第82話 『【KAC2023⑥】シュレーディンガーの7』 鐘古こよみさん

〇作品 『【KAC2023⑥】シュレーディンガーの7』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330654375252722

 

〇作者 鐘古こよみさん


【作品の状態】

 短編・完結済!


【セルフレイティング】

 なし。


【作品を見つけた経緯】

『【KAC2023⑤】ルネサンス筋肉小話~レオナルドVSミケランジェロ~』を拝読してから、鐘古さんのほかの作品を読んだ際に見つけました。


【ざっくりと内容説明】

「モンティ・ホール問題」と「シュレーディンガーの猫」を取り入れた作品です。分かると頭がよくなった気がします(笑)



【感想】(ネタバレしてます&紹介者の勝手な解釈が紛れています。お気を付けください)


 面白かったです。

「モンティ・ホール問題」から始まり、「不運」と「シュレーディンガーの猫」がよくミックスされている話だなと思いました。


 はじめ、店主は「モンティ・ホール問題」の確率論を用いて客を出迎えると、ある商品を提示します。商品とは「知りたい不運のパターンが分かる箱」というもの。


 箱の名は「シュレーディンガーの7」とか「アンラッキーセブン」とか言われているらしいのですが、知らない人からしたら何のことやらですよね。ヒントは「シュレーディンガー」という名前。これはシュレーディンガーがコペンハーゲンの解釈を否定するために用いた思考実験「シュレーディンガーの猫」から来ているのですが、このことを知らない方でも店主がちゃんと説明してくれます。



*****

「1時間以内に50%の確立で毒ガスが発生する箱の中に、猫がいる。1時間後に猫が死んでいるかどうかは、箱を開けるまでわからない」

(『【KAC2023⑥】シュレーディンガーの7』より)

*****



 要は、「猫が死んでいるかどうかは、箱を開けるまでわからない」ということは、「箱を開けるまでは、猫が『生きている』と『死んでいる』というあり得ない状況が存在している」というのを言いたいんです。


 そして、店主は言います。



*****

お買い上げになられた方が見たい、知りたい不運が7パターン、この中に入っているのです。ただし箱を開けるまでは、どれも実在しません。

*****



 ですが、こんな風に言われてもよく意味がわかりませんよね。

 そこで店主は、何パターンか例えを出してくれます。


 私は一度最後まで読んで、「これは、成功したい人なら手に入れたいかも」と思ったのですが、日を改め何度か読み直してよくよく考えたところ、「不運を知らないために」買ったのかなと思うようになりました。


 最初に店主が、「箱を開けた途端、その不運は、現実のものとなります」と言うのですが、それは「開ける前は現実にはならない」ということです。


「シュレーディンガーの猫」は「箱を開けるまでは、猫が『生きている』と『死んでいる』というあり得ない状況が存在している」、つまり「二つの事象が重なっている」という思考実験であると書きましたが、そもそも人生はそういうものです。というより、人生のほうがその状況がいくつも重なっていますよね。


 しかし箱を開けてしまったら、それが現実(=実験の結果が分かる)になるということなのかなと。そう考えると、経験しなくてもよかった不運を経験することになるんですよね。まあ、不運があっという間にくるようですから、使いようによってはさっさと済まることはできますが、「現実」になってしまう……というのが使い勝手の悪さかなと(こんなこと言ったら、店主に怒られそうですね 笑)


 ですから、最後に店主があのセリフを言ったとき、客が高価だけども「シュレーディンガーの7」を7つも買ったのは、「開けないままでいるからなのかな」と私は解釈しました。


 でも、この作品は読んだ人によって、結果がいくつかのパターンに分かれるのかなと思います。(本当はちゃんと落ち着くところがあるのかもしれませんが、私はもう十回は読んでいるんですけど、読むたびに解釈が変わっています……笑)


 私はこのように考えしましたが、気になった方は是非読んでみて、「こういう読み取り方もできるかな」と想像を膨らませてみてはいかがでしょうか。



 今日は『【KAC2023⑥】シュレーディンガーの7』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。







*おまけ*

【「モンティ・ホール問題」とは?】

「モンティ・ホール問題」とは条件付き確率の話です。内容を下記に提示します。



*****

0、三つの扉があります。そのうち、一つは正解で、二つは不正解です。

1、挑戦者は三つの扉なかから一つ選びます。

2、司会者(モンティ)は答えを知っており、残り二つの扉のなかで不正解の扉を一つ選んで開けます。

3、挑戦者は残り二つの扉の中から好きな方を選べます。このとき扉を変えるべきでしょうか? それとも変えないべきでしょうか?

(『高校数学の美しい物語 モンティ・ホール問題とその解説』を参照)

*****



 こういう感じの内容です。

(実際アメリカで大問題になった確率の問題らしいのですが、その辺りの経緯はここでは割愛いたします。お知りになりたい場合は、「モンティ・ホール問題」と検索すると出てきますのでご参照ください)


『【KAC2023⑥】シュレーディンガーの7』では、店主が「可愛いヤギが見えました」と聞いているのですが、「モンティ・ホール問題」を議論するとき、挑戦者が不正解の扉を開くとヤギが出るのが通例のため、作中では「ヤギ」が登場しています。


 ちなみに「3」にある「挑戦者が扉を変えるべきか? 変えないべきか?」に、皆さんはどう答えるでしょうか。


 もし、「最初に選んだときと確率は変わらないんだから、変える必要はない」とお答えになったら、この問題では不正解です。正しくは「変えた方がいい」。何故なら確率が上がるからです。


「なんで?」と思う方もいることでしょう。私も最初は「なんで?」と思ったのですが、想定できる状況を書き出してみると「変えた方が正解の確率が上がる」ことが分かります。


『【KAC2023⑥】シュレーディンガーの7』では「あなたは扉を選び直しましたね」とあるので、選び直すことで確率が上がったことを示しています。ただし確率の問題なので、「選んだ扉を変えることで、絶対に正解の扉を開けることができる」わけではないんです。

 ですから「いえ、そうしなければ辿り着けない仕様になっているんです」という店主の言葉は、意味深だなと私は思いました。

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