第94話 『空とセーヌの間』 柊圭介さん
〇作品 『空とセーヌの間』
https://kakuyomu.jp/works/16817330658399775735
〇作者 柊圭介さん
【作品の状態】
俳句・完結済。
【コンテスト】
「第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト」に応募されています。
【セルフレイティング】
なし。
【作品を見つけた経緯】
柊さんの作品は他にも読んだことがあり、どんな俳句を作っていらっしゃるのか気になったので読んでみました。
【ざっくりと内容説明】
フランスの都市、パリに住んでいらっしゃる作者さんが、普段見ている風景を写真に撮ったような俳句です。
【俳句の話】
作品の感想に入る前に、私の俳句のレベルのことを一応話しておきます。
私はカクヨムさんがコンテストを開催するまで、俳句のことをまともに勉強したことがありません。学校の授業で学んだことは覚えているのですが、面白さを見出せなくて「五・七・五のリズムで作る」しか記憶になかったのです。
ですが、今回カクヨムさんがコンテストを企画して、色んな方が出しているのを読んでみたら面白く、感想を書いてみたくなりました。
しかし人様の作品に感想を書くには、俳句の基礎くらいは知っていないとまずいと思い、今回これを書くにあたって、俳人の夏井いつき氏の著書を数冊買って勉強しました。
それによって、俳句がどういうものであるべきか、どう鑑賞すればよいか、という最低限(初心者レベル)のことは抑えたつもりです。
とはいえ、俳句の世界は奥深く、初心者の私が誰かしらの作品を分かったように語るのは、変なことなのかもしれません。
しかし、夏井氏の著書に「俳句を鑑賞するとは、作者が込めた思いは何なのか、どんな思いで詠んだのかを自身の想像力を総動員させることによって、作者が描いた世界を思い描き、共有する作業です。ただし、解釈のしかたには正解がないから、読み手によっていかようにも受け取っていい」(夏井いつき著『夏井いつきの超カンタン! 俳句塾』より)と書いてありました。
これを読んで、素人の私でも感想を書いてもいいかなと、背中を押してもらったので、今回は柊さんの作品をご紹介しようと思います。
【感想】(勝手な解釈が入っています。ご了承ください)
まるでパリの風景を切り取ったかのような俳句です。
二十ある句を順番に読んでいると、「朝」「夕陽」「日が昇る」という言葉があるので、(連続する)朝から次の日の朝までを詠んでいるのかなと思いました。それと、『空とセーヌの間』とあるので、場所もセーヌ川の周辺で、その空の下で起こっていることを表現されているのかなと。
季語が入っていない句もありますが、二十の句が一つの作品だと考えると、全体的に「冬」の作品なのかなと思います。(……と書きましたが、初心者の私には本当のところは分からないのですが)
まずはどういう作品があるのか、一つご紹介いたしましょう。
>オランジュリー朝の睡蓮ひとりじめ
という一句。
「オランジュリー」というのは、「オランジュリー美術館」のことかと思います。そこには、印象派の画家クロード・モネが残した『睡蓮』という大きな作品があって、きっと作者さんは朝の時間にここに訪れたのかなと、私は想像しました。
また、「ひとりじめ」ということから、他に誰もいなかったことが伺えます。
よって、この句からは、モネの『睡蓮』を作者さんが一人で見ていた特別感が感じられると思いました。
折角なので、もう一句見てみましょう。
>振り仰ぐルーヴルの背に夕陽さす
副題にもなっている作品です。
私の解釈が間違っていたら申し訳ないのですが、掘り下げると面白いと思いました。(鑑賞の仕方は、夏井氏の著書に書いてあった方法を用いています)
まず、「振り仰ぐルーヴル」とあります。
「ルーヴル」は「ルーヴル美術館」のことですね。それを「振り仰いでいる」。
「振り仰ぐ」とは「頭を上に向けて高いところ見る」(『明鏡国語辞典 第三版』より)ということ。作者さんは、低い位置から高い建物であるルーヴルを見上げているということが分かります。ここから何となく、建物との距離が近いことも感じられます。
次に、グーグル・マップで「ルーヴル美術館」を調べます。(「夕陽」がこの場面を解読するのに大事なことだからです )
調べてみると、「ガラスのピラミッド」がある方向が西側。ということは、日はそちら側に沈む。それを作者さんが見ている。
となると、この句は多分、「ルーヴル美術館」の建物の東側にいて、夕陽が建物の背中(西側)を照らしていることが分かります。
最初これを読んだとき、「作者さんは朝からルーヴル美術館にいて、(中庭にいた際に)夕方に帰ろうとしているのかな」と思ったんです。
でも、前後の句を読む限りそうではなさそう……。
そのため、寒空の下、ルーヴル美術館の建物が西側にある道を歩いていて、建物に夕陽がかかり、逆光になったルーヴル美術館を作者さんは見ているんじゃないかと思いました。きっとそれが印象的だったんだろうなと、私は感じたのですが……、違っていたらすみません(汗)
読み方が合っているかどうかは別として、この句は私にとって気になる作品でした。
俳人である夏井氏が「俳句は作者から読者に投げられた『なぞなぞボール』です」(夏井いつき著『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句鑑賞の授業』より)と著書に書いてあるのですが、この作品は特に「なぞなぞボール」を投げかけられているような感じがしたのです。
作者さんは読み手に、どういう場面を想像してもらいたいんだろう――。
そんなことを思いながら、この俳句の意味を考えました。私の力不足で的外れな解釈かもしれませんが、想像を巡らせるのは楽しかったです。
色々書きましたが、どれも初心者にとってとっつきやすい内容になっていると思います。
名句はもちろん、凝った難しい俳句も奥深くて素敵ですが、初心者には知識がないので難しいときもある。でも『空とセーヌの間』では、予備知識がなくても、すっと分かる内容になっているのではないかと思うのです。
形も全て「五・七・五」のリズムになっています。それが、初心者である私にとってはとにかく読みやすかったです。
気になった方は、是非俳句で作者の柊さんが見ているパリを堪能してみてください。もし時間があるなら、一つずつ丁寧に、じっくりと。何度も繰り返して。きっと、素敵な風景が見られるのではないかなと思います。
今日は『空とセーヌの間』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
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