第92話 『小さな勇気とラッキースター ~ 創作を愛するすべての人たちへ…… ~』 四谷軒さん

〇作品 『小さな勇気とラッキースター ~ 創作を愛するすべての人たちへ…… ~』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330651375940710

 

〇作者 四谷軒さん


【作品の状態】

 短編・完結済。


【セルフレイティング】

 なし。


【作品を見つけた経緯】

 カクヨムサーフィンしていて見つけました。


【ざっくりと内容説明】

 時代は19世紀。日本人が、印象派の画家のクロード・モネに会う話です。


【感想】

 上質で、ゆったりとした時間が流れるような作品です。印象派の流れを汲み取り、モネの当時の状況をきちんと反映した見事な最後に、良い読後感を味わえました。


 時代は1921年。舞台はフランス・パリ郊外ジヴェルニーにある、クロード・モネの屋敷。その場所に、松方幸次郎と矢代幸雄やしろゆきおが向かうと言う話です。


 松方幸次郎は「かの元老、元・内閣総理大臣、松方正義の令息であり、かつ、川崎造船所の社長である。そして彼は御年五十五歳」(『小さな勇気とラッキースター ~ 創作を愛するすべての人たちへ…… ~』より引用)の人物。


 なんだかすごい人だと言うことはお分かりになるかと思いますが、彼の情報で最も重要なのは、この時代に西洋美術の作品を多く集めていたということ。作者さんが「しゅうしゅう(収集)」に対して、あえて「蒐集」という漢字をあてていたことから、主に「趣味研究のため」に集めていたことが伺えます。


 一方の矢代は美術に関しては、ひとかどの見識を持ってはいるものの、まだ31歳の若者。とはいえ、松方は矢代に対して一目置いているようで、フランスに来た彼に「クロード・モネの邸へ行こう」と誘うのです。


 さて、クロード・モネ(クロード=オスカール・モネ)といえば、西洋絵画で印象派の巨匠のことです。

 1840年にパリで生まれ、10代の中頃にはすでに絵の才能の片鱗が見え始めていました。18歳のときに風景画家ウジェーヌ・ブータンから絵画を学び、後に絵画の友人たちと共に切磋琢磨しながら作品を作るようになっていきます。


 モネのことは、少しでも絵画の歴史をかじったことがあれば絶対に知っている名前ですが、彼の名前を知らなくとも、ネットの検索欄に「クロード・モネ」と入れて画像検索をすれば、きっと見たことがある絵がずらりと並ぶことでしょう。

 その柔らかいタッチと光ある風景を好む日本人は多いようで、カレンダーやジグソーパズル、ポストカードにもなっています。(日本で作っている商品かどうかはわかりませんが、ネット通販で買えます)


 モネの絵で有名なのは『睡蓮』。これは『小さな勇気とラッキースター ~ 創作を愛するすべての人たちへ…… ~』にも登場する作品です。

 モネが、松方と矢代と会う、ジュヴェルニーの自宅兼アトリエに住んだのは1890年。このアトリエには睡蓮が浮かぶ庭園があり、モネは晩年(1910年以降)はそれをモチーフにした作品を連作として残しています。


 私はモネの作品が好きで、彼の作品について調べたことがあります。

 日本の文化が好きで、浮世絵などにも影響を受けたというモネ。しかし、日本人と直接的なかかわりがあることはこの作品を読んで知りました。


 作品を読んでいて素敵だなと思ったのは、松方、矢代、モネの人柄がにじみ出ていたこと。

 松方は雲のように掴みどころのないようなところがあるのですが、陽気で、でも見えないところでどっしりと構えているところがいいです。

 そして矢代。謙虚ではあるのですが、美術に対して熱心。故に、最後にモネに一言言って、彼と「変な色」についてのやり取りをするところにはぐっと来ました。このやり取りは興味深かったです。


 最後にモネ。私はこのお話を読んで、自分自身がモネと出会ったような心地がしました。

 モネの作品は全体的に明るいものが多く、人の傍にある何気ない自然をモチーフにしたものが多かったので、多分大らかで、気さくな方なんだろうなと思っていたので、その通りの印象で嬉しかったです。

 まさかフランス語があまり分からない日本人と、あれほど意気投合しているとまでは想像していませんでしたが(笑)、彼らの過ごす時間に自分を混ぜてもらったようで、作品を拝読しとても充実した時間を過ごせたような気分になりました。


 今日は『小さな勇気とラッキースター ~ 創作を愛するすべての人たちへ…… ~』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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