小悪魔系女子が俺の青春1ページ
水城伊鈴
1ページ目〜出会い〜
「っはぁ〜……」
白い息が見えるくらい寒い冬の昼間、俺は1人商店街のベンチでため息をついていた。その理由は今日12月24日、クリスマスシーズン真っ只中なのである。商店街のど真ん中にはでかでかとクリスマスツリーが飾られており、辺りはリア充だらけ……。はぁ〜マジ爆発してくんねぇかなぁ……。
トントン。
「……ん?」
下を向いている俺に肩を叩いて来たのは、可愛らしい顔をしていてカントリースタイルとか言う髪型をした女の子がいた。
「あの……ちょっといいですか?」
「な……何ですか?」
生まれてこの方こんな街中で女の子に話しかけられる事なんてないが為、俺はちょっと声を上ずらせながら聞いた。
「少しだけ、彼氏のフリをしてもらってもいいですか?」
……え?今この子なんて?俺の耳が腐ってるのかな……。彼氏のフリをしてって……ん?
「い、いや何言ってるんすか。」
「理由は後で話しますので!今は黙って聞いてください。」
ぎゅっ!
彼女はそうして俺の隣に来て腕を抱き始めた。は、はぁ〜!マジ何この子!怖いんですけど!
お父さん、お母さん、僕ついに彼女が出来たみたい……。
「やっと見つけた〜。どこ行ってたの〜?」
俺が謎の妄想をしていると、今度はチャラそうな男の2人組がこちらを、厳密に言うと彼女に近づいて来た。
「あの、彼氏がいたので。」
「えぇ〜彼氏?ってマジじゃ〜ん。」
「ど、ども」
チャラ男なんて相手したことがなかったので、ちょっとコミュ障みたいな挨拶になったがまぁいいだろう。
「ちぇ、先取られたか……。いいや、じゃっまた遊ぼ〜ね〜。」
男は少し俺に睨みを飛ばしてきたがすぐににこやかな顔になり、手を振ってその場を去っていった。そうすると、女の子は俺に聞こえるほど大きいため息をついた。
「はぁ〜……。ようやくどっか行きました。」
その口調はさっきとは違い、かなりオラついてる口調になっていた。
「お、おい。どういうことだよ?説明してくれ。」
「え?あぁ〜変なやつに絡まれたので、適当な人と付き合ってるアピールしたら離れるだろうと思っただけですよ。」
なるほど。つまり俺は利用されていたと。ごめんお父さん、お母さんやっぱ俺、このまま童貞で人生終わるかもしれん。
「そんな事より、君、花吹学園の生徒ですよね。制服がそうだし。」
おっと、散歩しようと着替えがめんどくさくなって制服できたのを忘れていた。これ、あのチャラ男、学校まで来ないよな……。
「そうだけどなんだよ?」
「私、来年から新1年生なんですよね。」
「中学か?」
「高校だよ!そんな身長ちっちゃくねぇでしょ!それにそもそも中学入試無いですし!」
「あっ、わりぃ。素で間違えたわ。」
「ほんとに次言ったらどつきますよ?まぁそんな事はいいや。それでさ、学校案内してくださいよ!」
「なんでだよ。お前、中学からの繰り上がりじゃねぇのか?」
「はい。しっかり志望校としてここを受けましたよ。推薦ですけどね。」
秀才ちゃんなのかよ……。顔も良くて頭もいいとか……完璧だなぁ。花吹学園は、そこそこ偏差値の高い学校だ。そのくせ中高一貫校のせいで、生徒数は多く、頭もいい奴が多い。俺はその中でも中の上程度、つまり普通ってことだ。
「って、俺が今何年生ともわからずにそんな生意気で話してきたのか?もう少し様子くらいうかがえよ……。」
「顔に僕新1年生ですって書いてありましたし、別に普通に話してもいいかなぁって。」
「そんなわかりやすいかなぁ俺……。」
「どうでもいいですけど、案内してくれるんですか?」
「別にいいが、なんで俺に頼むんだよ。女子に頼めばいいだろ。」
「外部生なのに知り合いなんているわけないじゃないですか。それに今日の事もあったから都合も良いし。って、もしかして私が可愛いからこのまま付き合えたらいいなぁとかそんな自惚れた妄想しちゃってます?」
う、うぜぇ。顔がいいから小悪魔系って感じでこれはこれで萌えるけど実際やられると結構腹が立つ。
「別にんな事思っちゃいねぇよ。あと、自画自賛やめろ。」
「でも割と事実じゃないですか〜。それともこういう顔タイプじゃないんですか?」
「顔と言うより性格が嫌いだな俺は、表裏が激し過ぎるだろ。猫の皮かぶったやつを好きにはならねぇよ。」
8割本当2割嘘である。だって顔も仕草もいちいち可愛いもん。少しはドキッとする。少しだけど。
そう言うと、彼女は「ふ〜ん……。」と言って、すぐに話を切りかえてきた。
「じゃあ、教えてくれるってことでいいんですよね。学校始まるの4月頃からですけどその時はお願いしますね。」
「おう、よろしく。っとそうだ、お前名前は?」
「冬美ましろです。君は?」
「立花璃久よろしくな、冬美。」
「いきなり馴れ馴れしいですね……。」
「う、うるせぇ!」
小っ恥ずかしくなったのを誤魔化すかのように、怒鳴ってみせると冬美は楽しそうに笑っていた。
……あれ?俺、リア充じゃね?
