
「本当ですか!?やったー!」
さっきまで泣きそうな顔をしてたのが一変してニコニコと笑っていた。その顔はどこか「計画通り……!」と言っているような気がした。この数時間で俺の弱点を把握するとは。何者だこいつ……。
「ま、まぁ俺らの部室は4階だ。説明もあらかた終わったし今から行くか。」
「え?でも4階って1年生の教室と美術室以外、空き教室じゃないんですか……?」
きょとんとした顔で冬美は俺に聞いてきた。
「そう、その空き教室のひとつが俺らの部室だ。まぁうちの部、廃部になった部を立て直してやってるだけだけどな。まぁそこらへんはおいおい話すから。」
未だにきょとんとしている冬美を半ば無視して俺は部室のドアを開けた。
「ーーようやく来た。」
部室の中には長机ひとつと向かい合うような形で椅子がふたつ、その片方には黒髪のポニーテールで今さっきまで読んでいたであろう本を膝の上に置いている女子、夢野夏樹が座っていた。
「今日は入学式だから部活はないって自分で言ってなかったか?」
「あの璃久が誰かに校内案内しているのを見て、ここにもくるかなって思ったから待ってただけ。」
「あのは余計だ。俺だって頼まれたらやるんだよ。」
「あなたになんて頼む人いないでしょって意味で言ったつもりだけど?」
「う、うるせぇ。悪かったな!ぼっちで。」
こいつと言い合いで勝った試しがない……。俺は苦し紛れにうぐぐと威嚇をしていると、夏樹は俺の背後にひょっこりと頭を傾け話した。
「ところで、その子が新入部員?」
その視線の先は、さっきまで校内を一緒に歩いていた冬美だった。
「いや、まだ入部する訳じゃない。体験入部だとよ。」
「えっと、冬美ましろです。まだ体験入部ですけどよろしくお願いします。」
ぺこりと冬美は頭を下げた。
「ましろさんね。私は夢野夏樹この交流部の部長でこれの唯一の友達的な何かよ。よろしくね。」
「唯一って言うな。あとモノ扱いやめろ。」
俺がツッコミを入れたのにも関わらず、それを無視して冬美が夏樹に質問をした。
「そう言えばこの部活の活動内容って何ですか?部室に何も置いてないんですけど……?」
「まだ未定よ。顧問も未だにいないからね。」
「さっき立花くんも言ってましたけどどういう事です?廃部を建て直したりとか?」
「この学校の多くが空き教室になってるのは知っているでしょ?」
「はい。」
「あの空き教室の大半は元部室なの。部員が居なくなって廃部になったね。それで廃部の部室に関したこの学校の先輩しか知らない秘密があるんだよ。現状、私と璃久しか知らない。」
「秘密……ですか?」
「秘密って言っても、夏樹の兄さんの入れ知恵だろ?」
「余計なこと言わなくて良い。っと話が逸れた。それでその秘密って言うのが、廃部になった部も先生の許可が下りれば立て直しが可能ってこと。
……まぁ中2の時にお兄ちゃんに教えてもらって、それで璃久を誘ってこの部に入ったって感じ。」
ふぅ、と一息をついた夏樹はさっきまで座っていた椅子に戻り「よいしょ」と言いながら座った。
「とまぁ、こんな感じだけど他に何か質問ある?」
「いえ、大丈夫です。……って、じゃあこの部活の体験入部でやることって……?」
「「ないな(ないわね)」」
それからしばらく無言の時間が続いた。冬美は真顔で、夏樹は少し苦笑いをしながら。仕方ないとこの場を収集すべく、俺は呆れた顔で言葉を発した。
「まぁ、こんな何もやる事ないとこだから。今日は解散するか。」
冬美と夏樹の了承を得て、俺らは部室を出て校門前まで来た。道中、冬美と歩いていたが辺りは部活動中なため、俺が一緒に歩いている事には気づかれなかった。
「じゃあ私はこっちだから。じゃあね、ましろさん。」
「はい。今日はありがとうございました。」
再び冬美はぺこりとお辞儀をした。……あれ?俺は……?
夏樹の背中が見えなくなると、笑いを堪えている仕草をしている冬美はくすくすと笑い出した。
「急に何笑ってるんだ?」
「だっ……だって……立花くんが……ぼっちって……モノ扱いされてて…ふふふ……。」
「わ、笑うなよ!何が可笑しい!」
しばらく冬美は笑っていて、俺はそれを見ているだけだった。
「ふぅー、久しぶりにこんなに笑いました。」
数十秒後、冬美はそう言って目に浮かんだ涙を拭いた。そんなに面白いか?流石の俺も傷つくぞ……?
「でも、仲良いんですね。二人とも。」
「どうだかな。」
「あんなに言い合えるのは仲の良い証拠ですよ。良かったですねぼっちじゃなくて……ふふ。」
「余計なお世話だ。それにアイツは俺のことをぼっち扱いする時点で友達なのかどうか微妙じゃないか?」
俺がそう問いかけると冬美は少し前を歩きくるっとこちらを振り向いてこう言った。
「それもきっと強がってるんですよ。それに、私はもう立花くんの友達ですよ!」
そう言い冬美はニコッと笑いかけた。映画のラストシーンの背景のような赤く輝く夕日のせいか俺は初めて、冬美ましろを可愛いと思ってしまった。
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