5月 May
第83話 『コーヒーブレイク・ブロークン』 一宮けいさん
〇作品 『コーヒーブレイク・ブロークン』
https://kakuyomu.jp/works/16816700427119261225
〇作者 一宮けいさん
【作品の状態】
40,000字程度のエッセイです。完結済。
【セルフレイティング】
なし。
【作品を見つけた経緯】
一宮さんの作品は以前も読んだことがあり、また読んでみたいと思って作品を捜したところ、『コーヒーブレイク・ブロークン』を見つけました。
【ざっくりと内容説明】
作者さんが大学生だったとき、同じ大学に通っていた「翼くん」との思い出を語ったエッセイです。
前半は彼と過ごす日常と
【感想】(主観的な内容です)
一宮さんの作品を読むのは二作目。前の作品を読んでも思いましたが、文章が淀みなく紡がれていくので、とても読みやすいです。
さて、この作品をどう語ろうか。
と、読み終えてからずっと思っていました。文章はするすると読めるのに、内容が盛り沢山なんです。それは多分、私が気になっている話題を結構取り上げていたから、というのもあるかもしれません。そのため大きく二つに分けて書こうと思います。
〇ろうの子どもたち〇
その一つが、「ろう者」の話です。
私は難聴者やろうの話には結構敏感です(難聴者とろう者は似て非なるものと言われることがあります。この辺りの考え方はすごく難しいと個人的に感じます)。働いていた店のお客さんのなかに、耳に障害がある方が数人いて、その方々とやり取りとしたことがあるのがかなり大きいと思います。
耳が不自由な人たちが使うコミュニケーション手段に、「手話」があることは皆さんもご存じのことでしょう。
しかし手話は、ただその手の形だけをすればいいのではありません。表情もとても重要なんです。
ろうの方の多くが、感情や表情の表現が豊かである方が多いのは後で知ったことですが、私が知っているろうの人たちもそうで、相手がどう思っているのかいちいち気にする私にとっては、お話しするのがとっても楽しい方たちでした。
そして、それ以上にすごいと思ったのは、こっちの話を一所懸命に聞いてくれる姿。頷きも大きいですし、伝わっているという感覚が分かりやすいんです。
まあ、私の知っているろうの方の話はこれくらいにして(笑)
『コーヒーブレイク・ブロークン』で読んだろうの話は、私が知っている世界とは少し違いました。知らなかった、というのもあると思います。そのうち特に驚いた三つのことを、以下に取り上げようと思います。
最初に驚いたのが、次の一文です。
>今の子どもは小さい時に聴覚障害が発見されると、人工内耳という器具が付けられる。人工内耳は赤ちゃんぐらいの時に耳の中に機器が埋め込まれ、外につける体外装置によって音を拡声させるのだ。
人工内耳というのは、上記に説明があるように「耳の中に機器が埋め込まれ、外につける体外装置によって音を拡声させる」ものです。技術の進歩とはすごいですよね。ろうの人も、「話せる」ようになります。(といっても、健聴者のものとはまた違うのですが、それはこの作品をお読みになると分かります)
ですが、体に機械を埋め込むということはMRIなどの検査は受けられなくなります。あれは電磁波を使っているので、機械が壊れてしまうことがあるのです。
MRIを使うかどうか分からない未来よりも、ろうの子たちに音を知ってほしいと思う親の気持ちからなのか分かりませんが、これを知ったときはちょっと驚きました。
次に、印象に残っている一文を引用いたします。
>「わたしはろうであることにプライドがある。生まれ変わっても“ろう”になりたい」
これは作者である一宮さんが、聴覚障がい児施設でのバイト先でろうの子から聞いた言葉だそうです。
この一言を読んだときに「なるほど」と思いました。
何故そう思ったのかというと、手話の世界の豊かさを感じるからなのかなと想像したからです。
私は子どものときに授業の一環で手話を習ったんですが、いざ仕事でろうの方と話した際に、何にもできなかったんです。自分の名前の表し方や挨拶もやったはずなのに覚えておらず、ちょっと悔しかったので仕事をしながらちょこちょこと勉強をし始めました(しかし、未だに挨拶程度しかできないという……笑)。
今は、動画などもあるので本当に有難いと思うのですが、手話は一つひとつの形や動作にちゃんと意味があるので、知るとその奥深さを感じると思います。
例えば「ごめんなさい」「すみません」などの謝るときの動作は、右手で眉間をつまむようにした後、手を開きながら前に出します。この「眉間をつまむように」という仕草。言葉のなかにも「眉間にしわを寄せる」という言い方があるように、迷惑や、不快のような意味がありますが、手話でもそれを表現しているのです。
何というか、手話を使う人たちは、手で作る形の意味を感じながら「手話」という言葉を使っているように思います。私たちが何気なく言っている「おはよう」「こんばんは」「おいしい」などの、そういうものも手や表情を使うことによって、より豊かになると感じるのです。