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あのクリスマスの日から約4ヶ月後、山吹学園の入学式が始まった。まぁ、入学式と言ってもほとんどが中学からの繰り上がりか家の区画的にここの中学に通う事になった生徒だからな。受験で入ってくる高校生は合わせても100人行くかどうか……。だから廊下をほっつき歩けば10人に7人くらいは知っている。
だからなのか知らないが、一昨年ぐらいから入学式はテレビの映像で10分だけ、校内案内も地図を渡して仲良くなった人と随時見に行けと言うなんともやる気のない方法だ。
……仲のいい人なんていないんだけどね、俺。そう机の上でスマホをいじっていると後ろの席のやつに肩を叩かれた。
「よう!今年も一緒だな。これからまた仲良くしような!立花。」
そう言いその少年はニカッと爽やかな笑顔になった。
こいつは田辺慎。前のクラスではリーダー的な存在だったやつだが、"また"仲良くしようってお前、中3の頃俺とろくに話したことねぇだろ。すかしやがって!しかも、体育祭の時なんて「君、転校生?」とか言ってただろうが。しばかれてぇのかこいつ……!
「お、おう。よろしく田辺。」
無理やり笑顔を作り、やり過ごそうとすると、後ろのドアがガラガラと開き、一人の少女が入ってきた。そう、それはあの時出会った少女、冬美ましろの姿だった。
「何あの子!可愛くね!?」
冬美が現れると、俺と話してたことなんてなかったかのように、田辺は他の男子と静かに盛りあがり始めた。
「げぇ……。そういやあいつ、同じクラスだった……。」
周りに聞こえるくらい大きな声を出したが、俺の影の薄さからか誰からもこの発言を聞かれることは無かった。だが、唯一このセリフが聞こえたであろう冬美は、俺の存在に気づき、机の前まで近寄ってきた。
「そう言えば、立花くん同じクラスでしたね。これからよろしくです!」
「お、おう。」
可愛いなぁこいつ!?だが決して好意を抱いた訳では無い。というかこいつに好意を抱いたら負けな気がする……。
「「「ざわざわ……」」」
おっとこれは、見知らぬ美少女が存在すら認知されてない男と仲良くしている光景を見て嫉妬しているヤツらの目だろうか……。聞こえる一部では「誰だよあの男」だの「両方入学生?」とかいう声が聞こえる。まぁどうでもいいことだが。しかし、もう俺には平穏な一人高校生LIFEを満喫することは出来ないらしい。ガクンと肩を落とすと、今度は先生が教室に入ってきてさっきまで俺の事を睨みつけ、ざわざわとしてたことが嘘かのようにみんな席に着いていた。
「これから1年4組の担任になります木坂悠です。1年間よろしくお願いします。」
今年も貴方ですか……。去年も俺の担任である木坂先生は、普段は優しいのだが一度気に掛けられると口うるさく、少し言動が荒くなるよく言えば生徒思いの先生、悪く言えばお節介な先生なのだ。
まぁ俺がこんなことを知っているということは、俺が気に掛けられた第一人者なわけで……。
「これから始業式、校長先生からのお話が始まるので静かに聞きましょう。」
そう忠告した数秒後、モニターの電源がつき校長先生の顔がアップで映し出された。
「入学生の皆さん初めまして………………」
俺ら在校生からしたらいつものセリフなので眠そうにしているヤツが多い。俺ももちろんその一部だ。ふと冬美の方を見ると真面目に話を聞いて時折こくこくと頷いて、自分でも言ってたがほんとに優等生らしい。
「じゃあ自己紹介をしたいと思います。まず、1番の相葉くんから……」
おっと、冬美についてあれこれ考えてたらとっくに入学式が終わって自己紹介が始まっていた。
……変態みたいなこと言ってないか俺?
「はーいありがとう。じゃあ次、立花くん。」
「あっ、はい。立花璃久です、仲良くしてくれたら嬉しいです。よろしく。」
圧倒的効率のいい挨拶を済ませ俺はまた席に座った。ぼっち諸君には一見きついこのイベントだが、俺は一味違う。よろしくの前に仲良くしたいと言うことであたかも自分は別に仲良くしたくないわけでは無いという雰囲気を醸し出し、絶妙に薄い内容で終わらせることで俺の自己紹介をこいつらの頭の中で希薄化させるという完璧な作戦だ。これでこいつらから立花璃久という名を忘れさせ1人の空間を作り出すのだ。そう、これが真のぼっちなのだよ!
そう言い俺はくくくと小さな笑みをこぼした
こうして入学式のイベントがあらかた終わり、あっという間に帰りの時間がやってきた。
「ではここからは手元に配った地図を頼りに、お友達と学校探索を行ってください。なお、探索の必要のない者は速やかに下校ください。」
ふぅ〜……ようやく終わった。普段ならここで誰よりも早く帰宅するのだが、今回に関しては案内してやらなきゃいけないやつが出来た。……さっさと終わらせて帰ろう。
すると、またもや机の前に冬美が立っていた。
「早いな、お前。」
「そりゃあ何も持ってきてないですし。とにかく案内よろしくお願いします。」
「おう。さっさと終わらせるぞ〜。」
そう言った俺は足速に教室を出てそれに続き、冬美もその後を着いてきた。
はぁ〜……これは長くなりそうだ。
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