*ちなみに、手話は国によって違います。指文字(五十音に対応するもの)のなかには、ローマ字と同じ表現をするものもあります。
そして三つ目を引用します。
>《 健聴者って大変ね 》
これは作者さんが、バイト先の聴覚障害施設にいる子どもたちとボーリングに行ったときに、ろうの子が手話で言った言葉です。
ボーリングの場所ってうるさいですよね。私もうるさいので、耳栓をしてしまいます(笑)
でも、ろうの子たちはうるさいところに行くと、補聴器などを取って(ろうのすべての人がそうであるかは分かりませんが、ろうの子も付けています)、手話で話しをします。それはもう、当たり前のように。
それは確かに、会話がスムーズにいくという点で、手話の長所を活かしていると思います。本当にそれは間違いないと思いますが、「健聴者って大変ね」をその子が言ってしまうのか……と複雑な気持ちになりました。
これはもしかしたら、私たちが何気なく「耳の聞こえない人は大変ね」と言ってしまっていることで、言わせてしまった言葉なのかなと。
うまく言えませんが、悲しいなと私は思いました。
答えの出ない話ですみません。でも、この作品は本当に色んなことを考えさせられます。
〇翼くんの話〇(ネタバレ……というか、読んだ方にしか分からない感想です。ごめんなさい)
ろうの話がだいぶ長くなってしまいましたが(汗)
もう一つ大事な話である「翼くんの話」をします。
翼くんは、作者の一宮さんと友達の関係から恋人に進むか……⁉ と思いきや、なんか分からんのですが、一宮さんから目を背け向き合うのを(一宮さん的には「友達」すらも)やめてしまった方です。
話を読んでいて思ったのは、仮にも一宮さんが一瞬でも「好き」と思った相手ではありますが、付き合わなくてよかったかも、ということ……。
ただ、翼くんは『アンパンマン』に出てくる「ロールパンナちゃん」みたいだなと、私は読んでいて思いました。何故なら、一宮さんと一緒にいた翼くんが、チャラいけれども素直な感じの子のように思えたから。
一宮さんとデートに行く前に何があったのか分かりませんが、何かの拍子で気持ちがひっくり返ってしまったのでしょう。その後の翼くんは「どーしてそうなっちゃうのさ」、と呆れてしまうくらいひどいことをします。
わざと恋人を見せつけるようにしたり(これは分かりやすすぎる)、喧嘩を売るようなことを言ったり。
傷つけたくてやっているとしか思えないんですよね……。
みんなにそうなのか、一宮さんにだけそうなのか。そういうことも全て推測でしかないのですが、折角あった彼のいいところも消えてしまったようには思いました。(それは一宮さんが翼くんに惹かれていた部分でもあると思うんですけど)
ついでに「曾根田くん」のことも話しておこうと思います。
一宮さんの後輩である「曾根田くん」という子も偶に登場するのですが、後半の方で、19歳の彼が22歳の一宮さんに「おばさんで、これまで付き合った人がいる中古車でもいいですよ」と言って口説、……口説いては……いないか。とにかく、面と向かってそう言い放つんです。
でも「曾根田くん」の中古車の定義、なんか変ではありませんか?
「これまで付き合った人がいる」ということであれば、「付き合った人がいない」のは「新車」ということですよね。
そして「曾根田くん」は「中古車」を馬鹿にしているような節があります。ということは、「曾根田くん」は「新車」ということですよね。まさか自分が「中古車」でありながら、「中古車」を馬鹿にするなんて……ないですよね?
「中古車」を馬鹿にしている「曾根田くん」ですから、「新車」を特別に思っているはず。でしたら、何故一宮さんに易々と「付き合おう」というのか意味不明です。「新車」が大切なら、自分もいつまでも「新車」でいたらいいじゃないですか。わざわざ「おばさんで、これまで付き合ったひとがいる中古車でもいいですよ」(*22歳はおばさんではないし、付き合った人がいても中古車ではないと思います)と自分で見下した人と付き合おうとしている、「曾根田くん」の考える定義がちんぷんかんぷんです。……と思うのは私だけでしょうか。
まあ、きっと一宮さんがおっしゃるように「ヤバイ方」のようなので、何を申してもテキトウに
彼に関わる人たちは苦労するだろうなと思うと、なんだか気の毒に思います……。
〇まとめ〇
まとめってほどのことでもないんですけど……。今回はだいぶ思ったことをぐちゃっと書いてしまいました。でも、一宮さんの作品って、読んでいると自分の色んな考えが出てくるんですよね。いい方向のものでも、悪い方向のものでも。
だから、私は語りたくなってしまいます。
ということで、好き勝手に語らせてもらいました。「なんのこっちゃい」みたいな感想文になってしまいましたが、きっと『コーヒーブレイク・ブロークン』をお読みになり、想像力が掻き立てられてしまう方は、同じように思うと思います(多分)。
今日は『コーヒーブレイク・ブロークン』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
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